半妖の美点と強者の心得

 夕方。終業時間をとうに過ぎていたが源吾郎は帰り支度をしていなかった。萩尾丸から話があると言われた為である。先輩たちの言葉に従う事には苦痛は無かったし、そもそも残業にも馴染み始めていた源吾郎だった。だから話があると聞いて大人しく会議用のテーブルに向かったのだ。

 既にテーブルには師範たる紅藤や兄弟子たちの姿もあった。終業時間を超えているので飲み物を片手に休憩しているが……これも紅藤や兄弟子たちの普段の様子である。強いて言うならば、雪羽がこの場に居合わせない事が気になりはした。下座の椅子に腰を下ろすと、それを待っていたかのように姉弟子のサカイさんが飲み物を運んでくれた。


「初勝利おめでとう、島崎君」


 上座に座っていた紅藤が源吾郎を見据えて微笑む。源吾郎はここで、師範や兄弟子たちが、自分の今日の功績を讃えるために集まった事を悟った。

 ありがとうございます。たどたどしく礼を述べると紅藤は言葉を続ける。笑みを浮かべているものの、むしろ喜びよりも驚きの念の方が強そうだ。


「正直な事を言うと、こんなに早く島崎君が勝利を掴むとは私たちも思ってなかったの。雷園寺君も確かに若くて経験は浅いけれど、戦士としては申し分のない素養の持ち主だったから……」

「もっとも、雷園寺君もその事を知っていたから、多少は油断していた所もあるでしょうがね」


 おどけたように言い添える萩尾丸に鋭い一瞥を投げかけたのち、紅藤は平然とした様子で言葉を続けた。


「もしかしたら、早く勝利を掴めたのも半妖として、いえ島崎君に流れるかもしれないわね」

「人間の血の……恩恵ですか」


 思いがけぬ言葉に源吾郎は目を丸くした。源吾郎は人間の血が四分の三混ざった半妖であるのだが、その強さの根源は妖狐の血によるものだと信じて疑わなかった。

 敢えて紅藤が人間の血の恩恵だと言ったのはどういう事であろうか。術者だった祖父の事を言っているのかもしれないと、源吾郎は解釈し始めていた。源吾郎の容姿は実の父に生き写しであるが、能力や気質はむしろ祖父母や叔父たちの傾向が強い。それならば合点がいく。

 ところが、紅藤が言い添えたのはそういう事ではなかった。


「島崎君もご存じの通り、人間と妖怪では成長速度や寿命が違うでしょ? 現に島崎君だって、年齢相応の姿をしている訳ですし。術の習得や成長の度合いが普通の妖怪よりも早かったという可能性もあると、島崎君を見ていて思ったの。

 半妖は純血の妖怪よりも弱いってよく言われるけれど、それがのよ。むしろ両者の長所を受け継いで、両親よりも強い個体が生まれる可能性だってあるらしいのよね」

「うーん。そう言う事もあるのかもしれませんね」


 文字通り狐につままれたような気分だったが、源吾郎は静かに頷いていた。


「特に両親の良いとこどりって言うのは、両親が違う種族だと時々あるって鳥園寺さんに教えて貰ったんですよ」


 鳥園寺さんは工場勤務の術者であるが、鳥絡みの件で源吾郎もよく相談を持ち掛ける事があった。源吾郎はそして、彼女の鳥類や生物学的な知識に敬服してもいたのである。だからこそ、異種族交配の仔は良いとこどりで生まれるという言を素直に信じてもいた。


「それはきっと雑種強勢の事ね」


 紅藤はすぐに源吾郎の言わんとする事を把握したらしい。やはり彼女もリケジョの親玉だけある。


「だけど島崎君の性質は雑種強勢とは違うわ。雑種強勢は第一世代の仔に当てはまる話ですからね。ですから雑種強勢があるとなれば、島崎君ではなくて親の三花さんたちに関連する話になるわ。島崎君はむしろ、先祖返りとか突然変異に近いのかもしれません」

 

 源吾郎は小さくうなりつつも頷いていた。自分が先祖返り、或いはある種の突然変異である事は何となく解っていた。兄姉たちは人間に近い存在である事を常に感じながら育っていたからだ。兄姉たちと源吾郎は同じ父母から生まれた存在であり、妖狐の血の濃さは理論上は同じであるはずなのに、である。


「ともあれ、技を磨いて研鑽する事も大切だけど、自分がどのような特性を持ち合わせているのか、それを把握するのも大切な事よ。島崎君は人間の血を引いている事を枷だと思っていたみたいだけど、人間の血にも利点はあるという事なの」


 紅藤はそこまで言うと、満足げに微笑んでからカップの桃茶で喉を湿らせていた。紅藤の講評は半妖という源吾郎の出自を慮っての事なのかもしれない。しかしそれ以上に、彼女が人間を好意的に見ている事の裏返しであるようにも思えた。

 妖怪、特に高位の妖怪は人間に対して中立な立場を取る事が多い。そんな中で、紅藤の言動の節々には人間を好意的に思うものが多分に含まれていた。源吾郎が半妖であるからそう言った態度を取っているという感じではない。むしろ源吾郎の出自とは無関係に人間に関心を持っているという風情だった。

 それは元人間の萩尾丸が一番弟子だからなのか、他の理由があるからなのかは定かではないけれど。



「そう言えば雷園寺君の姿が見えないんですが」


 頃合いを見計らい、源吾郎は思っていた事をぶつけてみた。雪羽がこの場にいない事はずっと不思議に感じていた。源吾郎の勝利を祝い讃える場であるから、雪羽には居心地の悪いひとときかもしれない。しかしだからと言って雪羽を爪弾きにするような真似をするとは思えなかった。


「雷園寺君ならもう帰ったよ。厳密には帰らせた、と言った方が正しいかな」


 源吾郎の問いに応じたのは萩尾丸だった。雪羽がこの場にいない理由は明らかになったが、源吾郎の心中では新たな疑問が浮かんでもいた。

 現在雪羽は萩尾丸の許で暮らしている。始業時は萩尾丸の車に乗せられて出社し、終業時も萩尾丸と共に帰るのが常だった。萩尾丸は実は転移術の使い手でもある。その気になれば片手間で雪羽を研究センターから学生街にある自宅に移動させる事も出来るのだ。しかし雪羽が転移術で帰宅する事は殆ど無かった。雷獣故に感覚が鋭い彼は、転移術の際に感じるを嫌がったためだった。

 萩尾丸がここにいて雪羽が帰っているという事は、萩尾丸の転移術で戻ったという事に他ならない。揺らぎがもたらす気持ち悪さの嫌悪を我慢してまで帰ったという事だ。そして、そう言った心境になる事について源吾郎は十分に心当たりがあった。


「雷園寺君、僕の前では普通に振舞ってましたけど、やっぱり落ち込んでるんですかね」

「表面上は何事もなかったかのように振舞っていたけどね。そりゃあ雷園寺君とて負けた事に関して色々と考えているはずだよ、彼なりにね」


 萩尾丸は直截的な言葉は口にはしなかった。だが、雪羽が今回の勝負の結果に落ち込んでいるという事ははっきりと解った。やっぱり落ち込むよな……源吾郎はしんみりとした思いを抱えていたのだ。


「島崎君、島崎君。何も君まで辛気臭い表情を見せなくて良いだろう。君は念願かなって雷園寺君を打ち負かす事が出来たんだからさ。むしろ喜べば良いじゃないか。僕の部下である若狐たちだって、島崎君に一目を置いてくれたみたいだし」

「確かに、萩尾丸先輩の仰る通りだと僕も思います。しかし、雷園寺君があのタイマン勝負にあんな願掛けをしているなんて知りませんでした」


 源吾郎の呟きを聞くと、萩尾丸は軽くため息をついた。紅藤たちが目配せしているのを見、源吾郎は少しだけ身構えた。タイマン勝負の願掛けの事で、雪羽が萩尾丸に叱責された事を思い出したのだ。煽り好き炎上トーク好きの萩尾丸の事だ。まさか叱責される事は無いだろうが、厭味の一つや二つは言われるかもしれない。

 島崎君も願掛けの話は知っていたんだね。妙に物憂げな萩尾丸の言葉に、源吾郎は頷く。


「雷園寺君が願掛けをしている事を知って、それで君も戸惑っていたんだね。ああ、君は本当に優しい子だねぇ」


 萩尾丸の言葉に、源吾郎は思わず目を丸くした。その声には、源吾郎の優しさを揶揄したり皮肉ったりする気配が一切なかったのだ。素直にそう思ったから口にした。そんな感じの物言いだったのだ。


「優しいだなんて……ちなみにそれは誉め言葉ですか」

「優しさは人間社会のみならず、妖怪の世界でも美徳の一つです」


 萩尾丸が応じるよりも早く紅藤が断言した。


「上に立つには非情に徹する事も迫られる事は確かにあるわ。だけど、いざという時に冷徹になれる気構えは訓練次第で後から身に着けられるわ。だけど優しさを身に着けるのは……とても難しい事なの」

「まぁ僕なんぞは、島崎君の優しさに多少の危うさは感じるけどね」


 ややあってから、萩尾丸も問いに応じた。


「優しさを向けるのが、善良な相手ならば特に問題は起こらないだろう。だけど他者を利用してはばからないような相手にも優しくしちゃいそうだもんねぇ。コロっと騙されて利用されまくってボロ雑巾のようにポイ捨てされる気配がさ、島崎君からは見え隠れするんだよ」

「お坊ちゃん育ちだから甘っちょろい考えだって仰りたいんですよね。その甘さがマズい事は俺も何となく解ってますよ」


 源吾郎は少し語気を強めて言い返した。萩尾丸の言葉に若干苛立ちを覚えてしまった。自分の考えが甘い事は自分でも薄々気付いていたからだ。雪羽と初めて出会ったあの日、崩落するグラスタワーの脅威から彼を救ったのも源吾郎の持つ甘さゆえの事だったのだから。


「それに島崎君。甘かろうが何だろうがさておきだね、無闇に他妖ひとの辛さや苦しさをしょい込んでもしんどくなるだけだよ。

 君の考え通り、雷園寺君は確かに落ち込んでいるよ。だけどそれは雷園寺君自身の問題に過ぎない。君が何を思おうが、雷園寺君が立ち直るかどうかは雷園寺君自身にかかっているんだから。むしろいっそ、勝手に落ち込んでろって思っても問題ないんだよ?」


 萩尾丸。それまで黙って話を聞いていた紅藤が短く一喝する。


「島崎君はさておき、あなたが雷園寺君に対して『勝手に落ち込んでろ』というスタンスでいては駄目よ。そこは解ってるわね」


 もちろんですとも。大真面目な紅藤の言葉に対し、怯む様子もなく萩尾丸は頷く。


「今日はひとまず休ませて様子を見るつもりです。場合によれば明日有給休暇を取らせる可能性もありますし、三國君に連絡して一旦引き取ってもらう事もあるかもしれません。まぁ彼次第ですね」


 上司に対する報告という事で、萩尾丸の言葉は一応畏まったものだった。

 そう言う訳でだね、と告げるその時には、萩尾丸は普段の親しげな表情を見せていたが。


「まぁ僕自身は雷園寺君の世話係として色々とケアしないといけないだろう事も考えないといけないんだ。だけど今回の一件については、雷園寺君もすぐに立ち直るだろうと僕は思ってるよ。

 雷園寺君もあれで危うい所はあるにはあるけれど……今回の一件で立ち直れない程やわな子でもないだろうし。もしそうだとすれば、ずっと前に潰れていただろう」


 だが今回落ち込んでしまったのも、ある意味雷園寺君自身の問題でもある。淡々とした調子で萩尾丸は言い足した。


「雷園寺君にも言ったけどね、願掛け自体が悪い事でも何でもないよ。しかし、あのタイマン勝負で自分が負けるかもしれない事や、そうなった時の心の持ちようを考えていなかったのがマズかったと僕は思ってるんだ。

 島崎君は確かに戦闘慣れしていない素人と見做せるところもある。だけど現時点で妖力面でも強いし何より良い意味で執念深い。負けたからと言って、それこそめそめそと落ち込んだりしなかっただろう? そんな島崎君を見た上で勝ち戦を続けられると、というよりも負けた時のを考えなかったのは見通しが甘いと言わざるを得ないんだ」

「雷園寺君にはそれが難しかったのでしょうね」

「そんな訳あるまい」


 源吾郎の言葉に対し、萩尾丸は鋭く否定の言葉を入れた。


「雷園寺君は雷園寺家の当主の座をかけて勝負していたつもりだろうけれど、それは君とてだったんじゃないのかい? 玉藻御前の末裔に縋っている君は、タイマン勝負の負けをきちんと受け入れる事が出来た。であれば、雷園寺君も同じように受け入れる事が出来たはずなんだ。

 いや、本来は負けを受け入れる事だって雷園寺君にもんだよ」


 島崎君。萩尾丸はわざわざ言葉を切り、源吾郎に呼びかける。


「戦闘訓練の最中に、時々タイマン勝負ではない術較べを差し挟んでいただろう。あの術較べではおおむね君の方が優勢だったけれど、雷園寺君は落ち込むどころか悔しがる素振りも無かっただろう?」

「はい……確かに……」


 源吾郎は過去の記憶を探りながら頷く。タイマン勝負ばかりでは源吾郎の方が鬱屈を溜めるからという事で、途中から術較べも雪羽と行う事になっていた。これは明らかに源吾郎が有利に進む事を前提にした内容だった。というのも、雪羽は殆ど術らしい術を使えないからだ。

 従って術較べでは源吾郎の方が有利に進む事が多かった。しかしその事で雪羽が悔しがる事は確かに無かった。妖狐である源吾郎が、様々な術を使える事に対して素直に感心していただけだった気がする。それは源吾郎も同じ事だった。もっとも、術較べはお遊びであり、タイマン勝負の成績に固執していた部分もあるにはあったが。


「僕も最初から言っていただろう。タイマン勝負と言えど訓練に過ぎないから、負けても喪うものはないってね。それなのに、色々と勝手に背負って喪ったものがあると思い込んでいるだけに過ぎないのさ」


 その事に気付けば雷園寺君も元気を取り戻すだろう。妙に軽い調子で萩尾丸は雪羽の件を締めくくった。


「雷園寺君の事はそんなに心配しなくて良いって事だよ。それに僕の部下たちも島崎君の事を更に一目を置いてくれたみたいだし、それはそれで良かったんじゃないの」


 萩尾丸は雪羽の件から話題を変えたつもりらしい。同族たる妖狐たちに今回の勝利を讃えられ、一目を置かれているんだから島崎君もさぞや嬉しがっているだろう……萩尾丸はそのように思っているのかもしれない。

 そんな萩尾丸の考えとは裏腹に、先程の妖狐たちとのやり取りも源吾郎にとっては悩ましい物だった。ついでに言えば雪羽の件とも絡んでいるし。


「ま、まぁそうですね。野柴君とか豊田君とかは僕の事をすごいって言ってくれました。ですが、中には口さがない事を言う狐たちもいたんです。そりゃあまぁ、先輩たちの中には雷園寺君を良く思っていないひともいるって事は僕も解ってますが」

「あぁ、そっちの件だね。その件についても真面目な部下から報告が入ってたよ」


 真面目な部下とは玉藻御前の末裔を名乗っていた黒狐だろうか。源吾郎はぼんやりと思った。それにしても萩尾丸は思っていた以上に色々な事を把握しているようだ。把握しているうえで、知らないふりをして源吾郎に話しかけているのではないか。そんな疑惑さえ浮かんできた位だ。

 要するに一部の妖狐たちが雷園寺君を中傷していたんでしょ? 身も蓋もない直截的な萩尾丸の言葉に源吾郎は頷いた。もうちょっとオブラートに包んでよ……と思いながら。

 神妙な面持ちの源吾郎を見据えながら、萩尾丸も難しい表情を浮かべている。

 中傷するのは悪い事になるだろう。そのように前置きしてから、萩尾丸は言葉を紡ぎ始めた。


「しかし部下である妖狐たちが口さがなく言い募った気持ちも解らなくもないんだよ。知っての通り、彼らの大多数は庶民妖怪なんだ。僕の許で長く働くも多少はいるけれど、多くは十数年経てば他の職場に転職するのがほとんどだからね。要するに、庶民でずっと下働きに徹するたちばかりなんだよ。

 そういったたちにしてみれば、放逐されたとはいえ名家の生まれで、実力もあって、その上縁故入社で重役の座に座っている雷園寺君を見れば心がざわつくのは致し方ない話さ」


 萩尾丸の部下の大半は「小雀」に所属する若手妖怪たちである。実はこの「小雀」の構成員はかなり流動的だった。構成員たる妖怪の出入りが烈しいからだ。中には「小雀」のグループ長や上位組織の「荒鷲」に昇格する妖怪もいるらしい。しかし多くは十数年程度社会妖としての振る舞いを身に着け、別の妖怪組織に転職するという進路を辿るらしい。萩尾丸の部下として手許に残る妖怪は案外少ないのだという。

 言うなれば、社会妖しゃかいじん養成学校としての機能を具えた組織のような物だった。

 確かに、そのような働き方に身をやつしている妖怪たちにしてみれば、雪羽も源吾郎も恵まれ過ぎた存在に思えてならないだろう。


「話はそれだけじゃないんだよ島崎君。さっきのはあくまでも雷園寺君の地位について言及しただけなんだからさ」


 そう告げる萩尾丸の面には笑みが浮かぶ。皮肉と毒気にまみれた邪悪な笑みである。しかしあの萩尾丸ならばこういう表情をよく浮かべるのもまた事実だった。


「もしも雷園寺君が品行方正な好青年だったとしても、さっき言った地位のためにやっかむ輩は一定数出てきていただろうね。世の中には聖人君子を疎む手合いだっているんだからさ。

 しかし雷園寺君の行動は、元々からして品行方正とは言い難かっただろう? 今でこそ僕の許で大人しくしているが、酒と喧嘩と女に溺れてただれた生活を送っていたんだからさ。変な所で三國君を見習って、突っかかってきた僕の部下を迎え撃った事さえあの子はあったんだ。まぁその時は、向こうが雷園寺君の取り巻きをゴミパンダだのなんだの言って侮辱してきたんだがね。その事を思えば、若い妖狐たちが雷園寺君を悪し様に言うのも何となく解るんじゃないかな。

 しかも妖狐というのは、良くも悪くも選民主義的な所もある訳だし」

 

 源吾郎が無言で頷くと、萩尾丸は笑みを浮かべたままなおも言葉を続けた。


「まぁ、雷園寺君の悪評についても君が心配するような事じゃないって話だね。それよりも島崎君。君は自分の心配をした方が良いと僕は思うけどね。

 君は確かに真面目に頑張っているとは思う。だけど相手が庶民妖怪だからって油断しないようにね。尊大に見えたりいけ好かないと思われたら、ああして後ろ指を指される事とてありうるんだからさ……」


 源吾郎はふと、自分が元々は研修として別の部署を回る事が決まっていたのを思い出した。それは連休前の個人的な不祥事で先延ばしになった訳であるが、或いはその方が源吾郎にとっても良かったのかもしれない。

 そんな妙な考えが脳裏に飛来したのだ。

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