第54話 鬼が笑われる

"なんだよ、鬼こねーじゃん!"


"SMCめっちゃ混んでる! 今日はこのままオーガ来ない?"


"ゴブリンにビビるオーガwww"


"やっぱり召喚モンスターに犯罪させるような奴はしょっぱい"


"笑う鬼、見てるー??"


"こんだけ煽られて出てこないってwww"


"ダサい通り越して可哀想になってきたw鬼w"


「クソッ! 好き放題書き込みやがって! ゴブリンなんかにビビるわけないだろっ!」


むしゃくしゃしてスマホを投げつけたくなるのをグッと我慢した。どいつもこいつも全く分かってない!


「タクヤ、ダサい」


「ナニ!?」


聖子が紙タバコの煙を吹きかけてくる。


「だって、やられっぱなしじゃん」


「誰が! いつ! やられたって!?」


「現在進行形でボロクソじゃん。Twittorでも掲示板でも。せっかくさー、"笑う鬼"が噂になってきてたのに」


「"笑う鬼"は急速に広まっている!」


「今は馬鹿にされてるだけじゃん? 自分だって見たでしょ?」


「……」


聖子がソファーから俺が腰掛けるベッドに移り、身を寄せてきた。


「ねぇ、SMCに行って噂のゴブリンをやっつけてよー」


「そんなことをしたら捕まるかも知れないだろ!」


「未成年だから平気だってー。それにさー」


聖子の息が耳にかかる。


「それに?」


「別に悪いことをしたって目立てばいいんだよー。捕まったってさー、目立てば勝ちなの。タクヤはさー、アウトローに憧れてるじゃん? 今の状況ってめちゃくちゃチャンスだと思わない?」


「チャンス?」


「SMCに行ってゴブリンと闘えば、タクヤは一瞬で超有名人になれるの。日本中で話題になるのよ?」


「日本中で話題に……」


「そう。テレビもTwittorも何もかもが"笑う鬼"のことで持ちきり」


「……いや、駄目だ! やっぱりこんなところで捕まるわけにはいかない!」


俺の反応に聖子の表情が冷たくなる。そしてくっついていた柔らかい身体がさっと離れた。


「じゃあ、このままでいいの? 今、ここで逃げたらずっと引きずることになるわよ?」


「……なにか、なにかやり方がある筈だ! ゴブリン野郎がやったように、世間を動かせば……そうだ! 俺も掲示板を使ってやり返す! 奴の薄っぺらい正義に嫌気がさしてる奴等だっている筈だ! そいつらを動かす!」


「あっ、それ面白そう! 頭脳派のアウトローって感じがするー」


「だろ?」


聖子の柔らかい身体が戻ってきた。


「その上で、ゴブリン野郎を打ち負かす! 普通に闘えば俺達が負ける筈はないからな!」


「それでこそタクヤよ」


柔らかい唇が頬に触れ、俺の決意は固まった。見てろよゴブリン野郎。

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