第4話:決意の時

みんなの様子がおかしい。

どうやら私は数日間意識を失っていたようだ。

最後の記憶は虹色の光が私めがけて突き刺さったこと。

そして、目を覚ますとベスタが目の前に居た。しかし、庭ではなく、ベッドの上だった。

自分の手を見ると色が違う。色が薄いというか白いというか・・・


「どこか調子のおかしいところはないか?」

父様が優しく声をかけてくれる。

まだ体に力が入らなくて起き上がれない。ベスタに起こしてもらってベッドに腰掛ける。

場所は自分の部屋。しかし、あったはずの姿見がなくなっている。なぜ?

おそらく白いのは手だけじゃないんだろう。私がショックを受けないように隠したんだと思う。

しかし、そうなると余計に気になる。なんせ自分の身体なのだ。


「何か欲しいものはある?」

母様が優しく尋ねてくる。

湯浴みがしたい。ずっと寝ていたしそ、の間もベスタが身体は拭いてくれてたみたいだけど・・・

それ以上に気分的な問題だ。ゆっくりとお湯に浸かりたい・・・

「湯浴み?すぐには準備出来ないわ」

母様にそう言われてハッと気付く。

どうしてお湯に浸かりたいなんて思ったんだろう?

普段はタライにお湯を張ってタオルで身体を洗う。

それに水浴びをするには早すぎる季節だ。湖の水はまだ冷たい。

どこでお湯に浸かった?なんでそんなことを思いついた?

それにりんごだってそれほど好きだったわけでも・・・


鏡が見たい。ベスタ用意して。

「鏡ですか・・・現在修理中でございまして・・・」

姿見じゃなくても良いの、手鏡でも。自分の顔が見たいの!

「あの、その・・・」

多分父様に止められてるのね。それほど私の姿がひどい状態なんだ・・・

鏡がないなら水を張ったタライを用意してちょうだい。それすらも用意出来ないとは言わせないわ!

困り果てたベスタが手鏡を渡してくれた。


意を決して鏡を覗き込む。

・・・うさぎ?髪は真っ白で目は真っ赤。まるで白ウサギのような姿・・・

なんだ、もっとひどい怪我とかを想像しちゃったじゃない・・・

なんか妙に懐かしい感じがするのはなぜかしら?

それにしても、本当に真っ白・・・これではおそらく婚約は破棄されたのね・・・

だって、こんなに不吉な姿なんですもの・・・

すると、ダージリン家からも勘当と言うか追放でしょうか?良くて幽閉ね・・・

おそらく、神託の儀でも散々な結果が出ることでしょう・・・

強き力の象徴である黒すら塗りつぶす、呪われた色・・・

ダージリン家では禁忌とされている色。絶対に存在してはいけない色。

いいえ、世間一般ではそれほど嫌われているわけではないけど、

なぜかダージリン家では白は不吉な色とされている。

この色では、この領地で生活することは出来ない。


「司祭様、なぜヒルデはこのような姿に?」

そう、いくら雷に打たれたとは言え、なんでこんなことに?

「おそらく、落雷のショックによって身体中の色素が破壊されたのでしょう・・・」

そんなことってあり得るの?

「治療方法はないのでしょうか?」

怪我や病気ではないから治療も出来そうもないわね・・・

「部位欠損の回復とも違いますから・・・おそらく前例も無いでしょう・・・」

諦めるしか無いわね。

だとすると、どうにか幽閉ではなくて追放にでもなるようにしないと。

流石に一生塔の上や地下牢に監禁されるのはイヤだ。

それだけはどうにかして回避しないと・・・


「ところで、神託の儀はこのまま取り行ってもよろしいのでしょうか?」

何日間寝てたのか知らないけど、そろそろのはず。

「予定通り明日行ってください」

明日!?

そこで私の人生が決まるのね。おそらくダメな方向で・・・

でも、どんな結果が出てもそれを受け入れるしかない。

そして、その上でこれからのことを考えないと!

何か、せめて手に職系の職業を授かりますように・・・でも誰に祈ればいいの?

なぜか神様には祈りたくないし、祈るだけ無駄な気がしている・・・なんでだろう?

むしろ神は敵とすら思える・・・理由はわからない。魂が囁くとでも言う感じなんだよ。

まあ、なるようにしかならないし、今考えても無駄だね。


幽閉されるくらいなら追放されるように、むしろ自分から出て行くようにしないと!

うまいこと近くの街までの路銀や当面の生活費くらいは持ち出さないと・・・

もしくは何か簡単に換金できるものでもあれば・・・

いえ、現金ね。宝石などを換金しようにも相場がわからないし、おそらく騙される。

なんせ、子供だから。下手に大金を持ってると思われればそのまま誘拐されるかも?


そのためにはいくら必要なのかも調べておかないと。

何せ、1日暮らすのにいくらかかるのかも全く知らない・・・

情報が欲しい。生きて行くために最低限必要なもの。子供でも可能な収入を得る方法。

準備をする時間が無い。どうしようか・・・

最悪、幽閉されてから逃げ出す方法も検討しておいた方がいいかな?

自力では無理だ。協力者が必要。しかし、協力者が罰せられる可能性もある。

なるべく迷惑はかけたくない。どうするか・・・


全ては明日の神託の儀にかかってる。

ないとは思うけど、万が一有能な職業を授かれば扱いが変わるかも・・・

勇者とか賢者とか聖女とか剣聖とか・・・そう言ったレアな職業なら・・・

政略結婚の材料程度には・・・

待て、例えそうだったとして、政略結婚の道具ってのもどうだ?それって嬉しいのか?

やっぱり、結果はどうであれこの家を出るのを前提で考えよう・・・


そうだ、冒険者はどうだろうか?魔物の討伐は無理としても、薬草の採取とかあるのでは?

そう行った依頼でどれほどの生活費が稼げるのかは未知数だが、贅沢は言ってられない。

-頑張れば宿屋に泊まってご飯が食べられるんだよ-

頭の中に声が響いた。そうか頑張れば生活出来るのか・・・なら、頑張るしかないな。

なんだか少し気分が楽になった。明日が運命の日だなんて勝手に思い込んでた。

でも、そんなことはないんだ。明日はただの始まりの日。

今日までの私とは違う、新しい私が始まる日!

神託の結果によっては少し大変かも知れないけど、絶望する必要はなかったんだよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る