第5話:神託の儀

いよいよ、運命の朝。

少し前まではあんなに深刻に思ってたのに吹っ切れたというか、気にする必要ないことに気付いた。

おそらく、どんな結果でも、幽閉か追放になるはず。だったら最初から追放前提で動くべき。


目を覚ますと天気のいい朝だった。ベスタに着替えさせてもらう。

今日のために特別にあつらえた衣装を着て、その上からすっぽりとかぶるローブを身に付ける。

これで、私の髪や肌の色は見えない。

それから、おそらくみんなととる最後の食事。最後の晩餐ならぬ最後の朝食だ。

これも昔から決まっている。神託の儀の朝は硬い雑穀のパンと薄い塩味のスープ。

なんでも清貧な食事で精神を清めるという意味らしい。


屋敷の前に馬車が停まって、それに乗り込む。乗るのは私と父様だけだ。

行き先はもちろん教会の大聖堂。神託の儀が行われる場所。

距離的にはそんなに遠くない。歩いても楽に行けるほどの距離だ。

私が病み上がりというのもあるけど、私の姿を晒したくないという理由が大きいのだろう。

程なくして教会に到着する。

馬車は裏口に到着する。この馬車には装飾はほとんどなく、家紋もついていない。

だから、ここにきたのがどこの家の誰なのかは見た目ではわからない。

裏口から入り、女神像のある大聖堂へ移動する。

この時間帯は誰もいない。私のために配慮してくれたようだ。


「それでは神託の儀を開始します。この石板に手を乗せてください」

黒曜石のような石板に手を乗せると、虹色に光って文字が浮かび上がる。

ここに表示されたのが私の職業。

「ブリュンヒルデ・ディア・ダージリン、そなたの職業はテイマーである」

最悪だ・・・

通常の職業と違って、使役する魔物が必要だ。どうにかして調達しないと・・・

ドラゴンなんて贅沢は言わないけど、狼系の魔物なら騎獣としても使える。移動の足になるのだ。

「ああ、続きがありましたね・・・」

続き?どういうこと?

「ただし、スライムに限る」

スライム?最弱の魔物じゃないか!?

それしか使役することができない?テイマーなんてただでさえ不遇な職業なのに・・・

よりにもよってスライム限定?

ここは素直に受け入れるしかない。駄々をこねて覆るものではないし・・・

しかし、スライムか・・・

手に入れるのは比較的楽かもしれないけど、戦力としても移動手段としても厳しいか?

「ステータスを確認しなさい」

自分のステータス。これでそれなりの方向性も決めないといけない。


名前:ブリュンヒルデ・ディア・ダージリン

年齢:10

職業:テイマー(ただしスライムに限る)

レベル:1

HP:10

MP:10

ちから:1

すばやさ:1

かしこさ:1

きようさ:1

経験値:0

次のレベルまで: -


状態

呪い<成長阻害>

呪い<職業限定>

呪い<能力限定>

呪い<不幸吸収>

呪い<幸運拡散>

呪い<祝福封印>:本人以外非表示

呪い<神力封印>:本人以外非表示


スキル

テイム:0


レアスキル

無し


ユニークスキル

無し


その他

無し


最低だ・・・なんだこのステータスは・・・

嘆くのは後だ、まずは返事をしないと。


神託を確かに受け取りました。

そう言って深々とお辞儀をする。


顔を上げると大司教様も気の毒そうな顔をしている。

しかし、これで家を出るのは確定的になった。早急に準備をしないと。

むしろこの場でそのまま追放だってあり得るだろう。

ならばこちらから切り出した方がいいかも知れない。


父様、長い間お世話になりました。

「ヒルデ、一体何を言ってるのだ!」

見ての通り、ダージリンの家系にふさわしくない職業を得てしまいました。

それにこの不吉な姿です。おそらく婚約も解消されていることでしょう・・・

ダージリンの家で幽閉されて過ごすのではなく、外の世界で生活したいのです。

もちろん、ダージリンの名を名乗ることはありません。ご安心ください。

「そんな悲しいことを言うな!もちろん幽閉などするつもりはない・・・王子のことは残念であったが・・・」

そうか、やっぱり王子との婚約は解消されていたんだ。


しかし、この不吉な姿を民衆に晒すのはまずいのではないですか?

「確かに、そうなのだが・・・」

貴族とは歴史にこだわる人種だ。さらに言うと体面にもこだわる人種でもある。

自分が良くても、相手がそう思わないことが多々ある。

私の姿など格好の標的になるだろう・・・

親戚や、対立している貴族だけじゃなく、領民だって騒ぎ出すかも知れない。

それだけこの領地での白は不吉な色なのだ・・・

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