第206話 Only my love(6)

南さんが言ったとおり



本当に



今まで何にもしないで



愛されてここまで来た人なんだろうなあ・・




怜子は子供のようにカレーを頬張る泉川を見た。



「ほんと。 美味しい、」



怜子も顔をほころばせた。



「やっぱり一人で食べるよりうまいよね。」



「ええ。 高校を出て東京で一人暮らしをはじめたころは・・毎日寂しくて泣いていました、」


彼女が泣いていた、と聞くだけで胸が痛い。


「そうかあ・・」



「でも。 慣れですけどね。」



「レイコ先生はちゃーんと勉強して、仕事して。 それでもちゃんと自分の暮らしも頑張ってたんだよねー。 なんかスゴイな、」



「みんなそのくらいはしてます、」



彼女の笑顔を見て



「あ~~っと。 なんか『レイコ先生』って・・ちょっと隔たり感じるかなあ・・」



泉川はそんなことを言い出した。



「え?」



「も、ちょっと。 近づいてもいい?」



いたずらっぽく笑った。



「近づくって、」



「レイコちゃん、じゃ・・ちょっと子供みたいかなあ。 も・・『レイコ』なんてとっても呼べないし。」



また一人の世界に入っていた彼に



「なんでも・・いいですけど、」



怜子はひきつって笑った。



「じゃあ! 『レイちゃん』でいい??」



すごい名案を思いついたようにそう言ったので



「あ・・はあ。 家族はそう呼んでますから。 別に、」




すごく冷めた言葉で返してしまった。



「え! いいの? もう、なんっか嬉しいなあ、」



気持ちのメーターが上がったのがモロわかりで、思わず笑ってしまった。



「・・構いません。 じゃあ、あたしは『貴彦さん』で、いいですか?」



と言ったとたん、泉川はスプーンを握ったままイスから転げ落ちてしまった。



「ど、どうしたんですか???」



怜子は慌てて立ち上がった。



「ん・・も~~~~、シアワセ。」




座っていられないほど



『萌え』てしまった。




外でのデートよりも



すごくすごく楽しくて



普通の生活の中に彼女がいることが何より嬉しい。



これが



幸せなんだなあ・・





「んじゃあ。 送るね。」



泉川は彼女が洗い物を終えたのを見計らって車のキーを取り出した。



「え、」



手を拭きながら少し意外そうな顔をした。



「ちゃんと休んで。 また明日から仕事、頑張って。 おれもめっちゃ元気出たし、」



とニッコリ笑った。


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