第207話 Only my love(7)

本当は会うたびに彼女を抱きたいって思う。



でも



たぶん彼女はそれを望んでいないし、やっぱり志藤さんの言うとおり



おれは彼女の迷惑にならないように生きるだけだ。



怜子は泉川の気遣いを思い



「・・ありがとう、」



と微笑んだ。




たまにしか会えなくても



彼女が元気にしていてくれることがなにより嬉しかった。




彼女のマンションの前まで来て、車を停めると



「たぶん・・来週の日曜は休みを取れると思います。 泉川さん・・じゃなくて貴彦さんは、どうですか?」



怜子は言った。



「えっと・・たぶん、休みだと思う。 え、本当に休める?」



「院長先生は基本的に休みをきちんと取るようにおっしゃってくれるんで、」



「よし! んじゃ・・どっか行こうか。」



「ハイ、」




彼女の方からそんな風に言ってくれて



もう有頂天になってしまった。




「デートの約束しただけでそんなに浮かれちゃって、」



香織は呆れた。



「会えない分だけ、ほんっと会うと密度が濃い時間過ごせるっていうか。 レイちゃんもあんなに忙しいのにおれのために時間を作ってくれて・・」



「レイちゃん????」



ぎょっとした。



「もう幸せすぎて・・どうにかなりそう。」



頬づえをついて夢を見るような顔をした。



「もうすでにどうにかなっちゃってんじゃん。」



香織は呆れてしまった。



そこに。



「あ、泉川。 日曜日頼むな。 さっき先方には電話しておいたから。」



志藤がやって来た。



「はっ・・????」



驚いていきなり現実に引き戻された。



「なんや、忘れてたんちゃうやろなあ。 1ヶ月くらい前、ウチのスポンサーの藤丸楽器の新藤社長との接待ゴルフ。 おまえがゴルフは得意やて言うから、」





そうだった!!!!




もう、怜子に夢中でそんなこと忘れていた。



みるみる顔色が悪くなる様子を香織はジーっと見ていた。



「今度の・・日曜でしたか・・」



確認するようにひとりごとを言った。



藤丸楽器は大きなスポンサーで



とっても断ることなんかできない。



「はあああああああ、」



大きなため息をついて頭を抱え込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る