第14話 NEW!!

「……ギ……」


「……ギギ…」


「…ギギギッ!」


耳元で何かが騒いでいる。額に触れる硬いものはなんだ? こんな枕を採用した覚えはない。俺は寝具には気を遣うタイプなのだ。


「ギギギッ、ギギギッ!?」


「……なんだよ煩い」


顔を上げるとデスクライトに照らされ、視界が白く塗り潰された。自白を促されている気分だ。ここは、俺の部屋で俺の机。ふらふらした頭で考えるに、俺は突っ伏して、しばらく意識を失っていたようだ。


「ギギギッギ?」


「わっ、赤帽子!」


やっと正常に機能し始めた視界に入ったのは、憎っくき赤い帽子をかぶったゴブリン。こいつ、いつの間にダンジョンから出てきやがって! この俺が成敗してやる!


「とりゃっ!」


「ギッギ!」


振り下ろした手刀を寸止めする。どうもこの赤帽子、様子がおかしい。両手をバンザイして無抵抗を誓っている。これでは俺が悪者ではないか。


「お前、ゴ治郎なのか?」


「ギギッ!」


すっかり見た目は変わっているが、反応はゴ治郎のそれだ。


「本当にゴ治郎なら俺の名前を言える筈だ。言ってみろ」


「……ハ、ハゲオミ」


惜しい! 晴臣はるおみだ! というか、ちょっと喋れるようになっている。


「ゴ治郎で間違いないようだな。しかし何があった? なんで見た目が変わっている?」


俺の問いにゴ治郎は自分の頭を指差す。赤帽子をかぶったことが原因だと言いたいのだろう。試しに赤帽子を指でつまみ上げると、ゴ治郎の身体ごと浮き上がった。


「えっ、頭にくっついてるの!? 赤帽子」


ゴ治郎はコクコクと頷く。くっついて離れないなんて呪い装備じゃないか。いや、それどころではない。この帽子、ほんのりあたたかいぞ。


「もしかして、これって身体の一部じゃない?」


肯定のジェスチャー。ゴ治郎を机に下ろして全身をつぶさにチェックする。


以前に比べるとすらっとして背も伸びている。どこか暗殺者を思わせるような姿だ。これはもしや。


「進化したってこと?」


ゴ治郎は首を傾げる。まぁ、本人にとっても初めてのことだ。よく分かってないのだろう。


「速く動いたり出来る?」


「ギッ!」


返事をしたゴ治郎は一瞬で机の端まで移動していた。目にも止まらぬ速さとはこのこと。身体能力もしっかり赤帽子になっているようだ。


やばい。めちゃくちゃ楽しみになってきた! ちょっとだけダンジョンに行って──。


「ハルくーん、はやくお風呂入っちゃって!」


階下から俺を諌める声がした。よくよく考えたら、今日は色々あり過ぎた。ゆっくり休んで、明日試せばいい。


「よし。ダンジョンは明日にしよう。今日はよく頑張った! これからもよろしくな!」


「ギギッ!」


そう言ってゴ治郎が戻った召喚石はやはり赤く点滅するのだった。

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