オリヴィアの婚約者
へっぽこ作戦会議
オリヴィアはカテリーナからの手紙を読んで、一人深いため息を吐いた。
ジークハルトが、ある程度こちらの事情を把握したらしい。前世のある自分達はまだしも、まさかジークハルトがその話を信じるとは思わなかったが、二人の間で彼を納得させられるだけのやり取りがあったのだろう。
アイリスを探しに行った日のカテリーナの様子は少しおかしかった。最初は遭遇したというジークハルトから心ない言葉でも言われたのかと思い怒りに震えたが、どうやら違うという。
それにしても、まさかジークハルトが聖騎士候補生としての義務である巡回実習中にカテリーナと遭遇し、彼女の聖光気をみてしまうとは。想定外に事態が転がりすぎて対策が追いつかない。
公爵家の巨大な図書館見ても、
ただ魔法学、魔法薬学、この国の情勢、近郊国との関係などある程度知れたのは大きい。元々オリヴィアはかなり優秀だった。
見るもの聞くものほとんど一度聞けば全て覚え、刺繍に教養、ダンスやマナーなど、なんでもそつなくこなす事ができる。
魔法書を読めば詠唱無しですぐに唱えられ、内在する魔力量も膨大である。
ジークハルトですらオリヴィア程の魔力量はない。そのかわり、彼には剣術があるのだが……今の時点で正直、オリヴィアを脅かす人物などいなさそうだ。
つい天狗になりそうな自分を律する事が一番困難だった。
(いくら万能でも謙虚さは忘れちゃだめね……。下手に調子に乗ると、目をつけられて危険因子扱いされて処刑コース真っ逆さまだわ)
オリヴィアは決意を新たにして、今後の事態に備えていくため招待状を書くため筆を走らせる。
そして、招待状を送って一週間後。
再びアイルーゼン公爵家に二人を呼び、作戦会議をすべく集まった。
オリヴィアは死亡ルートが多岐に渡り、自殺、他殺、不慮の事故など相当バリエーション豊かだ。その中で生き残るのは、国外追放と生涯幽閉ルートしかない。
カテリーナから街で起こった出来事の情報を三人で精査した結果。
ヒロインことアイリスも前世持ちであり、その時の反応からゲームの経験者らしいという結論に至った。ジークハルトからの情報から察するに、アイリスは教会で聖女認定を受け、近いうちにドリュー家へ来るのだろう。
アイリスへの対策はまた後日話し合う事にして、二人が持ってきてくれた手土産の方に話題が移る。
「……ところでさ、カテリーナ。それ、何?」
「え、これ? 私が作った、ささみの鶏ハム」
美しいアイボリーのティーテーブルには似つかわしくない鶏ハムが置いてある。
「いや、とりささみはわかるけど……。何で、手土産がコレなのか聞いてるのよ」
カテリーナは照れくさそうに笑いながら、恋する乙女の表情でモジモジしている。
「いや、ゲームのジークの好感度上がるアイテムって肉系だった訳。中でもとりささみって手土産として最高だったから実際どうなのかなってさ……まさか今日ジークいないとは思わなくて」
「そこは令嬢らしくお菓子とかさ……」
「だって、お菓子持って行ったら好感度下がってたんだもん」
そして問題はミレイユだ。彼女の手土産は手作りの焼き菓子の詰め合わせだった。可愛らしくハートや星型のクッキーを、ミレイユのイメージに沿った可愛らしくアイシングでデコレーションしたものだった。
問題は、その焼き菓子の作成者がミレイユではなくロベルトだと言う事だ。
「ほら、ミレイユ。食べかす付いてるよ」
そのうえ、彼はいま目の前でミレイユを膝に乗せて、自ら焼いた焼き菓子を手ずから食べさせており、非常にご満悦である。
ミレイユも最早慣れているのかモソモソと咀嚼している。
甘い声を出しながらミレイユのほっぺについた食べかすをキスして取っている。
「いや、いやいやいや。あの……、ロベルト様。話し合いの邪魔なんですけど」
焼き菓子以上の甘い空気にオリヴィアはたまらない気持ちになり、ロベルトへ抗議した。
「……オリヴィア嬢。お言葉を返すようで申し訳ありませんが。ミレイユが出掛けるのに、僕がエスコートしないでもし彼女に何かあればどうするんですか」
オリヴィアを冷たく睥睨したロベルトは、ミレイユを後ろから更に力強く抱きしめた。
「……すみません。私も、ロベルト様に今日だけは遠慮して頂けないかと必死に頼んだのですが、まったく聞いて頂けなくて……」
気まずそうに俯くミレイユを見ていると、とてもそれ以上責める気になれずオリヴィアは心配になった。
「………ミレイユは、それでいいの?」
「あ……はい。何か、もう慣れました」
力なく項垂れるミレイユと、にこやかに彼女の世話を甲斐甲斐しく焼くロベルト。
オリヴィア達の話を聞いてもロベルトがまったく動じていなかった事から、彼は恐らく根掘り葉掘りミレイユから事情を聞いて、もう全てを知っているのだろう。こちらが呆れるほどの溺愛具合なのに、もしヒロインへと心変わりするのであれば本当に残酷だ。
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