第212話 Only my love(12)
怜子も突然の泉川の母の登場に戸惑っていて、
チラチラと彼のほうを困った顔で見た。
しかし
そんな空気は関係なく
母はエプロン姿の彼女を見て
「も~~~、この子ったらこういう人がいるなんてこと一言も言ってくれないから~~~。」
二人の関係を読み取ったようだった。
「キレイな方ねえ。 失礼ですが、お年は・・・」
母は怜子に切り込んだ。
「え、あ。 あの・・31です、」
怜子はうつむいてそう答えた。
「じゃあ貴彦とおんなじね! ま~~~、それで。 お仕事は? なにをされてるの?」
母の手は緩まない。
泉川はそこで
「ちょっと! いきなりなんなんだよ! 失礼じゃないか、」
と母に怒ってしまった。
「あらあら、ごめんなさいね。 あたしも何か手伝おうかしら、」
母も紙袋からエプロンを取り出して張り切って手伝い始めた。
だから
こんなことになりそうだったから
親には言いたくなかったし。
泉川は無言で本を整理しながら言った。
普通ならまあ
彼女ほどの人だから親に紹介したっていいけど
でも
彼女にとってはそんなこと重荷のほかなんでもないはずだ。
苦しかった結婚生活をようやく終わらせることができたのに。
「あ、拭き掃除はあたしがやります。」
怜子はにこやかに泉川の母に接した。
「まあ、すみませんねえ。 ええっと・・なんだかあたし、お会いしたことがあるかしら。 なんだかどこかで、」
母は怜子の顔をジッと見て言った。
「あ・・えっと、」
怜子が戸惑っていると
「彼女。 お医者さんなんだよ。 おれが盲腸の手術で入院した時の、あの病院に前にいたから。」
仕方なく泉川が答えた。
「えっ・・お医者さん??? 」
母はその意外な彼女の職業に驚いた後、
「あっ・・そういえば。 一度、貴彦の病室でお会いしましたわよね?」
彼女と遭遇した時のことを思い出した。
「・・ええ、」
怜子ももちろんそのことは覚えていた。
「そうですかあ。 じゃあ、それがキッカケで、」
母の顔はぱああっと明るくなった。
キッカケとか
そんな簡単な道のりじゃあなかったけど。
泉川はそんな風に思ってしまった。
スーニャが怜子の足にまとわりつく。
「スーニャ。 こっちにいらっしゃい。 ホコリっぽいし、」
彼女を優しく抱き上げてゲージに入れてやった。
そんな彼女の姿を泉川の母はじっと見ていた。
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