第13話 異変

俺は今、困惑している。やっとの思いで赤帽子へのリベンジを果たし、さあ風呂にでも入ろうというタイミング。誰がどう考えても、サクッと次のシーンに行く場面。なのに、手のひらにあるものがそれを許さない。汗を流して一人スッキリしようなんてのは、甘い考えだったようだ。


赤帽子を倒し、部屋から母親が出て行った後、ダンジョンに残ったのは魔石ではなかった。赤帽子の煙の中から出て来たのは、赤い帽子。繰り返す。赤い帽子が残ったのだ。


その時の事を再現しよう。


「ギギッギ、イイ?」


「うん? かぶりたいのか? 勝ったのはゴ治郎だ。好きにしろ」


「ギギッ!」


そう言ってゴ治郎は赤い帽子を手にとり、頭にかぶった。そう、かぶってしまった。それからは混乱の連続だ。


先ず、ゴ治郎との視覚・聴覚の共有が突然解けた。いつモンスターが現れるか分からない危険なダンジョンの中、ゴ治郎は一人意識を失って寝そべっている可能性がある。


サッと血の気が引き、慌てて召喚石を持って「戻れ!」と叫ぶ。


すると今度は召喚石が赤く不規則に点滅し始めたではないか! これはどういうことだ? 今までなら、召喚石が点滅するのはゴ治郎が戻った合図だった。しかし、色が違う。点滅はランダムで忙しない。まるで、ゴ治郎が召喚石の中で苦しんでいるかのようだ……。


はい。回想終了。


手のひらの召喚石をじっと見つめる。未だにのたうち回るように赤く点滅を繰り返しているそれに、何をしてやるのが正解なのか?


味の変化を確かめるために口にいれる? いや、やめておこう。一度痛い目に遭っている。俺はやった後悔よりやらない後悔を取る派だ。もう改宗した。


「ふー」


困り果てて息を吐くと、またもや机の前に貼ったB級ホラー映画のポスターが目に付いた。


全裸の女ヴァンパイアが俺に問う。お前に何が出来る? お前に出来るのはせいぜい、血を差し出すぐらいだろ? 随分な言い分。献血バスに書かれていたら非難轟々のコピーだ。


しかし、敢えて乗ってやろうじゃないか。挑発的な女は嫌いじゃない。裸の女なら尚更だ。俺の赤血球をくれてやろう。


安全ピンを親指に突き刺し、呼吸を整える。


「好きなだけもっていくがいい」


血の流れる親指を召喚石に押し付けると、引っ張られるように視界が暗転し、間もなく意識も途切れた。

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