第74話 手荒い歓迎

勝負は一瞬だった。


リザードマンは斬り飛ばされた腕を呆然と眺めている。それはその召喚者も同じだ。時が止まっているかのように口を開けたまま、何もしない。


しかし、対峙する凶々しい鎧のモンスターは違う。コロッセオの中をゆっくりと進み、鎧の擦れる音が響く。こいつ、普通のリビングアーマーじゃないな。その鎧は悪魔が大口を開けているように見える。レアモンスターだ。


「センパイ。何をわからせるって?」


新入生は口元を歪めて笑う。召喚モンスターも同調し、その鎧に浮んだ悪魔の顔も笑っているようだ。


「……あ、あぁ」


早く召喚を解除しろ! 何をグズグズしてるんだ! これ以上やられたらリザードマンは本当にヤバイぞ!


「さーて、もう一本の腕ももらっとくかー」

「ちょっとテツオ! やりすぎよ!」


カップルの女の方が止めようとするが、悪魔のようなリビングアーマーは止まらない。一歩、また一歩とリザードマンに近づく。


「センパーイ、かーくーごー」


馬鹿にするような新入生の掛け声を聞いて、ギャラリーから悲鳴があがった。手で顔を覆っている者までいる。しかし、リザードマンの召喚者は動かない。動けない。何かおかしい。まさか、あの悪魔のリビングアーマー、召喚者にまで何か影響を及ぼしてないか?


「そーれー」


リビングアーマーの持つ剣が振り上げられる。もう見てられない!


「いい加減にしろ! もう勝負はついてるだろ!!」


声を上げると、バッとギャラリーの視線が俺に注がれた。俄にざわつく。


「なんだ? このセンパイのお友達か?」


「いや、無関係だ」


「じゃ、モブ顔らしく大人しくしてろ」


こいつ、本当に生意気だな。てか、俺のことを忘れてないか!?


「ちょっとテツオ! あれ、Mの人よ!!」


そうだ! 俺はMの人だ! いや、ちょっとそれも違うぞ! 複雑だな!


「あー! 思い出した! SMCの腰抜け召喚者だっけ? 」


「誰が腰抜けだ!」


「Mセンパイのことだが?」


新入生とその召喚モンスターはリザードマンには興味をなくしたように、完全にこちらと相対した。ハッと気がついたように"血の誓約"の副代表がリザードマンを召喚解除する。やはり変だな。あの鎧のモンスター、何かあるぞ。コイツら、危険だ。なんとかしないと。


「まだやりたりないようなら、俺が相手になってやる」


ォォオオオ!!


さっきまで静まり返っていたギャラリーが息を吹き返した。


「いいぜ、Mセンパイ。俺がこの大学で最強の召喚者ってことをこの場で証明してやる」


俺は懐から召喚石を取り出した。

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