第41話 ただでは起きない

六車ダンジョンでの遁走の翌日、俺はSMCにもダンジョンにも行かずアパートに篭っていた。


ちゃぶ台の前に座り、食事も摂らずにノートPCのモニターを睨みつける。リアルダンジョンwikiやその他の掲示板にも隈無く目を通すが、欲しい情報はない。


あの、王冠をかぶったスケルトン──不死王とでも呼ぼう──は想像を絶する強さだった。手も足も出ず、逃げ帰るのがせいぜい。シシーにおいては深手を負ってしまい、当分の間は回復しないだろう。回復したとしても、あの不死王に挑むなんて無茶はしない筈だ。レベルが違いすぎた。


ただ、あれが何者かを知ることは大切だ。真っ向から挑むのではなく、別のアプローチがあるのではないか? そう思い、海外の掲示板にまで足を伸ばしたが手掛かりは全くない。


各所で盛んに書き込まれているのは、今話題の進化アイテムについてだ。召喚モンスターの進化ルートの検証に世界中の召喚者が夢中になっている。それ以外の話題はどうしても二の次なのだ。


「この宝石も情報ないし」


ちゃぶ台の上には二つの石がある。一つはもちろん、ゴ治郎の召喚石。もう一つは、ゴ治郎がどさくさに紛れてあの不死王の間から、くすねて来たものだ。当然、このことは六車には内緒。


黄金色に光るこの宝石には召喚石と同じように模様があるが、どうやら召喚石とは違う。指を切り、血を与えてみてもうんともすんとも言わない。念のため、口に含んでみたが特に味もしない。


「分かんねー。ゴ治郎、何とかしてくれ」


血の滲む指を召喚石に当てて、ゴ治郎を呼び出す。特に用があるわけではないが、一人で考えるのは限界だ。


「ゴ治郎、この石なんだと思う?」


「……ギギィ」


申し訳なさそうな顔をして首を振る。


「だよなぁ……何で骸骨の目に嵌ってたんだろう?」


「ンギィィ」


骸骨の眼窩に嵌っていたのを真似て、ゴ治郎が宝石を手に取り自分の目に押し当てる。


「えっ?」


ちょっと待て! やばい! 宝石が徐々に消え──消えてしまった!


「ゴ治郎! 大丈夫なのか?」


「ギギッ!」


片方だけ黄金色の瞳になってしまったゴ治郎は、意外と平然としている。


「痛かったりしないのか?」


「ギギギッ!」


大丈夫と胸を叩くが、本当か? 目が見えなくなっていたらどうする? 俺は慌ててゴ治郎の視覚を共有してもらうが──。


「今まで通り見えてる」


一体、何だ? ただのカラコン? そんなまさか。


「宝石は取れないのか?」


「……ギギィ」


ゴ治郎は首をふる。よく分からないらしい。


「まいったな。オッドアイのゴブリンなんて前代未聞だぞ」


「ギギッ!」


褒められたと思ったのか、ゴ治郎は胸をはる。


「魔眼とかそーいう類いなのか? ゴ治郎、瞳に力を入れてみてくれ」


「ンギギギギッ!」


顰めっ面をして頑張るけれど、何も起こらない。


「一体なんなんだ……」


結局、その日に結論が出ることはなかった。

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