第42話 検証
「あの、対戦、いいですか?」
SMCでのバイト中に挑まれるのはよくあることで、ある意味仕事の内だ。今日は鮒田も来ているので挑戦者はそちらに押し付けていたのだが、どうやらこの男の子──見た感じ高校生ぐらい──はゴ治郎とやりたいらしい。
「はい、大丈夫ですよ」
サッと闘技場の席が空けられ、自然とそこに収まる。いつも通り革の小袋から召喚石を取り出し、絆創膏を剥がして念じるのは、
「出てこい、ゴ治郎!」
赤い帽子をかぶり、オッドアイのゴブリンが現れた。SMCの常連客は目を見開いている。まぁ、仕方ない。黄金色の瞳は目立つ。
そんなことにはお構いなく、男の子は得意げに召喚する。現れたのはゴブリンメイジ。進化済みだ。
おおっ! という観客のリアクションは男の子を満足させるものだったようで、口角が上がっている。
「はじめっ!」
立会人の声と同時にゴブリンメイジの手に火の玉が現れた。俺の知っているゴブリンメイジよりも遥かに魔法の発動が速い。
「いけぇぇぇー!」
「グギャギャー!」
人が変わったように男の子は叫び、火の玉が唸りを上げながらゴ治郎に迫る。ゴ治郎は焦りもなくスッと身をひいて躱すと、かすかに焦げた匂いがした。
「まだまだー!」
「グギャグギャー!」
おおっ! これは驚いた。なんと躱した筈の火の玉が戻って来ている。そして、ゴブリンメイジの手には新たな火の玉。
「いつまでも躱せると思うなよっ!」
ゴブリンメイジは次々と火の玉を生み出し、それらはゴ治郎を追い回す。闘技場の空気が熱せられ、観客の声にも力が入る。
うーむ。色々試したが、何も起こらない。そろそろ終わりにしよう。
「ゴ治郎」
「ギギッ」
首トンのつもりが首ドンになってしまったようだ。一瞬で背後を取ったゴ治郎の手刀は予想外の威力でゴブリンメイジを叩いてしまい、地面に転がした。意識も失ったのか、火の玉もスッと消える。
「それまでっ!」
立会人に声とともに、拍手が起こる。なかなか見所のある対戦で観客も満足した筈だ。俺は一礼をしてからゴ治郎を戻し、闘技場から離れた。
#
「晴臣! 説明しろ!」
SMCが閉店するや否や声を上げたのは鮒田だ。
「なんのことだ?」
「白々しい! ゴ治郎の目はなんだ? 厨二病に罹患したとは言わせんぞ!」
当然気になるよな。俺だって気になっている。
「俺にも分からん」
「嘘つくな! 勝手に目の色が変わるわけないだろ! さっさと吐け!」
目の色を変えているのはお前だろう。鮒田よ。
「分かっていることだけ言うぞ? ダンジョンで宝石を拾った。ゴ治郎がその宝石を右眼に当てた。目の色が変わった。以上」
「どこのダンジョンだ! 教えろ! 金は払う!」
「いや、未公開のプライベートダンジョンなんだ。オーナーの許可が出ないと流石に教えられない」
「ちっ。仕方ない。……それで、ゴ治郎は何か新たな力を得たのか?」
「それが分からないから困っているんだ。今日も視覚を共有して戦ってみたが、何も変化なし。今のところ、本当に厨二病に罹患したのと変わらない」
うーむと2人して唸っていると、締め処理を手早く終わらした段田さんがこちらにやって来た。
「また、面白いことになりましたね。水野さん」
「いやー、面白いのはいいんですけど、本当わからなくて。何処にも情報ないですし」
少し伸びた髭を触りながら、段田さんは続ける。
「戦闘で役に立たないのなら、他で何か役に立つのでは? 例えばダンジョンとか」
「ダンジョン、ですか?」
「そう、ダンジョン。段田ダンジョンで色々試してみるといいですよ」
なるほどなぁ。まぁ、色々試すしかない。
「晴臣! 腹減っただろ? 焼肉を奢ってやる。ただし──」
こいつ、俺の口の堅さを試すつもりだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます