5. 夜の森(1)



「───っ!?」



 ハルトが眠りから目を覚ましたのは、まだ夜の更ける頃だった。

 今までに感じたことの無い何かを察知し、ハルトは慌てて飛び起きた。



「何だ、今の……?」



 森が、揺れた。


 地震ではない。大地だけでなく空間そのものが揺れたような感覚だった。背筋に嫌な冷たさが走り、肌がひりつく感じがした。


 それが何なのかはわからないが、空気の張りつめる感じがいつもと違う事だけは間違いなかった。初めて経験する『何か』が起こっていると、ハルトは直感で悟った。



 汗ばむ額をそのままに、壁に掛けてある時計の針に視線をやる。先程ハルトが眠ってからまだそう時間は経っていない。経過したのは丁度・・家から・・・村の出口まで・・・・・・歩く・・のと・・同じ・・くらいの・・・・時間・・だった。


 先程見送ったばかりの、唯一の家族の顔が浮かぶ。感じた悪寒の正体が、人に害をなすものだったなら……と、嫌な想像をし、ハルトの顔からすっと血の気が引いた。

 刻限はとっくに過ぎている。今から出歩くのは村の『決まり事』には反するが、万一何かあってからでは遅い。



「……ちょっと、見に行くだけだ」



 手早く支度を済ませ、自室を出て居間へと向かう。


 大樹の出口まで行ってみて、何もなければそれでいい。玄関近くの壁に立てかけられた狩猟用の直剣を手に取り、ハルトは家を飛び出した。

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