第75話 デビルアーマー

「ゴ治郎、来い!」


俺の怒りが乗り移ったように、手のひらに現れたゴ治郎の背中からは湯気立つような闘気が昇っていた。


「ははははっ! ゴブリン!? 笑えるぜ!!」


新入生は指差して笑うが構うことはない。ゴ治郎の強さは俺が一番知っている。


「テツオ! そのゴブリンはレッドキャップ、レアモンスターよ!」


女の方を見ると妙に焦った顔をしている。なんだ?


「レアだろうとなんだろうとゴブリンはゴブリンだろ? 俺のデビルアーマーの敵じゃない!」


「もう! ちゃんとやって!」


「ちっ。分かったよ」


女の鬼気迫る声に、テツオと呼ばれた新入生は表情を引き締めた。


「ゴ治郎、行け!」

「ギッ!」


タンッ! と飛び出し、次の瞬間にはもうゴ治郎はコロッセオに立っていた。ゴ治郎を見失っていたテツオが女に指摘されてコロッセオにやっと視線を向ける。


「大丈夫か? ゴ治郎はまだまだ速くなるぞ?」


「ちっ。ちょこまかと……」


2体のモンスターは対峙し、ゴ治郎は両手にナイフを構えた。一方のデビルアーマーは長剣を正眼で構える。


「やれ!」

「……」


テツオの掛け声にデビルアーマーは剣を振り上げ、振り下ろす。まだ間合いには程遠いが、凄まじい殺気!


「ゴ治郎、避けろ!」

「ギギッ!」


不可視の刃がゴ治郎の側を通り抜け、コロッセオに爪痕を残す。腕を飛ばされたリザードマンのことが頭に過ぎる。当たれば人間だって怪我は免れないだろう。


「手を休めるな!!」

「……」


次々と飛んでくる不可視の刃だが、狙いが分かっていれば避けるのは容易い。そもそも、テツオもデビルアーマーも既にゴ治郎がどこにいるのかさえ分かっていないだろう。


「ゴ治郎、行け!」

「ギッ!」


ダンッ! と踏み締める音がした後、ギャラリー達が目にしたのは吹き飛ばされてコロッセオの壁にぶつかるデビルアーマーの姿だった。ゴ治郎はやっと動きを止めて、コロッセオの中央に姿を現す。


「……なっ、何が起こった!?」


「お前のご自慢のデビルアーマーが、ゴブリンに蹴飛ばされただけだ」


「クソ、早く立て!!」


テツオの言葉にデビルアーマーがむくりと立ち上がる。流石に硬いな。蹴っただけでは大したダメージはないのかもしれない。しかし、煽るだけ煽っておこう。ちょっと俺は怒っているんだ。


「さぁ、どうする? デビルアーマーの剣は通じないぞ?」


「……もう、許さねえ。後悔するなよ!!」


テツオの雰囲気が変わり、それはデビルアーマーに伝播する。ゆっくり歩き出し、鎧に描かれた悪魔の口元がニヤリと歪んだ。


「ゴ治郎、何か来るぞ!」

「ギギギッ!」


……。あれ? どうなってる?

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