第40話 中

中は石造りの部屋になっていた。ゴ治郎は恐る恐る振り返るが、入ってくるのは月の光ばかりでスケルトンの姿はない。奴等にとってはここは禁足地なのか? 少なくとも俺達には好都合だ。


「目的地に着いたぞ。そろそろ出て来たらどうだ?」


「ご苦労ご苦労! シシー、もう大丈夫みたいよ!」


何がご苦労だ! ヘトヘトになったゴ治郎の足元から影が伸び、冷笑を浮かべたヴァンパイア、シシーが現れた。


「さて、あそこだよな」


「あそこね」


部屋の中央には下に伸びる階段が見える。


「よーし、この階はクリアね! シシー、行きましょう」


シシーはスタスタと階段を降りて行ってしまう。雰囲気的に転移石が近いのは同意するけれど、ちょっとは警戒しろよなぁ。


「ゴ治郎、注意して行けよ」

「ギギ」



ゴ治郎の警戒も虚しく、階段を降りた先は転移石の間だった。


祭壇を思わせる荘厳な彫刻の中央に、今まで見たどれよりも立派な転移石がある。


「今日は様子見して帰るだけにしよう」


「そうね。流石に少しは寝たいし」


ゴ治郎とシシーが同時に転移石に触れる。そしていつもより少しだけ長い暗転。これは何かの予兆か。



視界が戻るとそこは異様な空間だった。いや、あの墓地の下だと考えると妥当なのかも知れない。頭のない白骨死体が隙間なく並べられ、床や壁を形成している。そして広間の中央には玉座があり、その背後には、


「凄い! 全部宝石!?」


目に光り輝く石を嵌め込まれた頭蓋骨が山を成していた。ただし、玉座は空席と言うわけでない。足を組み、偉そうに頬杖をついたスケルトン。その頭には王冠が見える。


「やっちゃえ!」

「御意」


力を溜めていたのか。シシーの足元から数え切れない程の闇の槍が立ち上がると、一斉に王冠のスケルトンに襲い掛かり──。


「えっ!」

「ナンダト!」


手の一振りでかき消された。


「カタカタカタカタカタカタ」


王冠のスケルトンが笑うと、その背後の頭蓋骨の山もカタカタと笑い始めた。これは何か来るぞ。


「よけろ!!」


「えっ?」


ゴ治郎の視界が揺れる。捕まらないように何度も角度を変え、床や壁から襲ってくる白骨の槍を躱している。


「シシー! シシー!!」


ちらと、ゴ治郎の視界の端に映るのは体を何本もの白骨の槍に貫かれたシシーの姿。ヴァンパイアとは言え、これは不味いかもしれない。


「もう戻せ!」


「分かってる! 戻って! シシー」


シシーの体が弱く光って消えた。召喚石に戻ったのだろう。


さて、どうする。壁から無数に伸びる白骨は、ゴ治郎を捕まえようと波打つ様に追い回してくる。この物量はどう考えても無理ゲー。


「一発ぶん殴ったら帰るぞ!」

「ギギッ!」


ダンッ! と踏み込むともう王冠のスケルトンは目前だ。


「くらエエェ!」

「ギギギィィ!」


スッと出された、たったの一本の指にゴ治郎の渾身の一撃は止められた。鉄のガントレットがポロポロと砕け落ちる。何だコイツ。ちょっと格が違うぞ。


「カタカタカタカタカタカタカタカタ」


「離れろ!」

「ギギッ!」


スケルトンの口からふわふわと何かが出て来る。それは徐々に形が与えられ、無数の顔を浮かべた肉塊となり──。


「キャぁぁぁぁあああ阿唖」


地獄から届いたような悲鳴が発せられ、ゴ治郎は動けなくなってしまった。もはやここまで。


「もどれ、ゴ治郎」


敗北だ。

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