伝説と不機嫌な仲間達




 とある施設に集められた8人の少女達、集めた奴等と合わせて11人。主催を眺めながら説明を待っていた。



「第一回[魔女会]定例会を開催します!イエーイドンドンパフパフゥ!…って1人くらいノッてくれてもいいじゃん」


 

 特に意味のない盛り上がりで1人テンションを上げていたアホA。仕方ないから淀と呼ぼうか。

 淀は集めたメンバーの顔を改めて見渡して、リアクションを待っている。

 


「ふざけてねぇで呼んだワケを話せ。ナメた用ならブッ殺すぞ」



 と、喧嘩腰で告げる不良少女。今にも手が出そうだ。でも実はここに来る前に手が出ているし、既にボコボコにされている。

 今は大人しく椅子に座らされているが、とても不服そうだ。

 


「せやねぇ…見たぁ感じ、無意味にあつめたんとは違うんよね?」


「突然拉致られてくれば“魔女”ばっかり…少し前なら半狂乱だ…」



 紫のベールを重ねた装束と背丈程の棒を持つ少女と、その隣で疲れた顔をしている道化師の様な少女は思った事がそのまま口に出ている。

 見渡せば全員何処かで見たことある顔ぶれ。特に元“魔法少女”である道化師風の彼女は、何人かと戦った事があるらしく引き攣った表情で見ないようにしている。



「おんやぁ…ミツバ!?ミツバじゃないか!どうしたんだいこんな所で君も“魔法少女”辞めたってホントかい?」


「うわっ、ナニ!?…え、ジャックポット…先生?えっ本物!?」


「どうせなら師匠って呼んで欲しいなァそれが良い格好イイ。まぁ何だよ積る話はないけど後でゆっくり話そうじゃないかワタシは結構暇なんだ」



 唐突に視界に入り込んできたのは、テンガロンハットを目深に被るテンション高めなウェスタン風“魔女”。最近の新人は知らないかも知れないが、現在活躍している“魔法少女”達ほど認知度の高い“魔女”である。

 そんな彼女はある日突然『埒が明かない』と言い残し、[魔法院]から姿を消した。確認されている中では1番初めに“魔女”へ転身した“魔法少女”であり、当時は対魔女戦闘を教える戦闘指南役も努めていた。その教えを受ける1人だったミツバは、思わぬ再会に目を丸くしている。

 

 若干装いが変わってはいるが、当の本人は特に気にした様子もなくバシバシとミツバの肩を叩いている。

 


「おいジャック、止めてやれよ困ってんだろうが。あんたミツバって言ったな?」


「あ、うん」


「そうか!なら3人組で魔女狩り専門だったってのはミツバだな!?」


「そうだけど…」


「やっぱりか!オレと戦ってくれ!力比べしようぜ!なあなあ戦おうぜ!」



 道化師風の“魔女”ことミツバは、元“魔法少女”である。しかも魔女狩りを主軸に活動していた。その活動内容から、確認されている“魔女”の一覧には目を通している。当然それらは自分達が戦う事を想定して読み込んでおり、危険度の高い“魔女”ならそりゃもう活動地域から近いとか関係なく一通り知っている。

 ここに集まっているメンツは、初対面だろうが情報だけなら大体知っている。目の前でウッキウキに力比べを求めている彼女だって知っている。調べたからではなく、そもそも有名な“魔女”だからである。それは所謂戦闘狂。バトルジャンキーな“魔女”としての噂が良くも悪くも伝わっている。



「はいはーい!みんな注目!ここからは皆を集めた発案者のボクが、進行するからね〜」



 と元気よく話しだしたチビっ子。クライペイントの変身前、卯月 はねるだ。その中身は愛らしかった幼女から、クソガキに変わりつつある。こっちの方が素に近いが、割とまともで話の通じるタイプなのは救いだろう。



「まず結論から言うけど、君達を鍛えようと思うんだ。ほら、君達って弱いじゃん?」



 面と向かって『弱い』と言われいきり立つ“魔女”達だが、誰1人行動に移さない事が既にその証明だろう。一気に悪くなった空気だが、意に介した様子もなく話は続く。



「今の状態なら、ガラードちゃんと玲奈ちゃんが頭一つ抜けてるけど、ボクらからすれば十把一絡じっぱひとからげで変わらないんだよね。君達がボクら1人を袋叩きにしても大した脅威じゃないし。タイマンで“魔法少女”の強い方の子達と戦えば負けちゃうだろうし。だから、君達を鍛えようと思うんだ。具体的にはボクらの1人を囲んで袋叩きにすればワンチャン生まれるぐらいかな、それなり以上には強くなってもらうよ。あ、嫌なら帰っても良いよ」



 こんな事を言われて黙って帰るなら、そもそも呼んでない。それに、態度は悪くてもこの場の殆どの子は活動目的が似通っている。言葉は散々で気に食わないが、この提案は非常に魅力的である。気に食わないが。



「質問とかは後で受け付けるから、全部聞いてね。それぞれ前にも言ったかも知れないけど、今後“怪物”が一層強くなると予想してるんだ。その時に“魔法少女”が簡単に負けるなんてのは望む所じゃないでしょ?守りたくて“魔女”やってんだから。ある程度差はあっても、“魔女”が強ければその地域の“魔法少女”もそれに勝てる様に強くなってくれるからね。君達には高めのハードル兼踏み台になって欲しいのさ。…それに、君達が簡単に負けるなんてイヤだからね。そうそう追い付かせる気はないけど、君達はボクらに並べるだけの素質があるわけだから。潰れたら勿体ないでしょ」


「まぁぶっちゃけ、コダマちゃんがやってた強化合宿が面白そうだったからやってみたいだけなんですけどね。ただ、普通に呼んでも皆さん来てくれないでしょうし、集まるメリットを用意したんですよ」



 あーだこーだ言った所で、結局はこんなもの。

 そうなのだ、羨ましかったのである。


 コイツ等は[魔法院]で行われている、『最強』の“魔法少女”によるブートキャンプが羨ましかったのだ。今でも時々開かれており、仮想敵どころか飛び込みの敵役として召喚されている。


 その度に思うのだ、楽しそうだなぁ~…と思うのだ。

 ならもういっその事、自分達でもやってみようじゃないか。


 思い立ったが吉日。

 野望を抱いて走り出した千歳と はねるは、部屋で大人しくボトルシップを作っていた淀を巻き込んだのだった。巻き込まれた淀が、話を聞いてすぐ乗っかって動き出したのは語るまでもない。そのボトルシップは部屋で寂しく転がっている。



「そーゆー事で、ボクは大量の宴会料理を作りたい!」


「私は若い子の話を聞きたい!」



 イベントなら淀のテンションだって高いだろう。この場の全員は普段の淀を知っている。コイツは一体何を企んで居るのか、と視線が集まるのは自然な事だ。

 


「今回は二人に巻き込まれただけなんだよねぇ。そりゃあ面白そうだから参加するけど、別に何も考えてないよ?」



 とだけ答えて、淀は2人の後ろに引っ込んだ。本当に何も企んではいないのだから、特に話したい事もない。なんなら、2人の突然な部屋訪問に驚いて壊してしまったボトルシップの悲しみが、今になってやってきている。完成までは遠いが一区切り付きそうな段階だったらしい、完成図を思い描いてニヤニヤしていた所で振り出し以前に戻ってしまった。



「でなわけで、ボク達が主催の強化合宿を行います!期間は今日から飽きるまで、荷物は着替えと貴重品。3人までなら勝手に呼んでもOK!準備出来た子から宿へ送ってくよ!」


「チョォォォット待ったぁぁぁ!」


「どうしたんだい?英里ちゃん、そんなに大声だして」



 ピシッと、挙手をしながら大声で待ったを掛ける彼女も当然“魔女”である。 



「皆さん、初めまして。角田つのだ英里えいりです!デルタでも大丈夫です。北海道でブレイブシスターズのリーダーやってます!誰が誰だか分かんないので、自己紹介をお願いします!…あ、合宿には参加します!よろしくお願いしまぁぁす!」



 と、簡単な自己紹介をして周りの“魔女”達に目を向ける。だって誰も知らないんだもの。見た事聞いた事ある容姿特徴だったとしても、直接会うのは初めてなのだ。

 もっと言うなら英里は地元から滅多に出てこない。本州への用事などまず無いし、あったとしても【あの魔女】達の誰かに頼んでおけばそれで済む事ばかりである。それにそもそも北海道が広すぎる。ちょっとあっちへ様子見に行くだけでも時間が掛かってしまう。あんなのどうしろってんだ、端から端への移動にどれだけ時間が掛かると思ってるんだ、頑張っても半日は掛かるぞ、そんなことしたら疲労で動けないけどな。そんな所であっちこっち出向いては“怪物”と戦ってるんだ、暇なんて無い。

 なんて思いながらの主張だったが、周囲の反応は本人が思っていたのとは違って静かなものだった。

 まるで品定めでもするかのように見詰められ、困惑している。


 それもそうだろう。

 ブレイブシスターズの名前は本人達以外の“魔女”からすれば非常に価値を持っている。日本に2つだけ存在する活動を黙認されている“魔女”の組織。しかもそのリーダーとなれば興味を持たれるのは当然の事だろう。

 まあ、ここに居るのは確かにリーダーではある。主に運営に携わっているのは彼女の相方なのだが、それを知っているのは黙って見ているアイツ等3人だけ。


 

「英里ちゃんね、オッケーよろしく。私のことはテルテルって呼んでね。好きなものは激辛料理、特技は暗算。最近はジグソーパズルにハマってるよ。はい、次」



 こんな時に役に立つのは、比較的ノリの良い奴である。

 しかしこの場にいる全員が“魔女”である。つまりはボッチだ。人見知りでコミュ症で無口でビビリかも知れないが、そうじゃないかも知れない。

 その中でもこのテルテルと言う“魔女”はそうじゃない側であり、珍しく気配り上手な“魔女”だった。この中では、と注釈は付くが、それでも居てくれて助かるタイプの人材である。


 で、そのテルテルはすぐ近くに居た、額から赤黒い角を生やした“魔女”を指差して、次の自己紹介を促した。



「ん?あぁ、オレか。オレぁガラードってんだ、よろしくな。好きな事は身体を動かす事だな、つえぇ奴と戦うのが好きだ。最近だと、ソコのグーフアップにボコボコにされたな。よし、次はお前だ」


「はーい、カザネだよ~よろしくねぇ…カザネは模型を作るのが好き〜船とか飛行船とか家とか車とかぁ。あでも、変身して魔法をいっぱい使うのも好き。最近までねぇ、“怪物”に殺されかけて入院してたんだよぉ。次はぁ…君だ」


 

 鬼のガラードは隣に居た、中華風な衣装と帆の無い骨だけの唐傘を持った“魔女”へパスを回し、カザネと名乗った“魔女”も近くに居る“魔女”へパスを送った。

 戦闘狂のガラードだが、平常時は割とまともな中身をしている事もあり、テルテルに乗っかって自己紹介の流れを作り出した。まあ偶然だが。多分、絶対に何も考えていなかっただろう。



「やーやー我こそ幸運の終着点かつ不運の収束点。女神を殴る狂信者ジャックポットと人は呼ぶ!趣味は投資特技はカラオケ最近FXで資産を溶かしたやらかした!対人戦闘ならお任せさあ!んじゃ次ミツバ行ってみよう」


「名指し!?…えっと、ミツバです。ジャックポットさんから戦闘を教わってた元“魔法少女”です。最近まで魔女狩りをしてました。趣味は特にありません。あの、次お願いします」



 自分で軽快なBGMを流して自己紹介するは露出の多いウェスタン風“魔女”なジャックポット。早口で捲し立てる様に話す自由人である。そのマイペース加減は、時にハックルベリーを上回るという。

 まだ自己紹介をしていない2人を挟んで部屋の1番端に居た、元“魔法少女”で最近[魔女会]に所属したミツバを名指しして困惑させた。何話そうかなぁ、と考えていた所への狙い撃ち。困惑したまま、苦手な自己紹介を済ませて隣のヤバイ“魔女”にバトンを渡す。


 ジャックポットの流したBGMは止まることなく、邪魔にならない程度の音量で鳴き続けている。



「ウチは泡瀬あわせ 玲奈れな。“魔女”としては名無しさんやねぇ。好きに呼んでえぇよ。趣味はお喋りで好きな事は喋る事。たぁ~くさんの冗談と皮肉がウチの生きる糧になるんよ。それと、変に方言が混じってしまうんやけど、直そう思うてたら中途半端に直ぅて中途半端に直らんかってなぁ…わけ分からん事言うたら聞き直してなぁ。ホイ次、最後」

 


 顔まで覆われている紫のベールを持ち上げて、ここぞとばかりにニッコニコで話しだしたのは【泡沫の魔女】である。コイツは変身中に呼ばれる名前を決めていない珍しい“魔女”でもある。大抵は自分で名乗ったり、誰かに呼ばれた名前をそのまま使うのだが、あえて名無しで居続けているのはこの子ぐらいだ。

 その理由はとても浅い。


 名無しってカッコよくない?


 ただそれだけである。“魔法少女”たちが【泡沫の魔女】って呼ぶからそれでも良い気がしてきているらしい。初めはきちんと名無しである理由も合ったのだが、その辺りのシリアスと決別してからはカッコ良さの為だけに名無しのままだ。

 


渡辺わたなべ 聡美さとみだ、ハンドメイカーとか【鉄腕の魔女】とか呼ばれてる。よろしく」


「えぇ~それだけぇ?他に言うことあるでしょ。ほらほら趣味は?特技は?好きなものは?最近あったいい事は?サトミちゃんはシャイなのかなぁ?」


「うぜぇ…」



 簡潔な名乗りで済ませようとしたが、妨害が入る。活動地域が近く、それなりに交流のあるテルテルが茶化しにやって来たのだ。テルテルも、泡瀬も、【あの魔女】共も、何故か揃いも揃ってサトミに構ってくるのだ。


 好きで1人を選んでいるサトミにはいい迷惑である。

 

 でも実際、興味ないとか鬱陶しいとか面倒臭いとか言いながらもきちんとリアクションは返すし、相談すれば真面目に考えてくれるし、頼めば大体手伝ってくれるし、冗談が通じない訳でも話が通じない訳でも無いので結構周りからは慕われている。


 よく言う所の、根は良い奴なのだ。ただちょっと口が悪かったり、態度が悪かったり、協調性が無かったり、機嫌が悪いと周りに当たったりするだけなのだ。



「はぁ、趣味はキャンプと昼寝、特技は無い、好きなものは動物。で、後なんだ…」


「最近あったいい事」


「捨て犬を拾ったらめっちゃ懐かれた」


「あたし、まだそのわんこに会えてないんだけど?会わせて」


「やだ」



 そして、面倒で手間だとは思っているが、別に英里の事が気に入らない訳でも無い。そもそも初対面だ、好きも嫌いも無い。聞かれれば普通に答える。隠すことだって無い。

 むしろ関わりが無かっただけに、マイナスに振れているテルテル達よりも好感度が高いのだから当然である。あいつ等からの好意はともかく、あいつ等への好感度はマイナスである。

 だから本人的には雑に対応しているが、根っこの部分が善人なせいか嫌われ役には向いていない。



「ん!終わったね。それじゃあ移動しよう。ここが何処かってのと、間取りを説明するよ。みんな着いてきて~」



 と、無事に自己紹介が一巡した所で はねるが部屋の外から顔だけ覗かせて号令をかけ、呼ばれた“魔女”達はぞろぞろとそれに応えて部屋から出て着いていく。


 廊下に出て見渡してみれば、内観は古く、跡が目立つ補修の数々。窓も割れているのか板で隠されている場所もある。だがその割にゴミや埃は少く、最低限の管理はされているようだ。

 


「まずここは山形県にある小さな避暑地だった場所だよ。詳細は言えないけど、気になるなら帰ってから調べてみるといいよ。多分出てくるから。で、特別めぼしいモノは無いけど、温泉とゆったりとして静かな環境でそれなりに人気があったんだ。でも“怪物”が出てきて、誰も遠出しなくなっちゃったからね。寂れて潰れちゃったんだ。ダメ押しにここで“怪物”が生まれちゃったもんだから、縁起が悪いし完全に諦められて廃墟になったんだよね。同じ山形県でも、銀山温泉くらい盛り上がってれば“魔法少女”を配置出来たんだけどね〜…あ、右のこの通路から露天風呂に行けるよ。淀さんが頑張って掃除してたから入ってってね。ちなみに、このボロボロの旅館だけどほとんど淀さんが1人で掃除して手直ししたんだよ。なんか土地ごと安く買ったから別荘にするとか言って。凄くない?」


 

 話の途中だが、目的はこの建物の案内である。だからそっちを優先するが、付け足された説明に視線が淀の方へ集中する。



「ごめんよ。まだ人を呼ぶつもりが無かったからインフラは通ってないんだ。ソーラーパネルと蓄電池は置いてあるけど、突然電気が切れたら察しておくれ。それと飲水は沢山用意してるし、飲めるタイプの温泉だから水も大丈夫な筈さ」



 違う、そうじゃない。

 知りたいのはそこじゃない。

 

 そんな思いはまるで通じる事はなく、淀は生活面での補足説明をする。確かに気にはなるし聞かなくてはいけない事だろうが、今は何で自分でリフォームをしているのかってのが気になる。そしてソレが出来るのも何故か気になる。


 一部の子はモヤモヤとした気持ちのままに案内を終え、ついでに部屋割もざっくり決めてしまう。



「それでこっちに来るときは、ボクか淀さんに連絡くれれば迎えに行くからね。それと、大体で良いから来れる日のスケジュールを出してもらえるととても助かる。方法は何でもいいよ、事前に来ることがわかってると、美味しいご飯が用意できるからね」

 


 建物の中をグルリと回って元の部屋に戻ってきた一同。必要な説明も済ませ、早速これから訓練を始めようとする。だって集めたのはそのためだもの。

 ただ、今日はそこまで厳しい事は無い。なにせ今日半ば無理矢理拉致してきたばかりだ、心の準備が足りていないだろうし、集めた側もそんな気はサラサラ持ち合わせていない。


 

「それじゃあ改めて、“魔女”強化合宿を開催するよ!とは言っても、今日は簡単な座学だけだけどね。まずは目標なんだけど、皆には一時的な変身形態の変化ってのを習得してもらいたいんだ。これをするためには今よりも高い能力が必要になるから、結果として全体の能力向上に繋がるって訳だね」



 全員の注目を浴びながらツラツラと話していく。相手に聞く気があるだけで、話しやすさが段違いである。

 


「この一時的な変身形態の変化は簡単に言うと、今使える何かを失う代わりに、別のナニかへ大きな強化を行う技術で、使い所を見極めれば特大の切り札になるハズだよ。実際、コダマちゃんに使われた時はかなり焦ってたよ、淀さんが。…まぁ、現状これが出来るのは『最強』の“魔法少女”のコダマちゃんと、ボク達を含めた4人だけなんじゃないかな?」



 一度話を区切り反応を伺うと、それぞれリアクションが別れていた。


 やってやろうと闘志を燃やしているのは、戦闘狂のガラードと魔法狂いのカザネ、ハッピートリガーのジャックポットの3人。

 習得目標が馬鹿みたいに高い事に気付きげんなりしているのは、元“魔法少女”のミツバ、不良少女のサトミと不天候のテルテル。

 そして特に何も考えてなさそうな顔で、成るように成れと受け入れているのが泡瀬と英里。


 

「でっ、どうやって習得するか何だけど…戦って戦って考えて戦って、しっかり休んでまた戦っての繰り返しだね。覚えられるかはボク達も分かんないけど、強くはしてあげられるよ」


「他にも簡単な魔術なんかも教えてあげましょう。魔法程強くはありませんが、使えれば結構便利ですよ」


「まあボク達も魔術は練習中だから、あんまり期待しないでね。それで今日の目玉は君達のスコアシート!10点満点で淀さんが作ってくれたんだ。それぞれ伸ばしたい場所を狙って鍛えるのもいいかもね。今日はそれを見て、自分の能力を確認してもらえればいいよ。あ、4点が平均、7点で妥協、10点を目標にしてるからね」



 当たり前の様に満点を望んでいるのはさておき、残念な事に『平均ぐらい』というのが良くわかっていない子が多い。だって、比較対象が少ないから…戦う相手は地区の“魔法少女”ばっかりだし、最近はなかなか入れ替わらないし、一緒に活動する“魔女”なんて居ないし…


 なんとなくのイメージが出来る子はなんとなく納得して、ピンとこない子は黙って渡されたレーダーチャートを眺めている。

 ここまできてアレコレ文句言うなんてダサい真似はしない。言った所で目標値を下げてはくれないだろうし、どうせトレーニングメニューはもう決まってる。コイツ等は基本的に話を聞いてくれるが、それ以上の配慮まではしてくれないと知っているから。相手が“魔法少女”なら譲歩してくれるだろうが、自分達は“魔女”だから多分それは無い。


 はねると千歳による簡単な座学がしばらく続いたが、長時間座って居られない不良少女達なので後半はただの雑談に変わっていたのは語るまでもない。


 そして、その日が終わるまでジャックポットの流したBGMは鳴り続けていた。

 また、淀は一度帰って放置してきた壊れたボトルシップを片付け、残っていた家事を済ませ、近くに出現していた“怪物”を倒し、こちらに戻ってきて部屋や厨房に風呂場とトイレをひたすらに掃除していた。夕飯までに全て間に合せ、誰にも不便を感じさせなかったのは流石と言う他ない。分身とか時間圧縮とか出来ても違和感はないが、不思議な事にそれは出来ない。

 


 










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