第5話 命名
「ハルくん、随分食べるわね……」
「めちゃくちゃ腹減ってる」
「あと2束ぐらい茹でる?」
「3束で!」
呆れた顔をした母親が立ち上がり、ガスコンロに向かって素麺を茹で始めた。こんなに腹が減ったのは久しぶりだ。ゴブリンを召喚すると、随分とエネルギーを消費するらしい。
「そういえばハルくん、いつまでこっちにいるの? お盆が終わったら東京に戻る?」
「いや、ギリギリまでこっちにいるよ」
何せダンジョン探索があるんだ。こんなロマンを前に東京に戻っていられるか!
「珍しいわね。何かあったの?」
「いや、ちょっと勉強しようと思って。実家の方が家事しなくていいから捗るかなって」
「まぁ、感心」
「社会人になると勉強する時間はなくなるって言うからね。今のうちにやっておこうと」
全く勉強する気はないが、言うのはタダだ。
「すんなり就職先が決まればいいけどねぇ」
茹で上がり、氷でしめられた素麺がテーブルに置かれる。
「はははは。……まぁ、大丈夫でしょ」
薬味のミョウガがつんと鼻をついた。
#
「よし。ダンジョンに行く前にお前に名前を与えよう」
「ギッ!!」
再び召喚したゴブリンが、自室の机の上でピシッと気をつけをしている。
「お前の名前はゴブ太だ!」
「……ギ」
「なんだ? 不満か?」
「ギッ! ギギギッギ!」
慌ててゴブリンが首を振る。
「仕方がない。別の名前を考えるか」
「……」
「ゴ
「ギッ!!」
「気に入ったようだな。ゴ治郎」
「ギギッ!!」
「よし、ゴ治郎。これからダンジョン攻略に乗り出すが、お前は丸腰だ。このままではあっさり他のゴブリンにやられるだろう」
「ギィ……」
「そんな顔をするな。お前には名前の他にこれを与えよう」
机の中から捨てようと思いながらも捨てていない、キーホルダーを取り出す。
「ギギギ!!」
「ふふふ。気が付いたようだな。この剣の素晴らしさに」
龍が巻き付いた剣のキーホルダー。もはやどこで買ったかも覚えていない。チェーンの部分を外してゴ治郎に渡すと、少々大きいが持てないことはない。
「振ってみろ!」
「ギッ!」
「体重を乗せろ! どうせ切れ無いんだ! 叩き潰すイメージで!」
「ギギッ!」
「もっとだ! 親の仇が目の前にいると思え」
もしかしたら俺がゴ治郎の親ゴブリンを殺してしまったかもしれないが、そこは黙っておこう。
「ギギギッギー!」
結局その日はゴ治郎の訓練に時間を費やし、ダンジョン攻略は翌日に持ち越しとなった。
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