第十章 初陣
今日は金曜日、決戦はやはり金曜日だったか。行きたいのはマウンテンマウンテンという気分ではないな。
「でも、夢は叶うかも知らんな」
『ドリームスカトゥルーか……あ!和美!』
「おはよう。寝られた?」
『いや、眠れない夜を抱いて、だったよ』
「負けないで、ね」
『俺らそろそろ怒られる!……あれ?今日はおにぎりか』
「別に普通のご飯でもええんやけど、後で総本部にも持って行くからこっちの方が都合がええのよ」
『総本部?』
「司令たちも頭使わはるし、糖質補給は大事!うちらは戦闘中にこんなもん食べとる時間はあらへんからスペシャルドリンクでなんとかしのぐしかないんやけど、ブレインたちは食べられるからな」
『ブレイン……か』
「脳みそのエネルギー源は唯一糖質だけや。だから糖質制限すると頭がぼぉっとしよる。冷静な判断もできひんようになるし、何よりイライラしてまう。ええことなんかあらへんで」
『じゃあ今日の相手は……』
「付け入る隙があるとしたらそこや!」
『見えてきたぜ!網タイツ!』
「あんたが言うとなんか語弊があるな……まぁ戦闘は昼前からの予定や、うちらは今のうちに食べとくで!」
『おう!』
そして決戦直前。俺たちナショナルチームは総本部へと集った。
「いよいよね。全員いるわね」
「ナショナルチーム戦闘員全員居ります」
「厳しい戦いになるかもしれないわ。でも……頼んだわよ」
「はっ!」
「それから細見くん……」
『司令……ち、近い……え!ちょ……胸が……」
「ふっ……興奮した?」
『何ですかこれは!』
「おまじないよ。」
『怖いんですけど!』
「力くん、よかったね」
『ジョン!』
「ったく、ほっそいクセに……まぁお前の筋肉量じゃそれぐらい必要か」
『石山さん……もしかして……羨ましいとか?』
「ああ、当たり前じゃねぇか!」
「石山さんはそれ以上興奮しちゃだめですからね」
「なんだ?長浜、お前だって……」
「ええ、私は目がいいので鮮明に見えています」
『だからそのキャラで下ネタはずるいからダメ!』
「なんだ、戦闘前に女性ファンを増やそうとしたのですが」
『一番ややこしい!』
「もうホンマ男子は……」
『和美!』
「悪かったな、グラマーと違ごて!」
『俺はどっちでも行けるから気にすんな!』
「それどういう意味よ!」
『だっ!』
「力くん……やっぱり大丈夫そうだね」
『ジョン!』
「もう、馬鹿やってないでちゃんと闘ってくるのよ?今日は終わったら打ち上げ。私はその準備しとくから。あ、ケータリング頼まなきゃ!」
『別所さん!なんて能天気な!』
「細かいことは気にしない!でしょ?」
『こればかりは細かくない!』
「さ、全員準備はいいか?」
『マネージャーはやけに冷静!怖い!』
「では、総員戦闘準備!」
『のぉ!展開が早い!……って全員ゆっくりはしごで降りるんだよな。ダサくね?シュート使おうぜ……』
さて、シートベルト……そうか、まだ軽自動車のヤツのまま俺は闘うんだな。みんなは……あぁよさげな四点ベルト!こりゃ事故ったら俺の肋骨はバキバキだな……。エアバッグとかちゃんと作動するのか?言うなれば旧車だろ?これ。くそ……練習モードでは気が付かなった不安要素が今ふつふつと……。でも…ここまで来たら……逃げちゃダメだ……だよな。
「細見!準備はいいか!」
『はい!元気です』
「よし!では頼むぞ!」
『くそ、風邪気味と言えばよかったか……』
「TND教の戦闘機三体がログインしたわ」
「こちらのレーダーでも三体確認!」
「現場のレーダー確認は、ジョン、任せたわよ!」
「了解!」
「これはこれは、ナショナル軍の皆様。おや、懐かしい機体が……そうですか。復活しましたか」
『は、これ、別所さんの……』
「おやおや、操縦は別の方でしたか。これはどうも初めまして」
『ど、どうも……』
「さて、ナショナル軍の皆様、いい加減に私たちTND教への干渉をお辞めいただきたい。実質的に政府からの指示で動いている皆様が、信仰の自由を侵害するのは違憲です」
「くそっ、テメェらは人の命を奪う極悪宗教だ!だから取り締まるんだよ!」
「おやおや、相変わらず熱いですね。極悪宗教?信仰によって救われる者のことを見ずによくもそんなことが言えましたね。私たちの教義を守り、厳しい食事制限を遂行できた者たちは皆痩せていくのです。それに耐えられず命を落とすなんて、信心が足りていないだけですよ。」
「てめぇ……マジで言ってやがるのか!?』
「ええ、もちろん真剣です。我々は厳しさを善とし、怠惰を悪とします。だらしない生活、だらしない体型、そしてだらしない食事。これを全て正せば幸福が訪れる。そうでしょう?ハードな運動を習慣化し、糖質や脂質をカットする。ささみ、ブロッコリー、ゆで卵にプロテインドリンク。これほどまでに崇高な生き方があるだろうか?」
『こいつ……本気で言ってやがるのか……』
「だから真剣だと言ったでしょう?この崇高な生き方を手に入れる為に、それを邪魔するあらゆる因子を排除します。そう、例えばそれは金だ。手元に金があったら人はどうなる?欲にまみれ、酒におぼれ、ハイカロリーな食事に手を伸ばすに違いない。だから私たちが預かるのですよ。そのお金をね。お金をごそっと失えば気が付く。どれだけ無駄な生き方をしているか」
「それは一理あるかもしれへんけど、失ったらアカンもんまで失ったらアカン!っていうかその集めた金であんたらは贅沢してるやないの!」
「贅沢?これはこれは、言葉を選んで頂きたいものだ。これは布教活動に割り当てられているだけですよ。あなた方の様な地下組織ではいくら声を上げたって誰にも届かない。私たちはメディアや大手企業とタッグを組み、この素晴らしい教義を世間に広く知らしめるのだ。広げるには時として金が必要なんですよ。あ、そうですね、あなた方は政府機関の端くれとは言え表に出てはいけない組織。聞きましたよ?実はどんどん予算が削られているって。そんなあなた方には私たちの様な勢力は羨ましく見えるのでしょうね?もしあなた方の方が正しいと証明するのであれば……致し方ない、その力を見せて頂きましょうか!」
「くそ……」
「では、そろそろ行くとしますか。石山さん、お先に失礼しますね。」
「おうよ!俺はあっちの機体へ向かう!」
「志賀は私とこちらへ!」
えっと、ジョンがレーダー監視…で、長浜さんがあの赤いヤツへ、でも……赤いヤツを倒さないとその後ろにいるさっき喋ってたいけ好かない青い野郎にはいけないから、あそこは実質石山さんとペアってことだな。で、もう一体黄色いヤツは、膳場さんと和美さんのペアか。で、俺は勝手にしてろと。十五分後には和美と合流だけど……あっちはこっち二体に対して黄色いヤツ一体……ってことは、バランスとって俺は長浜さんと石山さんの方へ!
「力くん、そうだ、そのバランスのとり方で頼むよ!」
『お、ジョンにそういって貰えると自信になる!』
よし!じゃあ長浜さんの動きに……速い!練習モードと全然違う。えぇっと……あれ?なんか動きが……
「おいほっそいの!どうした!」
『石山さん!なんか動きが悪くて!』
「ったく、長浜についていこうとするからだ!馬鹿野郎!あんな速さに誰もついていけねぇよ!」
『そうか!ATP!うわ、減ってる!』
「馬鹿、深呼吸だよ。回復しつつ向かうぞ!」
『石山さん!』
「なんだよ!」
『走るの遅いんですね』
「うるせぇ!長浜が速すぎるだけだよ!」
『いや、絶対その図体のせいでしょ』
「ったく、お前に合わせてやってんだよ!ほら、回復してきたか!?」
『はい、とりあえずは……!』
「いいか?全力ダッシュってのはどう考えても十秒も持たねぇ。ATP-CP系、習っただろ?」
『そういえば!そうか……長浜さんについていこうとしてダッシュしすぎたのか……』
「そうだ!俺たちはどうせあんな風には走れねぇ。辿り着いた時に長浜をサポートできるエネルギーを残しておくんだ。辿り着く事が目的じゃねぇからな!」
『だから、石山さんはこんなにも遅いのか!』
「遅いは余計だ!だが、ここは有酸素性のエネルギー消費で、大きな力は残しておくべきだ。長浜が早めに辿り着いて敵機にじわじわダメージを与えつつ、エネルギーを奪ってる。そこを突くんだ!」
「大さん!学さんの援護を!」
「分かってるよ!」
『石山さん!』
「なんだ!?」
『やっぱり走るの遅いですね。多分長浜さん、待ってますよ』
「くっ、うるせぇ!」
『ちょっと俺、先行きます!』
「馬鹿!無理すんな!」
『ケツカッチンなんで!』
そうか、長浜さんは機動力、走りの速さに突出している。陸上の混成競技をやっていたこともあってあらゆる状況に上手く立ち回れるんだ。でも……決め手に欠けている!そこを石山さんの腕っぷしでカバー……だが、石山さんが走るのが遅すぎるんだ。あれは確かに女子より遅いぞ。
「ごらぁ好き勝手言うな!」
でも俺が一人で前に出たところで、長浜さんのカバーが出来るとも思えないんだが……
「ごらぁ、細見ぃ!!」
『うわ、石山さん!走るの速くなってる!』
「石山さん、いつもより早いご到着で!」
『馬鹿野郎、いつもこんなもんだろ!待たせたな!』
「この赤い戦闘機、恐らく後一撃。デカいのをお見舞いすれば動きは止まります。こちらは先に奥の青いヤツへ仕掛けてきますから。ここは任せましたよ」
「おぉ、分かってるよ!おい、細いの……そこをどけ」
『へ?』
「危ねぇからどけってんだ!!!!!」
その時凄まじいエネルギーが石山さんから放出された。同時に赤い機体は戦闘不能に……。こりゃ凄い……しかも敵機は見事に脚が動かなくなっている。
「はぁはぁ……」
『石山さん!』
「馬鹿、大丈夫だよ。チョットすりゃ回復する。このまま奥へ進むぞ」
『でも……』
「なんだ?」
『もう、和美の後方支援に戻らないと!』
「そうか、それは行ってやらないとな」
『ではちょっと失礼します』
「(あいつ、走るの……速くなってやがる……)」
「マネージャー!交代です!」
「時間通りだな!では頼む!」
『マネージャーは!?』
「私は石山君と長浜君のサポートに!」
『入れ替わる必要は!?』
「あるんや」
『和美!』
「思った通り、この黄色い戦闘機、二人でタイミングを合わせな壊されへん。でも今のコーチとうちやったらタイミングがずれるんや。あと一撃で倒せそうやねんけどな。だから最後の一発、一緒に闘って!」
『一緒にって……どうやって』
「手、貸して!」
『は、戦場で手を繋ぐなど!』
「一二の三で、振りかぶるで!目指すはあの足部!」
『おい、それって……もしかして……』
「ケーキ入刀や!」
『ウェディングパーティ!!!!』
「行くで、一二の……」
『さぁぁぁぁん!』
とてつもない衝撃が俺の両手から全身へ……。くっ、離したならヤバイんだろうな……絶対離さないからな!
「それ、プロポーズ?」
『どぉ!!何のことだ!』
「離さんとってや。もうちょっと……このまま」
『セリフとシーンの乖離!!!』
敵機の動きが止まった。
『ハァハァ……やったか……』
「一発でタイミング合わすとか、さすがぁ!」
『和美は息上がってないのか?』
「うちの全身持久力をなめんとってや!早漏には羨ましいやろ!」
『それは関係が!ってこの会話全員に聞こえてるんじゃ!』
「大丈夫、戦闘員はそれどころやない。でも司令と別所さんには聞こえとる」
『一番嫌なんだが!』
「でも力くんは回復は早いタイプだね?」
『ジョンにも聞かれてる!』
「なんのこと?ATP、ほらもう溜まってる」
『お、ああ、そういうことか』
「よし!和美、力!最後の機体、青いヤツのところへ!学さん中心に散弾攻撃がしかけられていて、相当相手にはダメージがあるんだけど……」
『石山さんは?』
「まだ回復していない!」
『走るのも回復も遅すぎる!』
「パワーだけは凄いんやけどな……」
「そしてさすがの学さんも少しエネルギーが切れかかっていて、まともに動けるのはマネージャーだけ。でも……」
「全盛期の動きではない……んやな?」
「そうだ!君たちの力が必要だ!少し急いで!」
『ちょ、でもそんなに急いだら……』
「スペシャルドリンクや!」
『あ、そっか…』
「動きながら飲み!」
『おう、えぇとこのボタンを押して、ストローで…………って、熱っっっ!!!!!なんじゃこりゃ!!!!!舌火傷した!!!!!ナニコレ、熱湯?違う……味噌汁!!!!!!』
「え?あんたスペシャルドリンク、味噌汁にしたん?」
『俺じゃねぇよ!なんだよこれ!はっ生体データ……!』
「あんたここ来て味噌汁と水しか飲んでへんかったんちゃう?」
『だってそれしかなかったし!』
「だから力のデータ、味噌汁しか出てこぉへんかったんやわ。」
『いや、セットする時に気付くだろ!しかもストローを介して熱々の味噌汁とか、罰ゲームかよ!』
「細かいことは気にしないのよ!細見くん!」
『別所さんの仕業!!!これ、今から変更効かないんですか?』
「戦闘中は無理ね。我慢して」
『我慢できない熱さなんですけど!』
「しゃーない今はそれで行くしかないわ。」
『他人事だと思ってるだろ!お前のスペシャルドリンクは何なんだよ?』
「うちのはクエン酸系やな。ちょっと酸っぱいヤツ、要る?」
『どうやってそのストローにアクセスしろと!』
「ううん、こうやって」
『!!』
仮想現実内の戦闘機越しだが、俺は戦地でパートナーと唇を交わした。しかも司令たちが見守る中で。そして先ほどのケーキ入刀。世界観がどうかしてるぜ。
『どういうことだ!めっちゃ身体が動くぞ!さっきの攻撃で受けた痛みも消えた気がする!』
「興奮しとるんやな、可愛い!」
『よし!このままいくぞ、和美!』
「えらい頼もしなってぇ」
走しても間もなく、回復中の石山さん、もう限界であろう長浜さんと膳場さんが闘う青い機体のもとへと辿り着いた。
「おぉ!待ってたぜ!」
『石山さん!』
「へ、もうちょっと待ってくれ」
『待ってたぜ、待ってくれ、なんじゃそりゃ』
「細見さん、さっきは助かったよ!今回はちょっと続きを頼む!」
『長浜さん!』
「いやぁ、かなりの消耗戦です。だいぶ消耗させておきましたよ。私もですが……」
『大丈夫ですか!』
「構うな、細見!長浜は回復フェーズへ移行するだけだ」
『マネージャー……』
「私はまだエネルギー的には余裕があるが、見ての通り……まぁ察してくれ」
『行きます!』
「待て、志賀とパートナーだろ?二人で行動しろ」
『でも……』
「誓いのキスを終えた後は、ケーキ入刀だ」
『もう済ませました。順番間違えましたが』
「では二次会だと思え。二次会でもケーキ入刀するカップルが増えている」
『何情報!?』
「いいか?よく聞け。ケーキ入刀は結婚式の中でも相当上位のシャッターチャンスだ」
『もういいよ。訳分んねぇ』
「しかしシャッターチャンスだと思って気負ってはいけない」
『なになに?』
「二人の初めての共同作業、その作業に集中する事で、自然な笑顔が生まれる」
『集中……自然……』
「つまりその一部始終すべてがシャッターチャンスということだ!」
『やっぱり意味分からん』
「そういうことやで、力」
『どういうことだ、和美』
「おやおや、これはこれは、相変わらずナショナルチームらしい闘い方……。他の二体はやられてしまっていますか。まだ息はあるようですが……腑抜けな戦士を選んできてしまったようですね。しかしあなた方も本当にしぶとい。これほどまでに毎度毎度攻められると嫌になってきますが……まぁ仕方ないですね。私はTND教の名のもとに死力を尽くすのみです!」
『死力を……あいつ……本当に真剣にTND教に心酔してやがるのか』
「では、志賀を頼んだ、細見よ、しっかりやってくれよ」
『娘を嫁に出す父親感が半端ない!!』
「行ってきます」
『嫁感半端ない!はっ俺新郎!そっか!奨学金返したし!許されるよな!』
「準備はいい?和美、力くん!」
『ジョン!』
「今度狙うのは左足だ!」
『左脚だな!』
「違う、レッグじゃなくてフット!この違いは重要だ!」
『足元を狙うわけか!』
「でもさっきとはわけが違う」
『わけ?』
「やったらわかると思うけど、さっきよりも刺さりきらないはず。だからもうこれ以上入らないというところまで来たら、ソードを抜いて最後方へ退避するんだ」
「そういうことやな。分かった」
『うん、分からんけど、分かった』
「では、志賀、細見、出撃!!」
『おりゃーーーーーー!』
「くっ」
『和美……離すんじゃねぇぞ……まだ、まだ深くいけるはずだ』
「……力……あんた」
『くっ……ここまでか……』
「抜いて、後ろへ!飛ぶで!」
『クソ!!』
「よっしゃー!!!お前らよくやったな!!下がってろ!」
『石山さん!』
「とどめは俺に任せろってんだーーーーーー!!!」
『……凄い……この力を、溜めてたのか……』
「総員!退避!!!!」
『司令!?へ!?……ちょっ!みんな!え!!!!』
大きな爆発音とともにTDN教のマシンは煙に包まれた
『まさか……暴発?』
「いや違う。闘いは……終わらないってことです」
『長浜さん?』
「またしてもナショナルチームの皆様には借りが出来たようですね。必ず返しに伺いますよ。我々TND教はいつの時代も繁栄する力を持っています。もっと勢力を拡大し、優秀な戦士たちを育成し、あなた方の弾圧に負けることのない強固な教団となっていくことでしょう。それからピンクのあなた……」
『ピンク、あ、俺!』
「新入りさんですよね?なかなかやりますね。今回は貴方のことはノーマークでしたが、次回からは……」
『それは困ります、ノーマークでお願いします』
「ふっ、素直な人だ……では、また会いましょう」
『あの……機体が……増えてる……』
「増殖しやがるんだよ。あいつらはしぶとい…………本当はぶっ殺してやりてぇが……」
「ただ、もう今回はここまでだな。殺してしまおうと思えば殺せる。コアを狙いさえすれば息の根は止まるからな。ただ、我々は殺生の為に闘っているのではない。少々痛い目には合わせねばならんが、理解させねばならぬのだ。奴らの過ちを。それは……我々の誰かがどれだけの悲しみを抱いていてもだ」
「戦闘員は現実世界へ!総員撤退!」
今回の闘いは勝利とは言えないだろうな。でも石山さんが取ろうとしている手段、息の根を止める以外に明確な勝利と言えるものは存在するのか?TND教のやつらはやはり前回戦闘を見ていた時に感じた通り、信念みたいなものがあった。概念……それは奴らなりの概念がそこにはあるってことか?でもあれは愛か?それは違う気がするし、あれではやはり人は幸せにはならんだろうな。そして戦闘……思っていた以上にみんな自由だった。統率が取れいるかといわれると、実はそうでもない様な気がしてきた。なんといっても俺のミッションは自由に動き回ることだったし……。
それに比べて相手の闘い方は一定のシステムの上にあったようにも思えた。決して強くはないのだが……どういうことなのだろうか……。それと予算の話……。国からの予算が削られているって……本当か?そんな中で俺の……俺の奨学金!!え!!?国の予算から!!?
「みんな、ご苦労様。」
「司令、ただいま戻りました。今回も相手を追い込むところまでは行きましたが……」
「いいのよ。これが私たちナショナル軍の闘い方。相手陣営を壊滅出来ればそれが理想なんだろうけど、無駄な犠牲は生んではならないわ。誰も殺さずに一旦闘いを終えられたことは評価に値する」
「でもよぉ司令。このままじゃいたちごっこじゃ?」
「何か気付かなかった?」
「石山さんと僕の距離が縮まった……ですかね?」
「長浜くん、やはり気付いていたのね」
「明らかに到着が早かったですから」
「そ、そうかよ?」
「それと、コーチ……いやマネージャーがうちの援護から外れて……」
「私はいつもよりも早く石山と長浜の援護に迎えた……何故なら……」
『俺のお陰!』
「力くん、自分で言っちゃったよ。でもその通り。網タイツ作戦、ひとまず成功モデルだったと思うよ」
「そう、細見くんが皆の微妙な距離感を取り持ってくれたのよ。石山くんの走るスピードを高め、長浜くんの負担を軽減した。別所さんの援護を膳場くんと交代したことで膳場くんが石山くんと長浜くんをサポートできた。膳場くんが石山くんと長浜くんに直接指示が出せる体制になったところで、ジョンが志賀さんと細見くんへの情報提供にかなり集中できるようになったことも大きいわ。今までだとあそこまでのダメージは与えられなかったから。細見くんが網タイツの形を整えるような動きを見せてくれたからこそよ。今年度予算、思い切って使った甲斐があったわ」
『網タイツ!ってか予算!やはり俺の奨学金返済は国家予算から捻出されている!外部に漏洩したら叩かれるヤツ!』
「そうね!だからちゃんと働きなさい?でも今日は一旦お疲れ様。よくやったって、みんなの顔がそう言ってるわ」
『別所さん……みんなの顔がって……別所さんは……』
「私!?あぁ、打ち上げの準備で手こずってて!最後らへん見てないの、ごめんねぇ!」
『あぁ、ケータリング!』
「ケータリングだけじゃないわ。和美ちゃんが仕込んでたアレ、仕上げるの大変だったんだから」
「別所さん!やっといてくれはったんですね!」
「うん!ばっちりよ!ちょっと形崩れちゃったけど、細かいことは気にしないで!」
『和美が仕込んでた、アレ?』
「力、あんた今日デビュー戦やったやろ?しかも皆が感じている通り、あんたの活躍のお陰でチームの戦力は上々や。せやから、デビュー記念と、あんたの活躍に乾杯っちゅうことで、今夜は宴!肉や肉!ハレの日は肉やって言うたやろ?」
『え、こう、反省会とかそういうシリアスなのじゃなくて!?』
「バーカ、いつもくそ真面目にやってられっかよ!」
『石山さんはどちらかというと不真面目キャラかと』
「細見さん、不真面目なのはみんなですよ」
『え?長浜さんも?』
「私だけじゃありません。このチームはみんな自由。でもそんなくそ真面目じゃなないそれぞれの意思を尊重し合っている」
『意思を……尊重……』
「そう、だから僕がいつも朝礼に寝坊してきても誰も怒らないんだ」
『ジョンの場合は朝礼で寝てても何も言われないもんな』
「そういうことよ、本当にまとめにくいチームだわ」
「私も現場でどれだけ大変か……。でも細見よ、今回は本当によくやった。初戦としては間違いなく合格点だ。これからも頼むぞ」
『マネージャー……はい!!』
「じゃあみんなちょっと休憩して、まぁいいタイミングでテキトーに集まっちゃって!」
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