第39話 墓場
六車ダンジョンの第2階層は広大な墓場だった。そしてどういう理屈か知らないが、空には紅く輝く満月がある。完全に異空間だ。
戸惑うゴ治郎が辺りを見渡すと、墓石の造形に統一感はなく、ただの目印のようなものから、立派な彫刻が施されたものまで様々だ。
「カクカクカクカク」
少し先行していたシシーの足音に反応したのか、墓石の側からスケルトンが出てきた。威嚇するように顎を鳴らす。
「土ニ還リナサイ」
地上に出るなりシシーの闇のハンマーにバラバラに砕かれ、動かなくなった。
「手が掛かるな」
「完全に動きを止めないと後から大変なことになるの。ずっとついてくるんだから」
ゴ治郎が遠くに聳える大きな墓石を睨む。いかにも怪しい。
「あのデカい石が次の階に繋がっているのか?」
「たぶんそうよ。でも見て分かる通り、あの大きな墓石に近づくにつれて他の墓の密度も上がっているの」
「近くまで行ったことは?」
「あるけど、見渡す限りのスケルトンに囲まれて、慌ててシシーを召喚石に戻したの。数百体は居たんじゃないかな?」
それは普通に考えれば無理ゲーだ。
「しかし、ゴ治郎ならスケルトンに捕まる前に次の階に行ける可能性があるな」
「そういうこと」
「だが、シシーはどうするつもりだ?」
ゴ治郎だけ次の階に行かせて情報だけ得るつもりなのか?
「シシーには幾つか特殊能力があるの。シシー、よろしく」
振り返り全身が妖しく光ると、シシーの足元から影のようなものがこちらに伸びてくる。そして──。
「……消えた」
「シシーは影の中に潜むことが出来るの。水野君、次の階に連れてって!」
こいつら、なんか狡いぞ!
#
「ゴ治郎、跳べ!」
「ギギッ!」
墓石を足場にして跳ね上がる。振り返りながら下を見ると月の光に照らされる白い骸骨達の群れ。難易度調整を間違えたゲームのように何処からでもこいつらは生えてくる。
「次の羊羹!」
「ほいさ!」
やる事のなくなった六車が俺の手に丸のまま剥き出しの羊羹を渡す。きっと来客向けの高級品だろうが、味わっている暇などない。とにかくエネルギーを! ゴ治郎をこんなところでへばらせるわけにはいかない。
「お茶!」
「ほいさ!」
熱い! しかし、怯むな! 俺はゴ治郎をサポートするのみ。
ゴ治郎が着地するとドッと地面から白骨化した手が生えた。ますます敵の密度が高くなっている。
「くそっ! まだか」
なんと遠い。見えていたからなんとかなると思っていたが、あの墓石、とんでもなく大きなものだったらしい。行けども行けども辿り着かない。
「ゴ治郎、全力だ! 危なくなったら戻すから、全力だ!!」
「ギギッギ!!」
ダンッ! と踏み込む度に加速し、風景が線になって流れた。徐々に視界が狭くなり、一点しか見えなくなる。そしてそれはどんどん大きくなり──。
「止まれ!」
「ギギッ!」
車は急には止まれない。ゴ治郎も。土埃を上げながらスピードを落とすが這い出てくるスケルトンを蹴散らしながらも、なかなか止まらない。
「危ない! ぶつかる!」
「ギギギッ!」
ドンッ! と前蹴りを目的の大きな墓石にお見舞いすると、ようやく視界が定まった。うっかり? 大穴が開いてしまったがこれは大丈夫なのか?
「ギギッ?」
ゴ治郎が振り返ると辺り一面を埋めるスケルトンの姿。いや、これもう前進あるのみでしょ?
「いい! 穴に入ってしまえ!」
「ギギッ!」
あちこちから伸びてくる骨を躱し、ゴ治郎は大きな墓石の中に飛び込んだ。
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