第43話 黄金色の瞳
「晴臣、久しぶりだな! 一緒に段田ダンジョンに潜るのは!」
「いや、そうでもないし、俺はそもそも乗り気じゃないからな」
「ふははははっ! 愛情の裏返し!」
気持ちの悪いことを言う。ただでさえ、日曜深夜に男2人がテントに籠っているのだ。本当にやめて欲しい。
何故こんなことになっているかと言うと、鮒田がゴ治郎の黄金色の瞳について興味を持ってしまったからだ。曰く「魔眼の継承者たるゴ治郎の真の姿を俺様が見届けてやろう!」だとか。要は自分の知らないところで新しい何かが起きるのが許せないのだ。
しかし、残念なことに今のところ鮒田の目論みは空振りだ。今夜の段田ダンジョンは今まで通りで、ゴ治郎の黄金色の瞳は何の役にも立っていない。何をどう試しても、効果なし。
「晴臣! 魔眼はまだ開眼しないのか!?」
「ずっと見えてるから」
ゴ治郎の視界には苛烈な暴力でコボルトを薙ぎ倒すオークの姿が映っている。最近、武蔵はSMC界隈で"暴君"と呼ばれているが、それに相応しい戦い方だ。
「魔眼なら、相手の動きを止めたり操ったり出来るだろ! 石にしてもいいぞ!」
残念ながら出来ません。
「敵の弱点が見えるとか!? 未来が見えるとか!?」
いいえ、見えません。
「目が飛び出すとか!?」
「うるせえ! そんな魔眼あるか!」
「つまらなん奴だ。ほれ、転移石だぞ。次、行くのか?」
鮒田の言う通り、転移石のある部屋に辿り着いてしまった。まだ時間はある。
「どうせ徹夜なんだ。行こう」
#
「ブイィィ!!」
ハイコボルトの群れに向かって武蔵がハンマーを投げつけ、隊列が乱れたところに自らも突っ込んでいった。何体ものハイコボルトが吹っ飛び、悲鳴が響く。
ここは段田ダンジョン第2階層の名物、モンスターハウス。岩壁にわざとらしく据え付けられた木製の扉の向こうに10体前後のハイコボルトがいることは有名だ。
最初はなかなか苦労したが、今となっては魔石を稼ぐのに最適な狩場。"ハイ"とは言ってもオークの武蔵とは体格に差があり過ぎるし、ゴ治郎に対抗出来るような技量はない。
最近は格闘にハマっているゴ治郎が、武蔵が食べ残したハイコボルトにハイキックをお見舞いして煙にした。これにて完食。
「どうする? そろそろ引き上げるか?」
鮒田の声に疲労の色が混ざる。こいつは普段、徹夜で潜ることはないからな。疲れるのも仕方ない。
「そうだな。そろそろ──」
なんだ、あの壁は。眩しいな。さっきまでは普通だったのに。
「どうした、晴臣?」
「いや、あの壁。なんで光ってるんだ?」
「うん? どこの話だ?」
「えっ……」
もしかして!
「ゴ治郎、右眼をつぶって!」
「ギギッ!」
やっぱり! あの壁の光は右眼──黄金色の瞳──でしか見えていない!!
「どうした晴臣! 何があった!」
「これはもしかしたら、もしかするぞ! ゴ治郎、壁の光っているところを思いっきり蹴ってくれ!」
「ギギッギ!」
ドンッ! という前蹴りは壁に跳ね返されることはなく、むしろ壁には大きな穴が空いた。
「隠し通路!?」
「たぶん、そうだ」
「隠し通路といえば、貴重なアイテムゲットのチャンス! 武蔵、行け!」
「待て! どんなモンスターが出るか分からんぞ!」
「構わん! 行け!」
鮒田のテンションが伝わってしまったのか、武蔵は体を屈めながら穴に入っていく。
「仕方ない。ゴ治郎も続け」
平静を装ったが、俺の心臓は鮒田に負けないぐらい早鐘を打っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます