第210話 Only my love(10)
わかっていたけど。
彼女は普通の仕事をしているわけではない。
患者さんに何かあったらすぐに駆けつけられるように、病院の近くに部屋を借りて住んでいるくらいで。
電車で30分はかかる自分のマンションに来てもらうことも
本当は申し訳ないくらいだ。
泉川はベッドにゴロンと横になった。
彼女の仕事が一段落しないと、こちらから電話をするわけにはいかない。
あ~~
もっともっと一緒にいたいなァ・・
思いがようやく通じたのに
逆に彼女の忙しさにすれ違いを感じることばかりであった。
よし・・
彼はひとつの決心をした。
「本当にごめんなさい。 せっかくのお休みだったのに、」
怜子から電話が来たのは翌朝7時ごろだった。
「ううん。 しょうがないよ。 作ってあったスープ、美味しかった。」
泉川は仕度をしながら言った。
「あのね、おれ・・考えたんだけど。」
「え?」
「こんなこと言って。 レイちゃんが迷惑なんじゃないかって思うんだけど・・。 おれ、レイちゃんとこの近所に引っ越そうかと思って。」
思いもかけない言葉を言われた怜子は
「引越し??」
「うん。 レイちゃんがおれに気を遣ってこっちまで来てもらわなくてもいいように。」
「でも。 そこは会社にも近いし、」
「そんなこと。 どうせ車あるし。 関係ないよ。 まあ、こんなことしても変わらないと思うけど。 でも、もう少しだけレイちゃんの側にいたいんだ。 おれは何もできないし、何の力にもなれないけど、」
「貴彦さん・・」
怜子は携帯をぎゅっと握り締めた。
「迷惑、かな、」
未だに
彼女に対して自信がない。
「ううん。 迷惑なんかじゃないけど・・。 本当にいいんですか?」
それがOKの言葉に聞こえて
「いいに決まってるじゃん! レイちゃんが困ってたらすぐに行けるし! よ~~し、早速今日から探すぞ~~!」
切り替えの早い男は
あからさまに張り切った。
「はあ?引越しって。 まだ更新もきてないのに、」
その夜、実家に寄って泉川は早速その話をした。
「まあ、いろいろ・・」
住宅情報誌を見ながら言った。
「で、どのへんに?」
母はそれを覗き込む。
「世田谷の・・桜あたりに・・」
「は? 世田谷? 桜?」
母は驚いた。
「なんでそんなトコに? もっと便利なところあるでしょう。 会社からも離れちゃうし、」
「ん。 だから、いろいろ・・」
泉川は適当に母の驚きを流した。
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