第4話 召喚

「うっ!」


指先から力を吸い取られるような感覚に思わず声が出る。ズズズと音がする様に、緑の魔石に向かって何かが流れている。


魔石の点滅は激しくなり、もう爆発でもしてしまいそうだ。これは何かが起こる。もうこれ以上ないぐらいに光を放つようになったところで魔石から指を離し──。


「ギギギ!」


「えっ?」


「ギ?」


いや、何でお前まで困った顔をしているんだ。緑の魔石の横に現れたのはゴブリン。裏庭ダンジョンで何度も手にかけた緑のモンスター。


何だ? これは幽霊か何かなのか? 殺された恨みで死にきれずに実体化したのか?


ゴブリンの様子を窺うが、不思議と敵意は感じない。じっとこちらを見て、何かを待っているように見える。


「お座り!」


「ギ!」


座った。飼い犬よろしく、ゴブリンは座って嬉しそうにしている。


「立て!」


「ギ!」


立った。消しゴムサイズのゴブリンが俺の言う通りに座ったり立ったりする。これはまるで──。


「召喚? ゴブリンを召喚したのか?」


ゴブリンが頷いた気がした。



#



召喚ゴブリンにはこちらの意思が伝わるようで、指示をすると素直に従う。走れ! と念じれば駆け出すし、跳べ! 念じればジャンプする。別に口に出す必要もない。俺が血を与えて顕在化したからだろう。とても従順だ。


そして何より驚いたのは視覚と聴覚を共有出来ることだ。召喚ゴブリンの視界を意識すると、薄っすらと自分の顔が見える。今、召喚ゴブリンがこちらを向いているからだ。


目を閉じるともっと鮮明だ。ゴブリンの見ているものがハッキリと映像として脳に浮かぶ。全てのものが巨大に見えるので、自分が小人にでもなった気分だ。


ここで天才的な発想が降ってきた。もうね、勝った。勝ちました。何に勝ったのかは別にして、とにかく勝った。


「お前、ダンジョン潜れるか?」


「ギッ!」


楽勝です! と言わんばかりにゴブリンは胸を張る。まぁ、それはそうだ。そもそもダンジョンに居たのだ。


今までシャベルで掘り返すしかなかった小さいダンジョンだったが、このゴブリンを潜入させ視覚と聴覚を共有することでダンジョン探索が出来るのだ!


これは楽しいに違いない! 今年の夏休みの過ごし方は完全に決まった。


「ハルくーん、そうめん出来たよー」


階段の下から俺を呼ぶ声が聞こえる。また、素麺かよ。


「聞こえてますかー? 水野晴臣みずのはるおみ選手、いますかー?」


面倒くさい母親だ。とはいえ腹は減った。たぶん、力を吸われたからだろう。


緑の魔石、いや、召喚石を手の平に乗せて「戻れ!」と念じるとゴブリンは微かに光ってから姿を消した。そして代わりに召喚石が拍動するように輝きはじめる。


「今、いくー」


召喚石を鍵のかかる引き出しに仕舞い、いざ素麺。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る