伝説は出張中




 3人の“魔女”は、今日も今日とて“魔法少女”を弄んでいた。最近は“魔法少女”達の実力も上がってきており、新人ちゃんでもそこそこ戦える程度にはなっている。

 “魔法少女”の数と実力が安定し始めたのだ。


 とは言え、“怪物”の被害が無くなった訳では無い。どうしたって“怪物”相手には後手になってしまう為、被害が減っても無くなりはしないのだ。


 “魔法少女”の質の向上は喜ばしい事だ。殆ど教育専属となった『最強』の“魔法少女”に加え、その『最強』を育てた“魔法少女”もカリキュラムに参加している。

 それは[魔法院]や[外敵対策課]等、所謂[魔法省]と呼ばれる組織の本気が伺えるだろう。


 少し前大敵封印前まで、狂った様に“怪物”を倒して周り、特定の“魔女”を追い掛け続けた『最強』の“魔法少女”が落ち着いた事で関係各所の大人達は胸を撫で下ろしていた。

 その張り詰めた緊張に余裕が生まれると、大人達は後進育成に今まで以上の力を入れ始めたのだ。


 何故なら、“魔法少女”達の未来の為だからだ。


 特にこれから戦いに向かうであろう、新しい“魔法少女”に焦点を当てている。既に活躍している“魔法少女”、彼女達はある程度の安定感を確保しており、仮に今後の戦闘行為を拒否したとしても指導者やアドバイザー、後方での支援等の選択肢を待っている。何よりも強力な手札として、年齢にそぐわない成熟した精神性と思考がある。“魔法少女”として活動中は、成長及び老化が限りなく遅くなり、その分の寿命が引き伸ばされている。内面だけが成長し、肉体は若さを保ったまま。若さの割に優秀である事が多い為、どの職種でも一定の需要がある。


 しかし、今回の主眼となるのは新しい“魔法少女”だ。質が高いとは言えまだまだ未熟である事には変わりない、そして“魔法少女”が引退するタイミングの多くは活躍開始から半年間である。現実の非情さや“怪物”の恐ろしさから心を圧し折られる子に、不覚を取られ再起不能に追い遣られる子等。理由は様々、“魔法少女”の半数が残ればその年は豊作なのだろう。


 何処かの白饅頭が人類全体に“魔法少女”へ協力する様に暗示を掛けているが、それでも人間は欲望に抗えないものだ。中には“魔法少女”の失態をこれでもかと責め立てる輩も存在し、護るべき人間からの批難に心をやられてしまう心が多い。やはり100の感謝よりも、1の批難の方が目と耳に入りやすいのだろう。


 [魔法省]全体として、新たな“魔法少女”への教育と訓練、そして全ての“魔法少女”へのサポート体制の強化に勤しんでいる只中なのである。


 まぁ、それはそれとしてだ。


 その教育と訓練に、最近は『最強』の“魔法少女”が掛かり切りになる事が増えてきた。

 “魔法少女”全体の強化もされてきている為、『最強』に頼らなければならない場面が減ったのである。それに、相変わらず“魔女”を追い掛けているが、水面下では一部の“魔女”との協力体制も出来上がっていた。勿論、隙があれば捕まえる気でもある。


 『最強』が抜けた穴は数名の“魔法少女”で埋められたが、どうしても埋められない大きな問題が残ってしまった。


 【あの伝説の“魔女”】と称される、東海地方周辺を根城にしている3人の“魔女”の追跡だ。


 元々は『最強』の“魔法少女”が1人で追い、必要があれば応援を呼び捕縛に尽力していた。当然現在もそれは続いているが、現場に出る事が減った『最強』の代理の“魔法少女”達では、全くと言っても良い程に歯が立たなかったのだ。

 

 改めて『最強』と呼ばれる“魔法少女”の実力と、その『最強』を持ってしても捕まえられない“魔女”の異常さを見せ付けられた。



 ここまでが、“魔法少女”側の戦いだ。

 “魔女”には“魔女”の問題が降り注いでいた。


 【あの伝説の“魔女”】と呼ばれた3人の“魔女”が結成した組織[魔女会]。所属する“魔女”の数はあまり増えてはいないが、やたらと増やす気も無いのでこれで良い。

 問題は[魔女会]のメンバーではない普通の、自然発生した野生の“魔女”にある。


 “魔法少女”の質と数の向上とは、そのまま人々と街の安全に繋がっている。“怪物”の脅威が減り生まれた余裕は、悪事を働く余裕を伴っていた。


 それはすなわち、“魔女”の増加である。


 いつか語るが“怪物”側にも変革が訪れており、それに対応すべく進められている[魔法省][魔女会]の対応策。素早い対応は素晴らしいが、それを知らなければただの余裕に他ならない。かと言って、“怪物”の変革は簡単に公表出来る事ではない。


 そういった余裕のある認識から、“魔法少女”ではなく“魔女”を選ぶ子が増加してしまったらしい。


 だからと言ってそれを見過ごす“魔法少女”ではない、余裕が生まれたのはお互い様だ。“魔女”とのモグラ叩きが始まっている。それに加え[魔女会]も野生の“魔女”への粛清を強めている。


 その中で特に“魔女”が多く、[魔女会]の粛清が強い地域がある。【あの伝説の魔女】のお膝元、東海地方周辺だ。


 理由は簡単、[魔法省]の配信をジャックして活動を宣言した【あの伝説の魔女】が居るからである。誰かではなく自分を、肯定された自由ではなく選択出来る不自由を選んだのが“魔女”なのだ。自分の魔法の好きに使いたい、暴れたい。未来などいざ知らず、今この瞬間に最大の幸福を願う者なのである。

 そんな面白そうで、調子に乗ったムカつく奴等が居る場所に集合している。


 ただ、【あの伝説の魔女】は伊達ではない。『最強』を手玉に取り、数々の“魔法少女”を嘲笑い生き延びているだけの実力者だ。野生の“魔女”が発生すればあっという間に潰してしまう。そこにあの『最強』の“魔法少女”だっているのだから、普段であれば“魔女”の少ない地域と錯覚するだろう。


 “魔法少女”が多く生まれるのならば、“魔女”も多く生まれるのは必然だった。



 長い前置きをここで終えよう。


 つまり今、【あの伝説の魔女】達は出張中でここに居ないのだ。ついでに『最強』の“魔法少女”も出張中でここに居ないのだった。


 

『各員、また“魔女”が確認されました。マップに新しくポイントしましたので確認をお願いします。現地へ応援に向かえる“魔法少女”は応答を願います。以上』



 暫く『最強』の“魔法少女”は出張中だ、現場に残された同僚の“魔法少女”達は気合を入れ直して“怪物”退治に勤しんでいたのだ、3日前までは。


 その日は珍しく、【あの伝説の魔女】ではない普通の“魔女”が現れた。あの“魔女”達のナワバリであるこの地域では“魔法少女”が情報を察知するよりも速くあの“魔女”達が動き出し、到着する頃には簀巻きにされた“魔女”が張り紙と共に放置されているか、[魔法省]前に捨てられる。

 そんな日常では稀な、野生の“魔女”の捕縛指示だ。気合が入るのも致し方ないだろう。


 何度も言うがここは『最強』の“魔法少女”の担当地域で【あの伝説の魔女】のナワバリだ。当然だが、ここを担当している他の“魔法少女”達も実力者、志も高くとても頼れる人材が揃っている。


 しかしそれでも、日に日に増える“怪物”に“魔女”。ちょっと疲れてきた。


 “魔法少女”の活動は2人1組か3人1組が基本だ、ソロやってる“魔法少女”など、はっきり言って異常だ。ソロ志望だった子も、何度か実戦を繰り返せば自然とペアなりグループを作る。それか死ぬ。生き残る子は極少数だったりする。


 そんな訳で、“魔女”捕縛の指示は受けていないが近くに居た“魔法少女”2人は、応援に向かうか否かを相談していた。



「どうする? 連戦になるけど向かう?」


「そりゃ向かうしかないでしょうね。サクラちゃんが倒れちゃったら、困るの私達だし」


「それもそっか、連絡しとく」


「よろ〜」



 2人はついさっきまで“怪物”退治を行い、事後処理の手伝いを行っていた。今日だけで4人体目の“怪物”と、2人目の“魔女”の出現にてんてこ舞いだ。


 “怪物”の発生数は日毎に波がある為、今日は多いなと思うだけで済む。だが“魔女”は多い。簀巻きの“魔女”が月に1〜2回は知らない間に[魔法省]の前に捨ててあり、それを差し引いても1日に2人目は多い。徒党を組んだ“魔女”ならば納得するが、そうではない様だ。


 

「連絡終わった。ログレット、行ける?」


「行きたくないけど行けるよ」


「よし急ぐよ」



 既に駆け出した2人は、建物を飛び越え屋根を渡って現場へ向かう。屋根や屋上を破損させなければ、これは黙認されている。これに文句をつけたとして、間に合わなかったらどうしてくれる。誰も不必要な責任など背負いたくないのだ。


 さて、近いだけあり直ぐに現場へ到着した2人だったが、まさかの3人目の“魔女”に遭遇していた。


 初めから居た“魔法少女”サクラを加えた3人は、また増えた敵に辟易としながら身を引き締める。相手は“魔女”だ、“怪物”なら問答無用に討伐に躍り出るが“魔女”は人間で自分達と同類だ。無駄だろうな、と内に秘めて対話を試みる。



「始めまして、こんにちは。私は尾張地方を担当する“魔法少女”ジュエリエートです。こちらがログレット、サクラです。貴女の所属を教えていただけますか?」


「…ぇ…か、……た」


「?」



 全身を覆う紫色のベールが風に靡き、繰り返す重なり合いの濃淡で顔は確認出来た。水面の波紋を写し取ったかの模様をしたレースは、彼女の存在を曖昧で朧げな印象だと思わせている。

 顔にかかるベールが少ないのは僥倖だろう。

 

 一方で、ジュエリエートと名乗った“魔法少女”は困惑していた。

 だって声が聞こえないんだもの。


 [魔法省]に所属する“魔法少女”及び職員は配布されている端末からアクセスすればその名前と姿、主に活動する地域を表示した一覧を見る事が出来る。さらに、“魔法少女”と一部の職員は現在発見されており捕縛出来ていない“魔女”を確認する事も出来る。

 さらに、登録されている“魔女”はざっくりとグループ分けがされており、おおよその実力や危険度が目安程度に表示されている。


 つい最近、ログレットと一緒に“魔女”の姿を確認したばかりだ。アレが此処に居るのはおかしい。アレは別の地域を根城にしていたハズだ。

 情報通りの実力ならば、あの“魔女”を相手するには些か苦しいだろう。人数差で押し切れはするだろうが、大きな消耗は避けられない。



「もぅ…ぃ? …な……ぃ、ぁ…たら…わ」


「すみません。聞こえないのでもう一度お願いできますか?」



 この“魔法少女”は、割とハッキリと物を言うタイプだ。人によっては言い辛い事も、淀みなく言葉に出来る子だ。空気は読む。 

 


「ゴメンな、電話しとったんよ」



 先程からずっと“魔法少女”を見つめ続けていた“魔女”は、ただ攻撃に備えて警戒をしていただけである。

 声が小さかったのは、イヤホンのマイクに届く程度の声量で話していただけだ。

 返事をしなかったのは、電話先の相手との会話を優先したからなのだ。


 青く光るカフス型のイヤホンが、風に吹かれたベールの隙間から覗く。多分アレで通話していたのだろう。小さく、気付かないのも無理はない。

 

 ジュエリエートは自身の勘違いに固まってしまった。彼女、自分で突き進む癖に想定外に弱いらしい。まぁ今回は、ただ恥ずかしくなっただけである。澄ました顔で、耳を赤く染めていた。



「でぇ? 何か用かぇ?」 


「用と言えば用ですが…“魔法少女”が“魔女”を尋ねる理由は1つですよね」


「えぇやん別に、それ以外の子ぉも意外と多いけどな〜」



 そうは言いつつも互いに戦闘準備を済ませてしまう。

 忙しくなりすぎて何かもう疲れたのだ、ここを踏ん張りどころにして今日はもう休もう。回収班を呼んで“魔女”のついでに自分達も回収してもらおう。だからもう、消耗とかどうでも良い。


 現実逃避に全力を注ごうと覚悟を決める。


 

「ログレット、やるよ。サクラさんも出来る?」


「おっけ、帰ったらスペ●ンカーの続きやるんだ」


「微妙なフラグ…さっきの“魔女”の消耗があるから援護に周りたいけど、そんな器用な事出来ない! 突っ込んで殴る!」



 手品師の様に宝石を指先で弄ぶルーティーンを行うジュエリエートと、その背後で色とりどりのヒトダマを展開するログレット。

 どちらも中距離戦を得意とする“魔法少女”のコンビは、高い安定感を持つ優秀な“魔法少女”だ。


 その隣で桜色のガントレットを打ち鳴らすのが“魔法少女”サクラだ。花吹雪のエフェクトを散らす身体強化と魔法付与を扱う超近接型のスタイルで、忙しなく動き回る彼女に着いて行ける“魔法少女”は皆他の地区に連れて行かれた。

 密かに『サクラは卒業係』等と呼ばれている。不服だ、異議を申し立てたい。



「オーオー物騒やわぁ」



 表情が隠れて見えない“魔女”は、武器である棒で地面を叩く。打点を中心に広がる波紋は10m程進み、その地表を薄い水溜りが覆い隠した。

 これがこの“魔女”の間合いだ、この水面を滑り移動し魔法を籠めた水泡を流して破裂させる。

 更に、水溜りの結界内であれば自信への強化が大きく掛かる為、近〜中距離で待ちが強い。


 今回はその結界外からの攻撃が出来るログレットが居るが、相性表を作るなら五分か微不利に落ち着くだろう。

 結界は動かせないが、消耗を気にしなければ拡げる事も増やす事も可能だからだ。


 

「ダァァァァ!」



 真っ先に駆け出したサクラと、それに続くジュエリエート。全力で“魔女”を叩き潰すのだ。

 2人が水溜りの結界に踏み入るのを確認した“魔女”は滑り移動しながら武器を構えて迎え撃つ。



「凍結! からのぉ〜…さいなら」


「しまっ…!」


「へぁ!?」



 一瞬で足元の水溜りを一気に凍結させる。

 靴ごと凍り付けば動きを止めざるをえない。普通の氷と違い、魔法で強度を上げられている。簡単には砕けない。


 2人とすれ違い逃げ出した。

 この“魔女”、始めから争う気など無い。 


 冷静にこの光景を見ていたログレットがヒトダマを放つ、“魔女”の逃亡阻止と2人の解放だ。

 “魔女”は手馴れた動きで武器を振いヒトダマを撃ち落とす。攻撃を掻い潜り姿を眩ませた。



「ログレット! 索敵!」


「駄目、もう追い付けない。サクラちゃんは?」


「1人じゃ無理、もう疲れたよぉ」



 顔を見合わせて、諦める。

 


『もしもーし、ログレットでーす。サクラちゃんの応援来たんですけど、別の“魔女”が現れて逃げられました。元々居た“魔女”は確保出来てるんで回収をお願いします。あと逃げた“魔女”は【泡沫の魔法】だと思います、それの確認もお願いします。それじゃ、私達は限界なのて帰還しまーす』

 


 元々の捕縛対象の“魔女”は、実は既に取り押さえていた。2人の到着前にサクラが鉄拳で寝かせている。まだ伸びていた事に安堵し、ジュエリエートと共に逃げないよう簡単に拘束してしまう。

 拘束方法は“魔法少女”によって様々で、ぶん殴って気絶させたり、手錠などを持ち歩いたり、魔法で拘束出来たり、今回はジュエリエートの魔法が役に立つ。


 ログレットが本部に連絡している間にパパッと済ませてしまう。逃げられたくないからね。



「ふあぁ~…疲れたぁぁ!」


「お疲れさま、サクラさんも連戦でしたっけ?」


「うん3連戦、“怪物”と“怪物”と“魔女”と“魔女”。4連戦かも」


「偏ったねー。“怪物”はしょうがないけど、“魔女”は辛いよね…“怪物”より戦いにくいし」


「ホントそう! 同じ強さなら“魔女”の方が戦いたくないよぉ…戦いにくいからヤダァー!」



 “怪物”は強化され続けているが、それでも戦うとなれば“魔女”の方が大変だ。なまじ会話が成立してしまうばかりに、殺さないにしても攻撃を気後れする子も多い。攻撃しようにも的が小さいし、見た目から攻撃方法も分かりにくい。チョロチョロと動かれると追い掛けるのは一苦労である。

 何より、こちらは周囲への被害を抑え、尚且出来るだけ傷付けずに捕縛しなければならない。対して“魔女”は逃げるか殺すか選択肢は豊富にある。


 始めから不利な戦いである。

 しかも場数を踏んだ“魔女”なら、普通に強い。


 “怪物”に“魔女”と、1日にしては連戦が重なった3人だ。消耗した状態では満足に動けやしない、帰還する事に決めたみたいだ。

 帰還するとは言っても、本部ではなく出張所である。わざわざ遠い場所に向かう事は無い、寮も兼ねているのだ。


 因みに、“魔女”はそのまま[魔法院]に連行された。教官として活動する“魔法少女”の誰かに、絞られるんだろう。

 サクラは、かつて自分の戦闘指導をしていた“魔法少女”や武術家の指導員を思いだしていた。最近あった『最強』の訓練も辛かったなぁ~。



「ねぇ2人とも、ご飯食べた?」


「まだ食べてないわね」


「じゃあ一緒にご飯行こうよ」


「いいね、でも先に汗流したいな~」


「そうだね、一旦戻って着替えてから行きましょ」



 “魔女”を見送り、交代の“魔法少女”の到着を待ちながら休んでいる。

 通常であれば連戦などまずしない。1戦毎に休息をとり、万全の状態で居ることが戦う条件の1つだ。“魔法少女”を無闇に消費させない為の措置である。

 ただ、これは本人の意志を優先させるため、連戦を決めた“魔法少女”を引き留める事は少ない。戦ってくれるなら、戦い“怪物”を倒して欲しいのも事実だからだ。


 

「お疲れッス! 交代に来ました!」



 サクラの交代にやって来た“魔法少女”との引き続きを済ませ、3人は帰る。ジュエリエートとログレットの交代は、既に担当地域に到着しているらしい。 


 そんなに離れていない出張所に歩いて戻りながら、遅れてしまった昼食の相談をする。ログレットの強い主張により、某Mのハンバーガーチェーン店に決定したらしい。テイクアウトにして買って帰った。




 



「ハァ…まぁええやろ」



 こちら“魔女”、今アジトに戻ったの。


 全く勘弁して欲しいものである、先日突然呼び出されたかと思えばナワバリの管理を任されてしまったのだ。


 確かに自分の所は余裕がある。

 にしても、事前に連絡くらいして欲しかった。


 だいたい、この辺りの“魔法少女”は強いのだ。自分だって【泡沫の魔女】と呼ばれ、地元ではアンタッチャブルの存在とまで成り上がったのだ。まあ別に好きでなった訳でもないが。

 

 縁あって[魔女会]に所属する事になった。やはり“魔女”にとって安全な拠点と生活の支援は有り難いものだ。特に徒党を組んで“魔女”をやっていた自分達に、安全な拠点は重要だった。


 スポンサー様の指示は断れない。

 それにやっぱり、頼られたのなら応えたいではないか。

 

 [魔女会]は“魔法少女”を守る為に作られた組織であり、その活動に見合う思想を持つ“魔女”が集められている。

 この“魔女”もそうだ。“魔法少女”ではどうしょうもない人間倒す殺す為に活動を始めたのだ。


 “魔法少女”を守る為に“魔女”をしている変わり者の1人である。


 そんな訳だから、“魔法少女”と戦うつもりは無い。

 先程も、野生の“魔女”を潰して捨てようと向かった所で見付かってしまったのだ。


 あのサクラとか言う“魔法少女”、勘が鋭くないか?



「ナァァー! 喋るなって辛いわぁ、やっぱ口開かんと死んでまうんよ人間。ミステリアスで神秘的で妖しげな自分が憎いなぁもぅ、キャラってなんよ? 【あの3人】も全員おらんし、おる思ぅて1人で来たんは失態やったわぁ下手こいたぁ」



 頭の先から全身をベールに包み、動きに合わせて揺れ動く姿は神秘的な美しさを醸し出す。が、それら全てをブチ壊す独り言。声色も話し方も落ち着いており、聴く人に優しく染み込んでいくようだ。何が悪いってもう内容でブチ壊しに来ている。

 コイツは、ただただ冗談を言いながら喋るのが大好きなのだ。喋らないと死んでしまう。


 性格と人格と思想と行動は、必ずとも一致するとは限らない。


 あと5日。

 【あの伝説の魔女】が帰ってくるまで、好き勝手暴れる“魔女”を代わりに潰すのが仕事の内容だ。

 せめてもう1人、代理が欲しかった。


 何で3人の代わりが1人なんだ?

 それをどうにか出来る自分って、思ったより凄いのではないかと独り言ちながら拠点のソファで溶けていた。

 

 疲れたのだから、仕方無いだろう。

 

 この“魔女”はあと5日、死んだ目で働き続ける事になる。昼夜問わずに“怪物”は現れる、その相手も行って居るのだ、やってる事は“魔法少女”と変わらない。ただし、増員も代理も居ない。


 数日後、喋る元気すら無くして活動する【泡沫の魔女】がSNSにて拡散され、退廃的な神秘性で多くのファンを獲得したらしい。

 


 


 

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