第1章.来し方行く末繋ぐもの①
「ねぇねぇ聞いた?転校生の話!」
「え、転校生!?なにそれ!!」
「さっき、先生が話してるの聞いちゃったんだけど、女の子が転校してくるんだって!」
「マジ!?楽しみ!!でも、中三の六月のこんな時期に転校してくるって……」
「あ、確かに。前の学校で何かあったとか?」
「えー、なんだろうね」
朝から噂話が飛び交うのは、区立
区立一ノ瀬中学校。それは、東京都内に五年ほど前に建設された、まだまだ新しい中学校。
ガラス張りの校舎と、木を基調にして造られた廊下や教室がとても綺麗な学校だ。
―――私は今日、ここに転入する。
「おはようございまーす」
「あっ、ほら、先生来たよ!」
「今日は、いきなりだけど転校生を紹介するぞ」
教室がざわざわし始めた。
「さぁ、入ってきて」と転校生を手招きする先生。
その手招き先にクラスの誰もが興味津々。
「はい」
そう言って入ってきたのは……長い髪を三つ編みでひとつに結い、丸いメガネをかけた女の子。
「やったー!女子じゃん!」
「髪なっが!三つ編みした状態で腰より長いじゃん!」
「……でも」
「……なんか地味だね」
「しっ!転校生が可哀想じゃん」
女子の転校生に喜ぶ男子生徒。髪の長さに驚く女子生徒。
それぞれから黄色い声があがったものの、それは直ぐに収まった。
転校生は少しばかり地味だった。
「じゃあ、自己紹介してくれるか?」
「はい」
「あ、名前を一応黒板に書いてくれ」
転校生の女の子は、近くのチョークを手に取り、黒板の真ん中に縦に名前を書いていく。
“凰宮 文夜姫”という字を書き終えると、両手に付着していた粉を払って前を向く。
その時既に、クラスはまたざわついていた。
「え……凰宮って歴史の教科書で見たことある!!」
「え〜なんかテレビで聞き覚えあるんだけど!!」
「偶然じゃね?」
「なんかすごい名前だな……」
「凰宮…………?」
そのクラスメイトの中に一人、凰宮という名前にやけに敏感になっていた人物がいたことは、誰も知らない。
「初めまして。
言い終わると、彼女は深く一礼した。
彼女を言い表すなら、きっとそう、“お姫様”。
「はい、みんな静かにー。凰宮さん、ありがとう。じゃあ、凰宮さんに質問がある人はいるか?趣味とか好きな食べ物とか。なんでもいいぞー」
勝手に質問を募集し始める先生と動揺しない文夜姫。
「はい!!」
一人の女子生徒が元気よく手を挙げた。
「凰宮さんはどこの中学から来たんですかー?」
「え、えっと……」
戸惑う文夜姫。
しかし、ほかのクラスの子達もそれが気になり始めた。
「珍しい制服だもんね。私立とか?」
「それっぽいーー!」
文夜姫は急な転校で制服が間に合わず、前の学校の制服で登校していた。
クラスの子達はその制服に目をつけ、彼女の前の中学について予想し始めたのだ。
「わたし、その制服知ってるよ〜ん」
「「マジで!?」」
制服を知っていると言い出したのは、眠たそうにしている女子生徒。
クラスみんながその子に注目する。
「うん。知ってるよ〜」
「え、なんて中学?」
「
さっきまでの眠気はどこえやら、真面目な声で話した。
それはまるで朧月学院を本気で高く評価しているようだった。
「え!?朧月学院大学の付属校的な学校?ヤバすぎっ」
「朧月学院ってめっちゃ頭良い大学でしょ?」
「うっわ超ヤバイじゃん。凄っ」
生徒たちの反応は実に様々で。
というわけではなく、ほとんどの人たちが“ヤバい”を連呼していた。
「でも、なんでしずくはそんなこと分かったの?」
先程まで眠たそうにしていた女子生徒は、しずくという名前らしい。
「だって〜、私、中学受験でそこ落ちたんだもん♪」
「うん。なんかごめん」
しずくという子は両手でピースの形を作って、「いぇ〜いっ」と元気に声を出しているが、クラスはなんとも言えない雰囲気に。
この雰囲気を変えようと、先生は咳払いをひとつして、
「えっとそれで、凰宮さんの前の中学は朧月学院で合ってるのかな?」
「……はい」
文夜姫はなぜか自信の無さそうに答えた。
それは、前の中学がバレたくなかったようにも見えた。
「うぉー!すっげー」
「やば〜〜」
だが、そんな文夜姫とは逆に、クラスメイト達は盛り上がっていた。
「じゃあ、そろそろ時間なので他に質問したい人は休み時間にでも聞いてください」
「「え〜」」
「あ、凰宮さんの席はあそこね。
「はい」
そう言って先生が指さした席に向かう。
席の一歩手前で例の学級委員の女子に話しかけられた。
「さっき先生から教えてもらったと思うけど、私が学級委員の
皆方栞という子は、ふわふわした胸ほどまでの長さの髪をおろしていて、おっとりとした目を持った、いかにも良い人という感じの女の子だった。
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「そんなにかしこまらないで大丈夫だよ!今日からクラスメイトなんだから」
「あ、えっと、うん!あ、ありがとう……」
それから文夜姫は自席に着席した。
文夜姫の席は教室の一番窓際の一番後ろの席。
右隣には真面目そうな男子生徒が座っていたので、自己紹介をしようと声を掛けた。
「隣の席になりました、凰宮文夜姫です。よろしくお願いします」
「あ、うん、こちらこそよろしく」
そう言って男子生徒は右手を出し、二人は握手を交わした。
―――きっと、この時から私の運命は始まっていたんだ。
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