第3話

「交差点脇にベンチがあるので。とりあえずあそこに」


 ベンチを指差す。仲間御用達、便利なベンチ。


「あ、ほんとだ。あんなところにベンチあったんだ。しらなかった」


 彼女。何も考えずについてくる。さっきの交差点も、何かに追い立てられるように渡っていた。やはり、何か、彼女の心は助けを求めている。しかし、それが何に対しての助けなのかは、分からない。

 彼女が、ベンチに座る。


「最近、何かありました?」


「最近?」


「ええ。最近です。人じゃないものを見たとか。たとえば、狐とか」


「いや、いつも通りですけど」


「そうですか」


 狐ではない。単純に彼女自身の問題か。通信機器からも、RCCや狐に関する異状は報告されていない。


「あ、もしかして。もしかしてもしかして」


 彼女がこちらに顔を近づけてくる。


「わたしを見て、何か思ったんですか?」


「ええ」


「へええ。そうなんだ。なんて思ったんですか?」


 会話の主導権をとられた。まあ、いいか。心の状態さえ知れれば、それでいい。


「たすけて、って」


「へええ。たすけて、か」


 彼女がふむふむと頷く。どちらが相談相手なのか、分かんなくなってくるような仕草。


「わたしですね。ええと、なんて説明すればいいかな」


 彼女。言葉を選ぶしぐさ。


「ひとの心を、反射するんです」

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