第十一章 変わり始める意識

 戦闘を終えた俺たちはそれぞれの部屋に戻りシャワーを浴び、宴に備えていた。その時総本部では……


 「水口局長、報告です」

 「坂本くんかね、ちょうどいい。今周りには誰もいないので、手短に頼む」

 「かしこまりました。本日のTND教との交戦、予想通り決着をつけることは出来ませんでしたが、例の細見という新入隊員が予想以上の活躍でした。」

 「データだけ少し確認したが、初戦にしてはなかなかだったようだな。しかし隊員を一人増員したこと、彼の身辺を整理したこと、彼の戦闘機を中古とは言え修繕し再度戦地へ投じていることを考えると、補正予算を組まねばならない」

 「そんなことは、可能なのでしょうか?」

 「やるしかないだろう。ここは事務方トップと私たちの闘いになる。内輪でもめている場合ではないのだが……」

 「私たちにできることは?」

 「現場は今まで通り頼む。こちらはまだ根回しが必要だ。変に動くと反対勢力に抑え込まれてこれ以上予算がカットされることだってあるからな。内密に頼んだぞ」

 「しかし局長、細見隊員はやけに察しが良いのが心配です」

 「察しが良いぐらいでは構わんだろう」

 「いえ……それが……思ったことをすぐ口に出すので……」

 「ほぉ……むしろ使えるかもしれんな……」

 「と、言いますと?」

 「近日中に面談という名目で私のもとへ来るように伝えてくれ」

 「局長?」

 「すまん、誰か来たようだ。切るぞ。では頼んだ」

 「……はい」



 「おい長浜!入るぞ!」

 「石山さん、お疲れ様です」

 「今日は、なんつうか、お疲れさんだったな」

 「どうされました?」

 「いや、ちょっとな、やっぱり俺って走るの遅いよな」

 「いまさら何を」

 「ったく!」

 「でも今日はいつもより速かったですよ。細見さんを追いかけたからでしょう?」

 「あの野郎、俺を置いて先に行くなんて言いやがるからよ。戦闘初心者のクセにいっちょ前なことぬかしやがるから、心配して……」

 「ほぉ、石山さんがご心配を」

 「なんでもねぇよ」

 「で、どうされたんですか?」

 「あの、だからよ、一回俺に走り方を教えてくれ……いや、その、教えてくださらんかなと」

 「そんなことでしたか!いつでも!」

 「お、おう、恩に着るぜ」

 「では石山さん、僕からもお願いが」

 「な、なんだよ」

 「もうちょっと一発の力を高めたいんです。教えて下さいよ」

 「おう!任せろ!ジムでいつでも待ってっからよ!」

 「ありがとうございます。じゃあまた明日以降でお願いします」



 「力くん、入るよ」

 『ジョン』 

 「いやー今日は大変だったね。でも本当に力くんのお陰で闘いやすくなった」

 『自分では全然分からんけど』

 「最初はそんなもんでしょ。なにより、みんなの意識が変わり始めている」

 『みんなの意識?』

 「大さんと学さんはちょっとギスギスしてるけど、ちょっと仲良くなったっていうのかな?それからマネージャーはいつも戦闘が終わるとどっと疲れて打ち上げに来ないんだけど、あの調子だと多分大丈夫そうだね。和美も気持ちよさそうに闘っていたし」

 『ジョンは、ジョン自身はどうだった?』

 「守りたい、って思った」

 『守りたい……』

 「誰を、とか、何を、じゃない。まだ整理が付いていなくて……。でも確実にそう思った。僕はもともと最前線での戦闘要員じゃないから、多分そういう役回りなんだろうけど……今日はいつもよりも守りたい、って気持ちが強かった。上手く言葉に出来ないけど、こういう感覚は初めてなんだ。でもこれだけは確実に分かっていることがある」

 『これだけは……?』 

 「僕の意識も、力くんが変えてくれたんだってね。ありがとう」

 『そ、そんな!俺は何も……』

 「和美だって、同じじゃない?じゃあね?」

 『え?』

 「もう、あんたら付き合ってんの?力は何考えてるんか分からへんわ」

 『和美!』

 「ジョンさんとどういう関係なん?」

 『いや、別に、友達……か』

 「友達……ええやん」

 『和美?』

 「うち、友達って呼べる友達ともうずっと会ってへんから。でもそれって多分、元友達、やんな。もう会ってへんし、悩みを打ち明けたり本音で話し合えたりする人、うちにはおらんから……」

 『……』

 「コーチには、そら他の人よりは色々喋ってきたけど……でも、ちゃうねん。コーチはコーチ。やっぱりお父ちゃんみたいやと思ってるから」

 『……』

 「でも分かってん。力にやったらいろんな顔見せられるって。戦闘中にキス……したんは、あれはあんたが喉渇いてそうやったらから……つい……。でも勘違いせんとってや、軽い女とはちゃうんやから!」

 『……』

 「なんか言ったらどないなん!セリフサボったらあかんで!……って台本通りやないの」

 『和美ってさ……』

 「…………な、なによ………え?」

 『どっちかって言うとツッコミキャラだよな』

 「はぁ!?」

 『いや、ずっと気になってたんだ。このチームはボケに偏っている』 

 「西側の人みたいな分析やな」

 『そう!そういうコメント!そう言うヤツが少なすぎる!石山さんは完全にギャグで、長浜さんも実はポテンシャルを秘めたボケキャラ。司令も別所さんも仕事はちゃんとするけど俺に色気を見せてくる有難いボケ心を持っている』

 「ちょっと。」

 『マネージャーは今でこそ俺の上官としての役割を真っ当しようとしているが、そもそもジムエリアという大衆の面前で国の危機とか喋り出すおっちょこちょいだ』

 「確かに……」

 『で、ツッコミ役に回れるのは和美と、しいて言うならジョンだ!だがジョンはちょっと引っ込み思案だから心の声が漏れない!』

 「あんたは漏れすぎやねん!」

 『そう、こうやってボケる俺を突っ込めるのは、和美とジョンしかいない!』

 「何の分析やねん!」

 『いや、これは戦闘中のアンバランスにも影響するぞ、多分。ボケの方が多いチームなんてぼけたことしか起こらないだろう』

 「今までの違和感って……もしかして……」

 『まぁ俺はこれまでのことは分からんが……足りないのはツッコミ力!それはすなわち……愛だ!』

 「……愛!?」 

 『そう、突っ込むのには愛がいる。多分だがな』

 「(力がよくわかん方向やけど成長してる……)」


 「細見くん……まさか……本当に……(水口局長、本当におやりになるつもりですか!)」

 「司令、どうされましたか?」

 「膳場くん!」

 「戦闘員の寝室に来られるとは珍しいですな」

 「ちょっと、細見くんに伝えなくてはならないことがあるの」

 「そうでしたか。どんな内容です?」

 「局長が……細見くんと面談をしたいと」

 「水口さんが……ね。何か意図してのことなのでしょう」

 「その意図までは聞く時間がなかったわ。膳場くん、どう思う?」

 「分かりませんね……。直々にということですから…普通ではありませんね」

 

 『って!聞こえてるんですけど、上司のお二人さん!!』

 「あら」

 「おや」

 『いや、あらでもおやでもなく、ひそひそ話するならもうちょっとうまくやってください!』

 「おかしいわね」

 「ですね」

 『やはりこの方々もボケだ、ボケに違いない!!』

 「力の言う通りかもしれんな」

 『これに関しては俺の言うとおりだ、間違いなく』

 「どこから聞こえてたの?」

 『文字で起こされている部分全てです』 

 「じゃあそう言うことだから、明日にでも国防本部へ行ってきて。水口局長がお待ちよ」

 『雑!!って、国防本部ってどこ?』

 「タクシーを手配しているから。じゃあ打ち上げに行きましょうか」

 『ちょっと!気持ちが打ち上げどころじゃないんですけど!』


 とは言ったものの打ち上げは待ってくれない。和美と別所さんが準備してくれた肉料理、豚の角煮が振舞われた。戦闘の間、別所さんはずっととろ火で煮込んでいたらしいが、なんとまぁよく味が染みていることか。これは美味い。料理に手間暇をかけるってのは多分こう言うことなんだろうな。無理に豪華なものを作ろうとするのではなく、大切な日に、心を込めてじっくりと煮込む。もちろん派手な料理も時にはよいのだろうけど、俺たちの民族はこういった料理を好むのだろうと、最近は感じるようになってきた。

 それはそうと、やはり気がかりなのは国防本部へ行くことになったこの展開。新入隊員の俺が本部付の局長と直接対峙するなんて、そんなことが普通あるのだろうか。そもそも公式に戦闘した経験は一度だけ。活躍したとは言われているが、実際のところはよく分かっていない。ナショナル教育プログラムもまだまだ進めなくてはいけないのに……一体何だって言うんだ。

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