第55話 やって来た

「水野さん! ちょっと来て下さい!」


段田さんが大声を上げた。なんだか最近はよく大声を出しているな。キャラ変か? そんな俺の感想はさて置き、昨日に引き続き"鬼"目当てで満員になったSMCで、皆が一斉に窓際を見た。


「何かありました?」


「いいから! こっちへ来て外を見て下さい!」


あまりの形相で急かすので窓際に走る。そして外を覗くと──。


「えっ!! 段田さん、あれはなんですか!?」


「こっちが聞きたいですよ!!」


窓から見える路地を埋め尽くすのは、鬼、鬼、鬼。鬼のお面をつけた集団がSMCの下にひしめいていた。ご丁寧に服装まで揃えている。


「また、水野さんが掲示板に余計なことを書き込んだんじゃないんですか??」


「あれは鮒田の仕業だったでしょ!?」


俺達の会話を聞いた客がどっと窓際に押しかけ──。


「キタァぁぁー!!」

「めっちゃいるじゃん!」

「お面って!」

「鬼だぁぁぁー!!」


店内は一瞬でお祭り騒ぎ。どこからともなく、始まる手拍子とゴ治郎コール。足踏みまで始まりやがった。


「静まれエエェ!!」


その声にピタリと手拍子が止む。さっきまで闘技場で闘い、5人抜きを成し遂げた鮒田だ。


「お前達の思い! 水野晴臣とゴ治郎が必ず果たしてくれよう!!」


ウオォォォ! と野太い声に店内が震える。俺の手も。


ゆっくりと歩いて来た鮒田が俺の背中をバシッと叩く。


「行ってこい!!」


勝手なこと言うな!!



#



路地には人垣で円が描かれていた。半分は鬼のお面をかぶった集団。もう半分はSMCの客だ。そしてその中心には──


「これ、オーガなのか?」


動画でみたことのあるオーガとは明らかに違うモンスター。3本の角に燃え上がるような赤い髪。その体はハイオークよりも大きく、ふてぶてしい面構えで金棒を肩に担いでいる。そして、その後ろには召喚者と思われるお面の男。


酒呑童子? と誰かが呟いた。


それはどよめきとなって広がる。不安が伝播し、SMCの客の間で口々に弱音が漏れ始めた。やばい。これは無理だ。やめた方がいい。そんな言葉だ。


しかし不思議なものだ。さっきまでビビっていた自分はもう何処にもいない。心は平坦で、いや違う。高揚してきた。高鳴っている。この見たこともない鬼のモンスターに!


一歩前に出て、胸に吊るした召喚石を取り出す。紅く脈打つように発光するそれは、闘いを待ち望んでいるようだ。


「ゴ治郎、来い!」


俺の手のひらに現れたゴ治郎はフッとアスファルトへ飛び降りた。そして使い慣れたナイフを構える。


それまで黙っていた召喚者が口を開く。


「お前の召喚石、頂くぞ! 酒呑、行け!!」


始まる。

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