第56話 ストリートファイト

ブンッ! と振り下ろされた金棒がアスファルトを砕き、破片が勢いよく飛び散る。


それをナイフで弾いていると既に酒呑の姿はない。


「右!」


ナイフを十字にして金棒を受け止めるとゴ治郎の体が吹き飛ばされ、2回転してようやく止まる。追撃はない。


余裕かましやがって!


酒呑はふたたび肩に金棒を担いで笑っている。その様子に誰かが"笑う鬼"と呟いた。なるほど。あのカードのイラストとよく似ている。だがな──


「ゴ治郎、本気で行っていいぞ」


その笑みを消してやる。


無言で踏み込むと、ダンッ! と音が遅れてやってくる。そして次のシーンは引き攣った顔でナイフを受ける酒呑だ。


「やれっ!」

「ギギッ!」


酒呑の周りに剣閃の旋風が巻き起こる。デカい図体をしている癖に、よくこの回転に付いてくる。このモンスター、相当強い。とはいえ、こちらが一方的に攻めている。浅いが、徐々に傷が増えて──。


「酒呑!」


その声と同時に口から焔が撒き散らされた。アスファルトが炙られて嫌な臭いが立ち込める。


ゴ治郎は……大丈夫。離れて息を整えている。肌が焼かれて黒いが、まだその瞳は死んでない。


「酒呑、決めろ」


男の声に腰に付けた瓢箪を手に取り、酒呑は煽る。赤い肌は更に赤くなり、いつしか焔を纏った。


圧倒的な威圧感に周囲がざわめく。人間すらも怯ませる迫力。これが酒呑童子か。


ブンッ! と振るわれた金棒から焔が伸びてゴ治郎舐め、躱してもチリと肌を焼く。今までより数段速い踏み込みからの追撃。金棒から逃れても焔に焼かれ、徐々に動きが鈍くなる。


「ゴ治郎ォォォ! 負けるな!!」


この声は鮒田。そして──


「頑張れ! ゴジロウ!!」

「勝ってくれえぇ!」

「耐えろ! そしてやってくれええ!」


背後から声援が巻き起こった。


しかし、無情な一振りがゴ治郎の持つナイフをたたき折る。悲鳴。失望。落胆。そして笑う鬼。召喚者の男も笑っているのだろう。ひどくゆっくり、金棒が振るわれる。


だがな、奥の手はお前達だけじゃないんだよ!


「ゴ治郎、抜け!」

「ギギッ!」


スッと剣帯から抜かれた短剣は蒼白く輝き、金棒を2つにする。ゴ治郎は止まらない。そのご自慢の角、頂くぞ。


「いけえぇぇぇ!!」

「ギギィィィィ!!」


ゴ治郎の体が酒呑を通り過ぎ、白い角がくるくると宙を──。


「け、警察が来たぞー!!」


その声に鬼のお面をつけた連中が慌てふためき逃げ始める。振り返ると警察官の姿。そして視線を戻すと──。


「いない……か」


酒呑の姿はない。いつの間にか召喚解除したようだ。逃げていく男のどれかが召喚者なのだろう。もう、見分けはつかないが。


「胴上げだぁぁぁー!!」


ちょっ! 待て! 言い出したの誰だ! やめてくれ! 恥ずかしい!! 


手があちこちから伸びてきて、無理矢理に身体が地面と平行にされる。そして宙に放り投げられ、初めて感じる浮遊感。


なんだよこれ。めっちゃくちゃ気持ちいいな。

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