第7話 魔眼

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申し訳ありません!

5話(ギルド)と6話(アーカム君暴走)は順番が逆でした。

本7話(魔眼)は、ギルドの後のお話となります。

御了承ください。


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 どこかの高位冒険者たちに、分不相応な評価されていた当の俺は、念のため擬装のアバターを変更し、痕跡を消しながら、家路を急いでいた。


「また目をつけられたかなあ……やらかした」


 なんとか誤魔化して迷宮に入りたかっただけなのに……。



 グラキスの魔眼が魔力を見えるというなら、俺の魔力量が異常なことにも気づいていたはずだ。


 「擬装」は完璧なカモフラージュと思っていたが、こうなるとグラキスのような冒険者には通じないだろう。

 どんなに外見を変えても、異常な魔力量で特定されてしまうからだ。


 実はロビーで、こちらを伺う視線が複数あることに、途中で気がついた。グラキスが近づいてきた時だ。

 彼らはグラキスが話しかけたせいで何もしなかったが、彼らも魔力を察知して、警戒していたのかも知れない。


 グラキスの別れ際の言葉も、忠告と取れるような内容だった。


 赤毛の女性は犬狼系……おそらく狐の獣人だったから、嗅覚で緊張がバレていたと思う。冷や汗かきまくったからな。それを解そうとして、気遣いを見せてくれた感じからすると、彼女としては普通の子供として接してくれていたようだ。



 会話は平然を装っていたが、水面下の駆け引きがやばかった。




 それでも、わかったことも多い。


 俺にとって、魔力は、「エネルギーを持った情報体」だ。そこで発動している魔法は、魔力からの情報を「見る」ことで、どんな魔法か分かる。


 そして、それを「記録」していれば、再現することも出来る。


 出来ればグラキスの魔眼自体を「解析」にかけたかったが、流石にあの場面で魔法を飛ばせば、敵対行為と見なされていただろう。

 だが、あの時グラキスの魔眼から発動していた魔法は観測出来た。


 魔眼、魔眼かあ。あの眼を再現出来たら面白そうだ。あの時常時発動していた魔法以外に、幾つの魔法が使えるんだろう。



「こうして……こういう感じか?」


 魔眼の魔法を再現すると、視界が変わる。今の視界に、サングラスで色をつけたような感じになる。

 街ゆく人を見ると、胸の辺りから微かに炎のような光がもれている。光は色々な色が混ざっていて、人によって全体的青っぽかったり、赤っぽかったりしている。


 魔力を色のついた光で見れる、魔力視とも言える魔法のようだ。




 魔力には波長のようなエネルギーの揺れがある。

 人間の魔力器官が出す魔力は、まるで長い波長と短い波長のような強弱のついたエネルギーが出ており、およそ心臓の鼓動が二十回打つ周期で、一定のパターンを繰り返している。


 それは人によって違っていて、俺が個人を特定出来るのはこのパターンを記録しているからだ。

 パターンは長い時間をかけて少しずつ変わっていくので、その間会わなければ特定は難しくなる。


 個人の特定というのは難しい。

 獣化に始まる骨格や筋肉や外見を変える魔法のせいで、前世にあった指紋、虹彩、静脈といった生体認証も、歩き方で特定する歩容認証なんかも無意味だからだ。まして距離をとっての特定は難しい。俺でもこれぐらいが限界だ。



 魔眼の魔力視の場合、強弱は色の変化で分かるが、ぼんやりとしていて、判別できる色は四種類ほどだ。変化が分かりにくい上、パターンを見つけ出すのは難しいと思う。

 結論として、魔眼の魔力視は、大きさや色に極端に特徴的なものがなければ、個人を特定することは出来ないようだ。

 また、俺の気配察知エリアは障害物が関係なく、球状のエリア全ての詳細を掴むことが出来るが、魔眼の魔力視は壁を隔てると、ぼんやりとしか魔力を感じられない。


 一方、手のひらの上で魔法を発動させると、発動する瞬間、小さな火花が弾けるように、一瞬光が飛ぶ。


「こっちは……まあ発動がわかるって程度かな」


 色々な魔法を試してみるが、火花に若干色が付くぐらいで、魔法によって違いがわからなかった。


 魔法の発動は感知できるが、どんな魔法かはよくわからないようだ。



 魔眼の魔力視に、魔力と魔法がどう見えているかは、だいたい分かった。



 まあ、グラキスが言っていたように、他にも探知方法はあるようなので、何をしていたか知られているかもしれない。



 迷宮にこっそり堂々と入るには、タグと外見を偽造して、正規の名義を使っていけばいいと思っていた。

 だが、目立つ魔力量をどうにかして隠さないと、すぐにバレるだろう。


 魔力を隠蔽かあ……気配を隠蔽するのは魔法で出来そうだが、魔力自体を隠蔽するってどうやるんだ?


 魔力器官からの魔力の出力を止めるのはどんな人にも難しい。さらに異常な魔力器官を持つ俺は、例えるならダムと滝ぐらいの差がある。

 人より秀でた魔力器官が、まさか逆に足を引っ張るとは思わなかった。



 解決策が見つかるまで、迷宮はお預けだ。西街に行くのも少し控えた方がいいかもしれない。



 冒険がまた遠のいたことに、俺は少し気分を落とした。




>>>>


「要注意人物?」


 冒険者ギルドの受付棟、その三階で事務仕事をしていたゴンドアは、面会に来たグラキスたちが言う言葉に、眉を下げた。



「ああ、経緯としては、獣化したこのくらいの見た目の子供が、この建物の一階ロビーに来て、掲示板を眺めてから帰っていっただけなんだが……。身に纏っている魔力量が尋常じゃなかったんでな、声を掛けた」



 それを聞いてゴンドアは拍子抜けした。

 グラキスのような高位冒険者が態々報告しに来るほど、大したことに思えなかったからだ。


「他にもそいつの魔力に気付いたやつが何人かいたが、対応は俺がした」


 あの時、気付いた何人かは動こうとしていた。それらを目線で制して、その場で一番高位の冒険者である、グラキスが出たのは、大人数で話し掛けても、警戒させるだけだと思ったからだ。


「ふうん……。で、素行の悪い奴等に言っておけばいいのか?見た目に騙されて絡んだら痛い目見るぞってな?」


 ゴンドアは笑いながらそう言った。もちろん、冗談だ。素行の悪い奴はそんな忠告を聞くわけがないし、なんなら積極的に絡みそうだ。


「ああ、言っとけ言っとけ。下手に絡んだらこの区画ごと吹っ飛ばされるって」


「ぶっ!?」


 ゴンドアの取り合わなさに、グラキスは揶揄するように返した。それを聞いてゴンドアは、飲みかけたお茶を吹いた。


「汚ったねえな……チンピラ崩れが痛い目に合う程度で、俺が来るわけないだろ。そろそろまじめに話を聞け」


 ゴンドアは受付部の部長である。昨日から始まるトラブルのお陰で、徹夜した頭脳はどうやらぼんやりしていたらしい。覚醒ポーションをお茶で流し込んで、自分の事務机から応接セットのソファまで移動する。


「そんなにヤバい奴なのか?」


「物腰は裕福な家の子供のようだった。言葉遣いは丁寧だし、相手に敬意も払っていた。精神性はまともに見えた。少なくとも、迷宮の魔物のような狂気は感じなかったな」


「そこだけ聞くと安心出来るな」


「身から出る魔力量は、中層三階のボスがブレスを放つ前に高めた魔力と同じくらいだった。それを常に身に纏っていた」


「全然安心出来んな」


「それから無詠唱で同時に、十以上の何かの魔法を高速で発動していた。視線や雰囲気から、冒険者の持ち物を探っていたようだが……何をしていたかは分からん」


「悪い情報を増やすな」


 ゴンドアはソファにもたれて、眉間を揉んだ。


「どこに行ったかは掴んでいるのか?」


「いや。向こうも探知魔法があるようだったから、下手に追うのはやめておいた。お互いに正体がわからなくて警戒してるだけだからな。今の段階で関係を拗らせるのは不味いだろう」


「ふむ……。ラーフの鼻でも追えないのか?」


「匂いは途中でぱったりと消えていたよ」


「用心深いな…………」


 ゴンドアは顎に手を当てる。


「まあ、ギルド員には通達しておく。トラブルになりそうなら、お前を呼ぶぞ」


「分かった。こっちも、次に見かけた時は、なるべく友好な関係を築けるよう接触してみる」


「頼む。話の分かる相手だといいが……」


「そうだな。駆けつけた時にここが更地になってないことを祈るよ」


 ゴンドアは渋顔を作ってまた眉間を揉んだ。


「笑えん冗談だ……」

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