第五章 我が国の魂

 「あらジョン、珍しいわね。司令も朝礼に出てくるなんて珍しいって言ってたわよ」

 「あ、麗花さん。ちょっと、力くんに話が」

 「細見くん?今は石山くんとトレーニング中ね」

 「分かってます。できれば帰ってきたタイミングで話したくて」

 「何か意図があるのね?」

 「まぁ仮説の域を出ないかも知れないけど、トレーニング後のアドレナリンが出てる時間で喋った方が早いかなって」

 「相変わらずちゃんと計算してるのね」

 「無駄な時間は過ごしたくないから」

 「で、細見くんにしたい話って?」

 「僕もあのDVD、もう一回見たくて。あれ、複製禁止だよね?」

 「そうね。まぁ何度見ても減るもんじゃないけど、珍しいわね、ジョンが同じ教材を二度も見るなんて」

 「原点に帰りたくて。ルーツって言うのかな、確かめたくて」

 「ジョン……」

 「…………」

 「分かったわ。私は石山くんに力仕事を頼んでくるから、そのタイミングで細見くんを捕まえなさい。あなたの力仕事はチカラホソミと喋ること!ね」

 「ありがとう、麗花さん」


 「石山くーん!トレーニング中に悪いんだけど、ちょっとあの石運んどいて!」

 「別所さん!石山さんに石!!雑!本当に細かいことを気にしないお人!」

 「ほいよぉ!」

 「快諾!」

 「あ、そうそう細見くんはちょっとスタッフルームでジョンの手伝いをお願い」

 「ジョンさんの?」

 「一人だと大変そうだったから、私ちょっと総本部に用事があるから手伝えなくて。だから、よろしくね」

 「あ、はい」

 「ってことで今日のトレーニングはここまでだ!相変わらずお喋りが長くてなかなか進まねぇが、まぁちゃんと重たいもんが持てるようにするんだぞ!」

 「喋りすぎは絶対あなただ!」


 と、まぁ石山さんの意外な……意外というか何も知らなかっただけか。彼の過去を不意に知ることとなった。この類の話はみんな共有しているんだろうか?そう考えると俺もいずれ何で闘っているのかを問われる時が来るのか?奨学金返済と生活の為に入隊したなんて生温い理由が通用する世界とは思えん。概念と愛、我が国の歴史、守るべきもの、どれもまだホワッとしているというか、歴史に関してはこれから死ぬほどDVD見なきゃ分からんし。守るべきものがその辺に転がってるとか、そんな石山さんみたいな体験談は転がってないだろう。俺が守るべきものって、何なんだろうか。

 あ、そうだジョンさんだったな。手伝うったって、あのコミュニケーションじゃどう喋りかけていいか分からん。「どもー」みたいな感じでアホを装っていくか?いや、絶対拒絶されるな。なんせ手伝ってほしいと本人から言われたわけじゃない。「お手伝いしましょうか?」いや烏滸がましいな。新人の俺に何が手伝えるってんだ。美人のお願いだからホイホイときたものの……別所さん?そうか俺が守るべきは……別所さん?違うな、事務員とは言え確実に彼女の方が強い。美脚とは言え結構強そうな脚してたし。


 「あ、力くん」

 「ジョンさん!珍しいですねぇ、スタッフルームにおられるなんてぇ!どもー。あはは」

 「もしかして麗花さんに何か言われた?」

 『れ、麗花さん?』

 「レイカベッショ」

 『あ、別所さん。そうですそうです。ジョンさんを手伝えと』


 俺は出来心からでも守ろうとしていた人のお名前すら知らんとはな!何たる不覚!しかしこれで忘れない。別所さんは麗しき花。


 「うん、力くんにお願いがあるんだ」

 「俺に?」

 「DVD、一緒に見てくんない?」

 「なんと!エッチなヤツですか?素人物がお好きとか?ジョンさんもそんなご趣味をお持ちとは!」

 「違うよ、昨日麗花さんから受け取ったやつ」

 「もしかしてあの中に麗しき花が映り込んでいるのか!!」

 「まぁでも確かに国生みの物語ってエロスだよね」

 「生むってことは!えぇ!?やはり!そりゃあれだけの枚数あれば一枚ぐらいヌキ用のものがあってもおかしくない!」

 「国生みの物語でそう感じるなら、相当斜め上の性癖だよ」

 「え?俺の性癖!?えっと……」

 「いいよ、言わなくて。そういう秘密は持ってた方がいい。」

 「ほっ」

 「僕が力くんにお願いしたいのは、一緒に見ながら感想をお互いに言い合うことなんだ」

 「どのシーンがヌけるとか?」

 「まぁそんなところ」

 「どんなところ!?」

 「あ、総本部への音声伝達システムがオンになってる」

 「細見くん、聞こえていたわよ」

 「司令!!」

 「若いわね。巨乳の熟女ものなんてどうかしら?」

 『嫌いじゃないです!』

 「…………」

 「返事は!!』」

 「ふっ、やっぱり、力くんは面白いね。好きだよ、僕」

 「好き!?まさかのBL展開!そうか、一緒にDVDを見るのは部屋に相手を連れ込む常套手段!チャラいヤツがよく使う手だ!」

 「僕が君の部屋に行くから。よろしくね。今夜二十時からね。ありがとう」

 「積極的!自分から乗り込んでくるパターン。普通なら入れ食い!」

 「じゃあ僕は研究に戻るから、後でね」

 

 モテ期到来か。そういえばここに客として来た初日も似た様なことが……膳場さん!でも入隊した途端に膳場さんとは喋らなくなったような……。忙しいんだろうな。

 ところでまだ昼じゃないか。ジョンさんとの約束まで時間があるから、こういう時は先にシャワーを浴びて歯を磨いてベッドメイクをして……って違う違う、俺は何をふしだらな妄想を……。もういい、疲れた。腹減ったな。食堂行くか。

 もう三食連続で味噌汁を食べているのに不思議と飽きないもんだな。っていうか米が美味いぞ。いい米使ってんだろうな。ってかよく見たらただの白米じゃない?


 「新米に雑穀米や」

 「か、和美!」

 「そろそろ食べに来るかなと思て見に来たんや。どんな顔して食べてくれるかなて」

 「い、頂いてます。今日も美味い!って、雑穀?」

 「そう、雑穀や。白米だけやとちょっと栄養が足りひんからな。かといって玄米はちょっと消化に悪いっちゅうか、うちは大丈夫やけど、どうもジョンさんが苦手みたいでな。それで日替わりで色んな雑穀を入れるようにしとるんや。たまに赤飯みたいになっとる時もあるからそれはその時のお楽しみや」

 「ちゃんと考えられてるんだ」

 「当たり前や!みんながいつでも元氣に闘えるようにするのがうちの仕事やからな。ところであんた、ちょっと顔つき変わったな」

 「え?そう?モテ期だからかな。」

 「モテ期!?うち以外に誰かおるん?」

 「和美を入れて三名。うち二人は男性だ!いや、別所さんにも部屋に呼ばれたし、司令もちょくちょく色仕掛けをしてくる。入れ食いだ!!」

 「勘違いやと思うけどなぁ……でも……うちは……」

 「ちょっとタイム!なんでこんな展開に!」

 「ふーん、知りたい?」

 「いや、あの……近い……」

 「知ってた?食堂は監視カメラもマイクも一応切れるんやで?食事はプライバシーやから」

 「で、だからその、なに?」

 「……なんでもない!知らん!」

 『知らんって……』

 「まだ二日目やもんな。ごめんな」

 「え?」

 「でも、分かってもらえるまで、絶対……」

 「絶対?」

 「……なんでもない。早よご飯食べ」

 「あ、うん」


 可愛い女の子がふくれっ面の赤面とはな。これはやはりモテ期だ。しかし困った。何の取り柄も家柄もない俺だ。生まれてこの方女性とお付き合いというものをしたことがない。当然告られたこともない。ましてや男性なんて考えてこともない。そしてみんなには秘密にしているが、俺は童貞だ。


 「童貞なのは知ってっちゅうねん。見たらだいたい分かるわ」

 「だからなぜ時折俺の心の声はこうして駄々洩れに!!」


 なんだか散々な昼食だったな。散々って言うか、マジでどうしていいか分からん。そもそもナショナルチーム、国防だろ?概念と愛とかなんか結構重たいテーマなのに、こんなくだらんラブコメで大丈夫か?これは作者の照れ隠しか?逆に恥ずかしいんだけど。

 そうだ、別所さんの部屋に!参ったな、同年代の女性に言い寄られた後に歳上女性、しかも別所さん、麗しき花のお部屋に身体一つで乗り込むなんて。汚らわしいヤツだと思われないか?麗しい花を汚す俺、というのもアリか。……ん?なぜそうなる?俺は上司に教えてもらうだけだよな。しかしエロビデの設定としてはテッパンだよな。ワンチャンあるか。


 「ないわよ!早く入りなさい。何をぶつぶつと、人の部屋の前で。気持ち悪いんだから」

 「麗しき花からの罵倒。何たる褒美。ありがとうございます』

 「何の御礼よ!」

 「あ、失礼します」

 「和美ちゃんに何か言われた?」

 「あ、……いや、別に」

 「あら、あなた、顔真っ赤よ?」

 「いやこれはそうじゃなくて!」

 「彼女ねぇ、ああ見えて寂しがり屋なのよ。同年代の隊員がずっといなかったからあなたが来て嬉しいんだと思うわ。ずっと最年少だったしね」

 「そうなんですか」

 「それでいて実はシャイなの」

 『あの距離感でシャイとは!』

 「彼女がナショナルチームと最初に関わりを持ったのは十五歳の頃。その時からずっとだもんね」

 「十五歳!?」

 「競泳の有力選手だったのよ。ナショナルフィットネス所属の選手として、世界選手権にも出ているぐらいの選手よ。今の様にチーム員になったのはまだ3年前の話だけどね。二十歳の節目で競技をあっさり引退したと思ったら、国を守りたいって言い出してね。」

 「それは何故?」

 「馬鹿ね、ここからは本人から聞きなさい。喜んで喋ってくれるわよ」

 「そうですか。では取り急ぎ個人授業を」

 「そうね、自律神経系の話だったかしら」

 『はい、交感神経ビンビンであります」

 「はいこれ。自律神経系の本。どうせ時間あるでしょ。たまには読書でもしなさい」

 「ほ、ほ、本!?」

 「それ、分かりやすくまとめてあるから。それからその辺の分野、生理学っていうけど、ジョンが一番詳しいわ。これから彼に色々と教えてもらいなさい。でも予備知識を付けてから話を聞くこと。専門家に話を聞くときの礼儀というか、学びを深めるコツよ。その手の本ならいくらでも貸してあげるから、またなんかあったら部屋に来なさい。今度はノックして普通に入ってくるのよ」

 「はいー」


 モテ期が来ようとも、本命の麗しき花からは見向きもされない!これは何たる運命の悪戯!いやそういうプレイか!?はぁ神よ!…………神?……神経?なんか関係あるんかな。


 自律神経系

 自律神経系とは意思とは関係なく働き、内臓、血管、分泌腺をコントロールする働きを持つ末梢神経である。自律神経系は交感神経と副交感神経に分類される。

 交感神経は「闘争または逃走」と呼ばれ、身体を興奮状態にして臨戦態勢にする。副交感神経は交感神経と対を成し、「休息または消化」と呼ばれ、身体をリラックスモードにする。

 敵と対峙する時は交感神経が優位となる。五感が研ぎ澄まされ血流が促進される。当然敵と対峙している時に食事や排泄をするわけにはいかない為、これらの機能は抑制される。逆に言えばリラックスモードでないと消化や排泄は適切に行われないということである。

 慢性的なストレスに晒されると本来副交感神経が優位になる状況でも交感神経のスイッチが入ったままになってしまうことがある。こうなると消化不良、便秘、睡眠不足を引き起こし、本来力を発揮したいときには既に疲労してしまっているということにも繋がる。

 生活リズムと食事を整え、ストレスをマネジメントし、適切な運動とそれに見合った休息を獲得することで、自律神経系のバランスを整える必要がある。



 なるほどな。だから飯食ったら眠くなるのか。朝に別所さんが言ってた夜寝る前に画面を見るなって言うのもこういうことだったのか。ところで末梢神経ってなんだ?習ったような気がするな。お、書いてある。

 末梢神経は脳や脊髄と末梢の骨格筋や感覚器や内臓等を繋ぐ神経……なんだか複雑だな。そういえば脳と脊髄が中枢神経って言うんだっけ。理科でやったなそういえば。中枢と末梢。そうか俺なんかは末梢だよな。総本部、司令とかが中枢ってことで考えるとよく分かる様な気がする。

 お、運動神経ってのもあるな。運動神経がないって言う表現は間違いだってこれも理科で聞いたことがある気がする。そらそうだよな。神経がないなんてそんなことあるわけない。

 っていうか何でここまで気になったんだっけ?そうだ、神だ。神の経。経って、経るって読むよな。え?神の通り道?神ってなんだ?そういえばさっき「おお、神よ!」なんて言ったけど、そもそも俺って神を信じてるのか?いや、信じるべき神とは?うち、仏教だよな。あれは神じゃなくて仏。ん?神って誰?俺の中に、神の通り道があるとすれば……俺は……神?

 

 「力くんが神だってのは、面白い発想だね」

 「ジョ、ジョンさん!いつの間に!そして俺の心の声は良く届く!」

 「ノックしても返事ないから開けちゃった」

 「普通立ち去る展開では!?っていうかもうそんな時間ですか?」

 「ううん。研究に疲れたから。DVD見てもいい?」

 「あ、うん、え?これ、全部?」

 「まさか。昨日はどこまで見たの?」

 「まだ最初のやつ、途中です」

 「じゃあもう一回頭から。付き合ってくれるよね」

 「は、はい」

 「倍速再生で、行こうか」

 『え?』

 「これ、喋るの遅いでしょ?」

 「確かに。おどろおどろしいほどにのろかったです。」

 「倍速にしてもきっと聴き取れる。後は僕たちの脳の処理能力だけが問題。でもそうやって負荷を掛ければ慣れるはずさ」

 「そんなもんなんですかね」

 「漸進的過負荷、だよ」

 「あれ?それどっかで聞いたような……」

 「ま、とりあえず見ようか」


 そして俺たちは『我が国の歴史』の第一章をジョンさんと横並びで、まるで恋人かのごとく鑑賞するのであった。


 「我が国って、いい国だよね」

 「このDVD見ると、本当にそう思いますね」

 「お陰様とか、頂きますとか、ご馳走様でした、とか、ママの国にはなかったから」

 「ジョンさん、お父さんが我が国の出身でしたっけ」

 「そう、国籍は我が国で取った。迷うことはなかったな」

 「いい選択だったんでしょうね」

 「でも、やっぱり混血は混血。見た目だって、名前だってぱっと見は外国人だよね」

 「あぁー……でも大事なのは、中身?かな、なんて」

 「力くん」

 「あ、いや、すみません。分かった様なことを……」

 「そうだよね。僕は他の誰よりも我が国の魂を心に持っていると思っている」

 「我が国の……魂」

 「そう、DVDにもあったように、先の大戦、あの敵国はママの国だ。僕はああいう戦争は誰が悪いとかなんてことは見る角度によって本当に変わってくると思っている。ママの国にはママの国の、我が国には我が国の、そして第三国から見た、それぞれの見解があると思うんだ。許せないのは、負けたことによって負けた国の言い分が通らないってこと。これっておかしいと思わない?負けた国が勝った国に裁かれる弾劾裁判って何なんだよ。普通、裁判って中立な者が裁くでしょ?喧嘩両成敗っていうじゃん。喧嘩して、腕っぷしが強いヤツだけが正義を貫くとしたら、ただ力が強くて声がでかいヤツが正しいってことになる。そんなこと、小学生だっておかしいって分かる。しかも負けた側は嘘の歴史を上塗りされる。ただ負けた国が悪かったという事実だけが捏造されていく。そうして改造された魂が増殖して、おかしいことをおかしいと言ったら、そのことがおかしいと言われる空間が作られていく。今の我が国はまさにそうだよ。僕は両国のことに関してどちらも調べた。ぶっちゃけた話、どっちが悪いとかではない……と僕は思う。どちらにも落ち度があったし、どちらものっぴきならない事情があったんだと思う。でも、だからこそ、敗戦国のレッテル……これには納得がいかないんだ。」

 「ジョンさん……」

 「アハハ、僕みたいな風貌でこんなことを言ったらギャグだと思われるかな。でも本当にそう思っている。事実、僕みたいなハーフの方が我が国のことは客観的に見えていることが多い。色々と比べて見ちゃうからね。そこでいつも思うんだ。我が国は変な風習があるって、我が国のメディアはそういうことを垂れ流すけど、僕たちからしたら変じゃない、凄すぎるんだ」

 「凄すぎる?どこが?」

 「どこがって言われると難しいな。そうだ、さっきの神様の話」

 「話してはないんですけど。心の声ね」

 「まぁいいじゃん。我が国って言ったら、八百万の神、でしょ」

 「え?あ!聞いたころあります。神社とか」

 「そう、万物に神が宿るって考え方だ。アニミズムなんて言われたりもする」

 「アニ……アニサキス?」

 「それは魚の寄生虫だね。逆に料理しないのに何で知ってるの?でも魚の文化だってそうだ。これだけ海に恵まれている国も珍しい。海の水が水蒸気となり雲となり雨を降らし、雨が土に染み渡り川になる。川の水は僕たちの命になってそしてまた海へ帰る。そしてまたいつか雨になるという壮大なスパイラルの中で僕たちは生かされている。だから水にも山にもそして植物の全て、岩も、水蒸気を作る為に必要な熱を与えてくれる火とか太陽も、日本の神話では全て神が宿る。天照大神が女性だというのも素敵だね。弟にあたる素戔嗚、その両親の伊弉冉と伊弉諾……それぞれに物語があってもう話し始めるとキリがない。そんな素晴らしい神話があるんだ。そしてその神話の行きつく先が僕たち。繋がってるんだ。壮大なスパイラル。これは凄いことだよ。僕のママはクリスチャンでイエスを信仰することが悪いとは思わないし、聖書だってよくできている。でも、僕は古事記や日本書紀が好きだな。好き嫌いの問題で優劣の問題じゃないとは思うよ。でも何となくこれが好きだって気持ち、それは大切にしたい。その気持ちって誰にも邪魔されるものじゃないと思うんだ」

 「古事記、日本書紀……歴史で習ったっけ……」

 「あんなの、習ったうちに入らないよ。このDVDシリーズが壮大なものになっているのは必然。我が国の歴史の教科書は我が国の歴史の厚みに比べたら薄すぎる。しかも大切なことは殆ど書いていない。一応重要だとは言っているくせに古事記の中身を学ばないのはなぜ?歴代天皇のことは何故スルーするの?あんなのは歴史じゃない。神話と切り離された、むしろ作り話。あんな教科書こそ焚書した方がいいのかもね」

 「焚書?」

 「本を燃やすこと。残念ながら我が国は戦後重要な書物や資料が大量に焚書された。ママの国の人たちにね……。まぁそれも必然だったんだろうけど、その事実が伝えられない歴史教育なんて、何の意味があるのかな?」

 「すごく、熱い氣持ちがあるんですね、ジョンさん」

 「まぁね。だって僕たちの闘いは、こういった教育しか受けて来なかった被害者を救う為でもあるから」

 「被害者……」

 「力くんももそう、地方Fランとは言え、大学行ったんだろ?」

 「ええ、あんなところ誰でも入れます。奨学金使えば無敵です」

 「無敵ではないだろうけど。ってことは受験したでしょ?」

 「ええ、まぁ一応」

 「じゃあ君も被害者だよ。受験に受かるには教科書のことを頭に入れなきゃならない。無垢な少年にそれを教えるってことは、吸収力の高いスポンジに毒の入った水を吸わせるようなもんだよ。分かるだろ?汚れたスポンジを綺麗にするにはそれなりの水がいる。僕たちは水になるんだ。このDVDも水みたいなもん。洗い流すんだよ。毒をね」

 「水……」

 「水の神というのも神話にはたくさん登場する。中でも僕が好きなエピソードは。おかみ。古事記では淤加美おかみだね」

 「この人めっちゃ詳しい!何この中二病が好みそうな漢字は!」

 「女将おかみさん、っていうでしょ?それって水回りを仕切ってくれる人への敬意の現れだとも言われているんだ。このチームで言ったら和美がオカミ、だね。感謝しなきゃ」

 「和美がオカミ……水の……そういえば競泳選手って……そんな偶然……」

 「そう、まさに彼女は力くんにとって……」

 「俺にとって……?」

 「いや、やめておくね。あ、もう四時間も居座っちゃった。ごめんごめん。あの、話せて嬉しかったよ。明日も空き時間があったら、いいかな?」

 「い、いいですけど……」

 「そうそう、毒を洗い流すってさっき言ったけど、この考え方は悪用すると単なる自己啓発セミナーとかそっち系の洗脳になるから要注意。悪用している奴らは僕らの敵だからね。じゃあまた明日。そうだ、明日は力くん用の戦闘機が届く予定だね。幸運を」

 「は、はぁ」


 ジョンさん……めっちゃ喋るやん。疲れた。寝よう。

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