第12話 赤帽子
ゴ治郎がやられたあの日以来、2度目の第2階層はやはりしんとしていた。第1階層のようにゴブリンが騒がしく襲ってくる事はない。静かに、こちらを狙っているのだ。
「ゴ治郎、お前は強くなった。装備も随分良くなった。焦ることはない。落ち着いて、ゆっくり進むんだ」
「……」
視界のブレでゴ治郎が頷いたのが分かる。どうやらスイッチが入ったようだ。ここからは任せよう。
転移の石柱が置かれた部屋から滑るように移動し、通路に出る。前回はこの通路の曲がったところで赤帽子に襲われた。
ゴ治郎は丸盾を構え、半身になりながらジリジリと前に進んだ。強くなったとはいえ、赤帽子のスピードは脅威。初撃が鍵となる。
壁に背をつけ、呼吸を整える。そして予め用意しておいた小石を、ゆっくりと曲がり角の先へ投げた。
カラン。
「ヒッ!」
いた! 赤帽子はすぐ側だ! 俺が思うよりも速くゴ治郎は丸盾を前にして突進を始める。
不意を突かれた赤帽子は一瞬怯むが、やはり反応がいい。バックステップでシールドバッシュを躱し、同時に腰のナイフを引き抜いた。
「止まるな!」
「ギギッ!」
大振りにならないように銅の剣を突き入れると、赤帽子はさらに後退する。しかしゴ治郎は止まらない。前回より遥かに強靭になった肉体が前へと進み、絶え間なく繰り出される突きが赤帽子の反撃を許さない。
「ヒッヒッ、フー!」
防戦一方の赤帽子の息が荒い。コイツ、スタミナがない? 一方のゴ治郎は俺がエネルギーを供給する限り無尽蔵に動ける。連続稼働はお手の物だ。今だって高カロリーで消化のいいゼリー飲料を口に咥えている。
「ヒッ!」
赤帽子が岩に躓いてよろける。
「ギギッ!」
ゴ治郎が銅の剣を振りかぶり──。
「ダメだ!!」
ゴ治郎の視界から赤帽子の姿が消え──。
「お座り!」
「ギッ!」
しゃがんだゴ治郎の上を、風を斬る音が通り過ぎ──。
「
「ギギッ!」
手応えありだ! 赤帽子のくぐもった声が聞こえる。
「叩けえぇぇぇ!!」
「ギャャャャャ!!」
振り向いたゴ治郎が赤帽子を叩き、血飛沫が舞う。興奮したゴ治郎は何度も何度も銅の剣を叩きつけ、やがて岩を叩く音が聞こえ始めた。
「ゴ治郎」
「……」
「ゴ治郎、もういいぞ」
「……ギッ」
「ゴ治郎、お前の勝ちだ……」
「ギギギギ?」
「本当だ。見てみろ」
視界に入るのはただの赤い水溜り。
「お前の勝ちだ」
「ゲギャギャギャギャャャャ!!!!」
「ウオオオオオオォォォォォ!!!!」
勝利の雄叫びがダンジョンと水野家に響き渡る。
一寸置いて、階段を上がる足音が聞こえた。ヤバイ。はしゃぎ過ぎた。無遠慮にドアノブが回される!
「ハルくん! どしたん!?」
「……勉強し過ぎて、頭がパンクした」
「……もう、ほどほどにしなさいよ」
そっと閉められたドアの向こうに母親の姿を幻視した。
嘘で誤魔化した罪悪感はある。だがしかし、俺は勉強では手に入れられないものを手に入れたのだ。
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