終息
「お、やっと見つけたぁ」
メリエ達と別れた森。
丸一日かかることになったが、無事に合流地点に戻ってきた。
合流の際はライカが探してくれることになっていたが、そのライカはアンナと別行動になってしまったので自力でメリエ達を探さなければならなくなり、おかげで見通しの悪い森の上空を行ったり来たりしてかなり無駄な時間を使ってしまった。
別れた場所から少し離れた位置でメリエ達を見つけた。
昨日国境線に発つ前に王城で別れたアンナも既に到着していて、メリエ達と一緒に食事の準備をしているところだったようだ。
こちらに気が付くと料理の手を止めて手を振ってくれた。
「ふいー。お待たせ」
ズズンという地響きと共に、森の土の上に降り立って翼をたたむ。
周囲を見回すとスイとレアも無事で、カラム達とおしゃべりをしていた。
見た感じ随分と打ち解けている様子だった。
そちらの方も着地した自分に気が付くと、笑顔を向けてくれた。
アンナはこちらに駆け寄ってくると、自分の体をじろじろと観察し始める。
「クロさん、お帰りなさい。大丈夫ですか? 怪我とかありませんか?」
「うん、大丈夫だよ。そっちは?」
「特に襲われたりもしませんでした。王女様がしっかり護衛もつけてくれましたし」
アンナはにこやかにそう言うと、顔を少し離れた木陰に向ける。
そこには初めて見る顔の女性が二人。
一人は人間のようで、男勝りな雰囲気を纏いつつ腕を組んでいる。
腰には剣、そして軽鎧と胸当て。
もう一人はエルフなのか、尖った長い耳に透き通るような美しい金髪を森の風に靡かせていた。
こちらは軽い布服、背に弓と矢筒。
その二人の横には見慣れない大きな動物が控えている。
ポロよりも一回りは大きい、短い毛で覆われた犬のような顔立ちの獣だった。
竜が近寄ってきたのに大人しく座り、エルフの女性に頭を撫でられている。
騎乗用の魔物か獣のようだが、良く躾けられているようだ。
「えっと、あの人たちがここまで送ってくれたんですよ。後で紹介します」
事情は既に知っているのか、その二人はアンナの言葉と同時に静かにこちらに頭を下げた。
「そっか。あれ? ライカは?」
「あ……ライカさんはまだ眠ったままです。あれからまだ一度も目覚めていません」
そう言いながら、アンナはポロがいる開けた場所に目を向けた。
荷物がまとめて置かれている場所のすぐ横にポロが寝そべっており、更にその横に小さな天幕がある。
ライカはその天幕の中の布の上で丸くなっていた。
「普段寝ている時と同じで、苦しそうな様子とかも無いので大丈夫だとは思うんですけど……」
「……それだけ消耗したってことか……後でもう一回癒しの術かけておこう」
「はい」
アンナはその言葉に安心したのか、安堵の息をついてメリエに視線を向けた。
アンナに先を譲ったらしいメリエが、続いて迎えてくれた。
「お帰り。思ったよりも早かったな。無事で何よりだ」
「ただいま。そう? 早かった?」
「国の中枢に居座る貴族を叩き潰しに正面から王城に乗り込み、次いで国軍を相手にするために国境へ飛んだらしいじゃないか。移動距離だけでもかなりのものだぞ。普通に考えたら一日で帰ってくるとは思えん。
……が、まぁクロだしな。私の常識で考えない方がいいな。で、どうだったんだ?」
「ん、この後説明するよ。アンナの方がどうなったかも聞きたいし、メリエ達のその後も聞きたいから。まずは緊急にやらなきゃいけないこととかある?」
そう言いながらアンナとメリエを見詰める。
「いえ、私の方はそうしたことはないですね。王女様もクロさんに急いで戻ってきてもらいたいとかは言っていませんでしたし」
「こちらもないな。追手は警戒していたが、静かなものだったぞ」
アンナとメリエはお互いに視線を交わすとそう言った。
メリエの方はともかく、王女様の方はできるだけ早くに戻った方が良さそうだが……。
少しは事態が好転したということだろうか。
少し考えこんだところで、次にスイ達が駆け寄ってきた。
「クロさんお帰りなさい。そして、ありがとうございました。アンナさんから色々と聞きました」
「クロ様、無事で何よりです。この度は本当にありがとうございました」
スイとレアが順番に礼を述べると、その後ろでフィズが静かに頭を下げた。
カラム達は離れた場所で座ったままこちらの様子を窺っている。
「シェリアさんとシラルさんは無事解放されて、王城で王女様と今後のことを話し合っています。それが済み次第、すぐにこっちに駆け付けると言っていました」
アンナがシラル達のことを手短に説明する。
将軍というだけあって仕事をほっぽり出して娘のところに駆けつけることはできなかったようだ。
「そっか。これで約束も果たせたかな。
ま、後は僕たちがどうこうできる問題じゃないし、シラルさん達と王女様に頑張ってもらおう」
この先は政治の問題。
素人である自分たちにはどうすることもできない。
報酬の件にしてもまずは落ち着いてからだ。
「ふむ。では移動の準備を始めよう。王都に戻るのにも時間がかかる。その時間で情報交換すればいい。アンナを護衛してきてくれた諜報部の二人についてもそこで話そう。彼女たちのお陰で迷うことなく森を出られるはずだ」
「飛べたら楽だけど、この大所帯じゃね」
乗せて行こうかと思いもしたが、人数の関係でそれは無理だ。
それに飛んで戻っても向こうで待つことになるのは明白。
時間をかけて移動した方が今は丁度いい。
シラル達もこちらに向かっているのだとすれば途中で合流もできるだろう。
アンナが料理していたのは食材を保存食にするためだったようで、残りの作業を手早く済ませると保存用の袋に詰めて終わりになった。
その間、未だ眠ったままのライカに再度癒しの星術をかけておく。
苦しそうな感じも無く、かけた途端にモゾモゾと身じろぎをしたので間もなく目覚めそうだ。
残った荷物をまとめ、ポロと自分の背中に括り付けると移動の準備は完了した。
「よし。では行くか」
メリエがリュックを背負うと、ポロの横に付いた。
スイ達も各々の荷物を持ち、外套を羽織る。
フィズは装備一式とスイ達の荷物の一部を持つ。
貴族令嬢のスイ達には旅道具一式を持って長時間歩くのはキツイと判断したからだろう。
カラム達は、当初捕まえておくためにつけておいた拘束用の縄を外されている。
つけていると歩きにくくなるし、今はほぼ逃げる心配はないと判断されたからだ。
仮に逃げても今の自分なら余裕で捕まえられる。
さすがに装備は返さないが、途中魔物に襲われたとしても上位水精霊のミラがいれば自分達で撃退もできるはず。
「行きましょうか。こちらです」
アンナがライカを抱えて自分の背に乗ったところで、護衛の二人が促した。
大きな騎獣もすっくと立ち上がり、護衛の二人が背に乗ると体の大きさに似合わずトットットと軽快に歩き出した。
立ち上がってわかったが、背の高い犬と馬の中間のような変わった体つきだった。
全員で周囲を気にしながら森を抜けるために護衛の後に続く。
街道からは離れており、道らしい道もないのに護衛の二人は一切足を止めることなく騎獣を促してどんどん進んでいく。
目印も何も無く、どこまでも似たような木々が続いているだけの森なのだが、どうやって方向を確認しているのか、そうした魔法があるのかなどと考えながら森の草木を踏み分けながら背のアンナと、一緒に歩く面々を気にしながら歩き続けた。
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