魔法少女ほのかさん焼肉を食べたくて、魔王を秒で消し飛ばす~なんかあたしの妖精だけが下ネタ好きなゲスコットで困ってる件~[カクヨムWeb小説短編賞2021参加作品]

お花畑ラブ子

焼肉魔法少女読み終わったら胸焼け必至?!超王道マジカルファンタジー入荷しました!!

 どことも知れない荒野


 次々と上がる爆炎


 カラフルな光のオンパレード


 巨大な黒い影の前。息は上がっているが、目は死んでいない、決死の覚悟の少女たちがいた。


 ところどころ焦げ、破れた魔法の衣装。本来は可愛らしく、ふわふわにデザインされているそれらも、戦闘の土埃や汗や血で汚れてしまっている。


 彼女たちが立ち向かう最後の敵。黒く塗りつぶされた空間に真っ赤な口がおぞましく大きく開かれている。只でさえ強敵なのに、咆哮とともにさらに魔力が膨れ上がる。


彼女たちはそれを見て、心が挫けそうになるのを、すんでのところで保とうとする。一人は家族のため、一人は街のため、一人は自分のため。守るべきもののために、奇跡とも思える確率の勝利を信じて、戦いに挑む。


 オレンジを基調とする衣装の魔法少女が歯を食いしばり立ち上がる。バラバラになった髪を結び直し、地面に落ちた山高帽子を拾い上げ、深く被る。怖い怖い怖い。でも、みんなを、さらに自分を鼓舞するため、小さく震える自分の手を握りしめて、気合を入れる。仲間達もそうだ。恐怖と戦っているのだろう。みんなを鼓舞するのは、リーダーである自分の役目だ。みんなからもらったたくさんのものを。今、ここで返そう。


「さぁ、みんな魔法を使って大暴れしよう!そして・・・」


 額から流れる血を拭い、にこやかに、そして、晴れやかに言うのだ。不安や恐怖を吹き飛ばすように。


「帰ったら、学園長の奢りで焼肉パーティだ!!」


 一瞬の沈黙の後。笑い声が響く。


「まったく、時と場所を考えて言えよ」


「全くデース。ほのかはいつも、突拍子がないことを言いマース」


「全く、冗談は胸だけにして欲しいっきゅ」


「しっしっし、あの学園長、ぶったまげるぜ」


「ほのか殿。それは、妙案だな。こんな場でなかったら、な。ふふふ」


 ほのかの提案に仲間の魔法少女たちは苦笑いをし、やれやれとため息をつく。

 そして、


「「「「「のった!!!」」」」」


 全く、ノリのいい仲間達だ。大好きだぜ。


「いいんきゅか?ほのか、太るっきゅよ?」


 ごつんと余計なことを言う妖精の相棒をぶん殴り、敵を見据える。


「ばぁか!女の子だってね…」


 たんこぶを作る緑色のリスみたいな妖精にニカッと笑ってみせた。最後の魔力を絞りだす。想いは力だ。私は絶対に生きて帰る。


「お肉は大好きなんだよ!」


 そして、お腹いっぱいにお肉を食う!彼女はヨダレを拭きながら、物思いにふける。


魔法少女として戦ってきて、約一年。ついに悪の組織との闘いは佳境に。

 いままでほんといろいろあったよ。


 その少女、宮内ほのかは杖を握り直す。



 始まりは、中学1年生の春。温暖化のため、桜が散りきった入学式。そっからの、ウケを狙って滑りちらかしたHRの自己紹介。

「ほのかの「ほ」はホッホケキョの「ほ」!!ふぅわっふ〜!!」

寒く白け切った目に、三年間の氷河期を覚悟した。家に帰ると両親代わりのおじおばの喧嘩。主に金銭面についてのけんかは、居候としては耳が痛い。


「あの子が来てからのエンゲル係数知ってますか!このままでは私たちの暮らしは食い尽くされてしまうのよ!!」


全てが嫌になりかけて、出かけようとしたところ、ポストに投函されていたのは、後にほのかの運命を大きく変えてしまう真っ赤な深紅の封筒だった。


『学費タダ!寮の費用ただ!三食つき!食べ放題!!ドリンクバーでタピオカ飲み放題!!和洋中全てが揃った学食!!』


 という豪華特典のヤバい香りがぷんぷんする勧誘文書によって、私はあっという間にその私立の中学校にいくことが決定した。私たちは見落としていた。小さく『諸条件あり、命の保証はできかねます』と。


 追い出されるも同然でその学園にある破魔町はまちょうに引っ越してきて30分。馬の頭の筋肉ビキニの変態的なゴリマッチョの怪物に襲われて、私、ほのかの新生活が始まったのだった。


 私のお気に入りの髪型がポニーテールなんだけどさ。

 マジの馬に追いかけられるなんてね。

 ははっ!マジ笑えないっす。


 この時の話もいつかは話せたらいいなぁってぼんやり思っているんだけど取り合えず、ざっくりと説明しておこう。私の新生活は、馬とパンツと鬼コーチによってあっという間に魔法少女生活へと転落していった。ざっくりしすぎてわからない?いやいや、私も自分で言っていて、正直どうかと思うけど。まぁ、気にしたら負けよ。


 魔法少女っていうのは、せいぜい幼稚園児や保育園児くらいの子が見るアニメの世界の住人で、中学生の私からしたら当然ありえない存在なわけさ。最近は、コスプレイヤーなんてのも、ある程度社会に認知されてきているとは言っても、もう中学生になったら、そんなことよりも恋!に、おしゃれに!、おいしいごはん!!にしか興味がないわけだわな。でも、まぁ、ちょっぴし、心の奥底では、わくわくしていたのも、あったよ。ちょっぴしね。


 けど、魔法少女はやってみると大変だったなぁ。


「いやいやいや、服が、服が、爆散したんだけど!!聞いてないっ、私、聞いてないって!!ちょっ、せめて草陰でぇ!」


 と、恥じらいをもった純情な乙女な私だったけども。月日や慣れというのは残酷で


「何、さきちゃん恥ずかしがってんの!!はい、すっぽんぽんだよ!すっぽんぽん!!」

「あんた、恥じらいを覚えなさいよ!」


 という始末。昔は恥ずかしかった変身シーンや名乗りもなれちゃった。


「えっ、ほんとに言うの?かおりちゃん?こんな人通りで?馬鹿なの?死ぬの?社会的に死ぬの?私?」


 から、数日後。


「きゃ☆正義の魔法が火を噴くぜ!魔法少女ほのか見参っ!悪の組織の怪人どもめ、消し炭にしてくれるわ!ひゃっはー!」


 堂々と名乗りをできるようになっちまった。慣れって…怖いね☆ 

 でも、名乗りがスパッと決まるとこれが超気持ちいいんだわ。びしっと決まれば、それは、もうカ・イ・カ・ンって感じで、こないだ自分のカッコよさによだれが噴き出していたわ。町のみんなはそんな私の姿を見て、黄色い悲鳴を上げていたしね。ガチの悲鳴かも。

 

 まぁ回想していてもしかたない。一年近く戦ってきた悪の組織の親玉が目の前にいる。いやぁでかい。なんで、こういう敵って、でっかいんだろう。エネルギー効率考えたことある?でかい=強いの時代は終わったの。今頃は省エネ思考が必要なわけよ。無駄にでかい姿。無駄にでかいマント。無駄に低音な笑い声。テンプレすぎるよな。



 最終決戦が行われている荒野は破魔市の上空に現れた敵のアジト。ボスの腕の一振りで荒野に変わった。幹部を倒され後がなくなったボスは真の力を解放した。現在通算5回目の魔力膨張、何回変身するんだよ。


 眼下の町は私の住む町、人知れず山ん中に作られた町。魔を破るって書いて破魔町。魔法使いが多く住む町なのに、ネーミングセンスがあるのかないのかよくわからない。でも、私の大切な人たちが住む町。肉屋のおっちゃんは毎度コロッケサービスしてくれるし、ドーナツ屋のおねーさんは新作と評してドーナツをくれるし、魚屋のおかみさんは、余った魚をくれる。あれ?食べ物ばかり?まぁ寮の食事は私が転校してすぐに、ビュッフェスタイルじゃなくなった。どうも料理長が、「胃袋の悪魔が」と置き手紙をして、失踪したらしい。なんでだろう。食材が尽きたなら買いに行けばいいのに。食堂で諸先輩方が青ざめ、絶句していたのは、どうしてなんだろ。少しは遠慮しろよって、だってビュッフェでしょ?おかしい。だから街に繰り出して、色々食べ歩くしかないじゃないか。その過程で街の人たちととても仲良くなった。私の第二の故郷といってもいいくらい。


「しっしっし、ほのか!焼肉食うんだろ?しっかりしろよ!くるぞ!」

「ボケっと、あほ面晒してる場合じゅないッキュ」


 赤みがかった髪色の短髪の少女が、私の頭を豪快にぶっ叩き、私を現実に引き戻す。サイズの合っていないぶかぶかの古い山高帽子をかぶって、青く透き通ったきれいな杖を持つ。杖を地面に突き刺し魔力を込める彼女の周りには、氷でできた動物たちが次々と生まれ、ボスの体から生まれた厄介な兵たちを蹴散らしている。氷の狼は次々と敵を牙や爪で切り裂き、氷の蛇は地を這い、噛んだ敵を凍らせていく。ボスから放たれる闇の魔力弾には杖を振るって数多のつばめを空中に作り出し、迎撃していく。


 私の一つ上の先輩。かおり先輩。私がくる前はたった一人で悪の組織から街を守っていた超人。でも、相当、無理をしていたらしく、なかば強引に魔法少女に引き込まれた。私が魔法少女になったのは彼女のせい…。いや、彼女のおかげである。


 かおり先輩あんたのおかげで純粋なほのかちゃんは記憶のかなたに消えていってしまったよ。


 魔法を目覚めさせるためとは言え、私を上空10000mから落下させたことは絶対に忘れない。マジで忘れない。おニューのスカートは空高く飛び去り、私はパンツを公衆の面前、公衆の上空で披露することになった。もうすぐあの日から一年か、感慨深いぜ。まったく。いつか!呪いを!かけてやる!!!


 でも、鍛えてくれてありがとう。豪快な彼女だが、魔法を使う姿は美しい。ビューティホー!氷の森の妖精のようだ。だが、教え方は超雑。


「しっ、しっ、しっ!魔力の上手な使い方だぁ?んなもん、ぐってこめて、ビュンばっ!つって、どばヒューン!!!な?簡単だろ」


 な、じゃないよ。わかるか、んなもんで。


「しゃあ、ねぇ。実践だ。しっしっし!軽くもんでやらぁ」


「え?揉むっきゅか?おっぱいをきゅか?しかないっきゅねぇ、手伝ってあげ、きゅ、冗談っきゅ!ほのかは揉むほど揉む胸なんかないっきゅでしょ。かおりに作ってもらえばいいきゅ、氷のおっぱいをっ!きゅ!やめて、氷の山を突き刺さないでっきゅうう!!」


 あ、余計なことを思い出してしまった。今は最終決戦の真っ只中。また、かおりちゃんにどつかれてしまう。セクハラまがいの発言をしていた見た目ぬいぐるみの妖精は真剣な表情だった。一発だけ殴って、戦いに意識をもどそう。込み上げていた怒りを発散しようとしていたが、眩い光に阻まれた。その光の元は緑色の魔法の炎だった。その炎は決して熱くなく、暖かな温度を感じさせ、戦いの最中にできた擦り傷や切り傷を癒していく。首を後ろに向けるともう一人の先輩魔法少女が刀に寄りかかりながら両手を広げ、治癒魔法をかけていた。彼女自身も深い傷を負いながらも、ほのかの体を癒やしてくれていた。


「ほのか殿、すまない、傷は応急処置しかできなかった」


「気にするなっきゅ、さくら。体力ゴリラのほのかには、回復魔法なんてもったいないッキュ!」


 ふわふわとした髪質の穏やかそうな子が申し訳なさそうに言う。この武士口調のギャップがすごいさくらちゃんはほのかの先輩でかおり先輩と同級生。二人は、はじめ敵対していたらしいんだけど、今では大親友。その仲を取り持ったのは、何を隠そうこのわたし。え?褒めてくれてもいいんだよ。


 めっちゃ優しい見た目なのに、刀を握ると一変するんだよな。こわかったよ。出会ったとき、刀に杖があたった際には、さや当てと勘違いされて殺されかけたっけ。この人の魔法は壊すことと治すことの両極端な炎の使い手。ある魔法集団の幹部だったんだけど、なんやかんやあって仲間に加わったの。いやあ、まさか、あの時、私の命を狙っていた刺客が私の傷の心配をしてくれるだなんてマジで驚きだよ。


「ほのか殿、魔法はイメージが大事なんだ。強い想いが強い魔法を生み出す。君のような珍しい魔法の使い手は見たことないが、どんな魔法も根っこは一緒だ。君ならできる」


 彼女がいなかったら私が魔法学園で生き残ることはできなかった。成績的な意味で。私の救いの天使。癒し系武士娘。なんか属性てんこ盛りだな。


「そうっきゅ!イメージをするっきゅ。例えばっきゅね。ほのかと違ってナイススタイルの美少女たちをはべらせて、ムフフなことをグヘヘっきゅ!ちょっと待つっきゅ!ほのか!さくらの刀を持ってどうするつもりっきゅか!!無理っきゅ!裂けちゃうっきゅ!綿が!綿が出ちゃうっきゅ!!」


 あ、また嫌なこと思い出した。すり潰そう。ヤツを。さくら先輩のおかげで少し身体が軽い。これなら渾身の力で相棒をすりつぶしてミンチにできる。


「ほのか殿、ボスのことを倒してくれ」


 さくら先輩はそう言い残すと、糸が切れたかのように光が消える。私のために魔力を使い切ってしまったのだろう。


「先輩っ!!」


「ちょっとほのか!!」


 崩れる身体をさっと助けたのは、爽やかスポーツ系女子のさきちゃんだ。私の同級生で、水の魔法を得意とする親友の一人だ。足元に水でできたスケートボードを魔法で作り出し、水を噴射して戦場を駆け回る。


「大丈夫っ。先輩!ほのかは、ほのかはやってくれますから。な、ほのか」


 巨大な敵から放たれる光弾からほのかやさくらを守るために水でできた結界を張り、確信を持ってつぶやく。巫女服だ!かわいいな!


 今でこそ寮で同室のさきちゃんがライバルの魔法少女として現れた時はほんとどうしようかと思ったけど、一緒にラーメン屋にいける仲になった。また、にんにくマシマシの店に行こう。彼女は町の由緒正しい神社の娘のさきちゃん。ボーイッシュな見た目だけど、出るところはガッツリ出ている。隠れ巨乳の女の子。そんな子が巫女服を着て、飛び回っているのだ。モテるのだ。


 実際、さっぱりとした性格。作る料理は絶品。バスケットボール部の若きエース。と、モテ要素がてんこ盛りの彼女は学園でも、女生徒たちが隠れファンクラブを作るほど。事情を知らない街の外の人間が、彼女に声をかけると何者かによって闇に葬られるとかいないとか。うん、わからなくもない。


 私が無事なのは、私がサキ様のペットとして、餌付けされているから。ファンクラブのメンバー談。え、私人間扱いされてないの?もしくはさきちゃんが餌付けしないと学園の食堂がいつになっても開かれないからということらしい。いや、私の扱いって何?化け物か何かなの?


 よし!腹が立ってきた、乳をもごう。いやいや違う。違う。てへ!いけない!心の声が駄々洩れだったわ。いつか乳がもげる呪いをかけよう。さきちゃんはさくら先輩を横にさせ、自身の使い魔である竜を守りにつかせて、飛び立つ。スケートボードでトリックを豪快に決めながら、叫ぶ。


「ほのか、この戦い勝ったら、私の料理。満漢全席、食べ放題だ!!気張っていくぞ!水よ。かの敵を打ち破れ、水大砲ウォータータンク!!」


 満漢全席!!前言撤回!!勝つぞ、この戦い!!さきちゃんは大事な親友。つまらない嫉妬で私たちの友情は壊れない。なにが、ラスボス。なにが世界の危機。ぶっ飛ばしてやらぁ!!


「グヘヘっきゅ。さきの胸がブルンブルっきゅ、ゴボボボ!!!」


 杖を振るい、さきちゃんの魔法の残滓を使って水の塊を作り、妖精に被せる。なに色目で私の親友を見てんだ、こら。


「そうだヨ、ほのかは負けないデース!」


「ごぼぼ、カレンの胸にはいつも負けてるッキュ!って溺れるっきゅ!ヘルプブグ、ブグウググ!!」


 金髪のスタイルのいい魔法少女が杖を振るって、さきちゃんへの攻撃を防ぐ。召喚されたのは大量の唐傘。彼女は、外国からの転校生、元気はつらつカレンちゃんだ。ナイスバディで正直うらやましい。ああ私の成長期は終わってしまったのか。いや希望を捨ててはいけない。揉めばでかくなる。腕立ても毎日している。豆乳だって毎日飲んでいる。彼氏がいないからセルフで揉みしだいているのに、まったく乳が大きくならないのはなぜ?WHY?OH MY Gush!!!カレンちゃんには勝てない。いや、マジ。最近ブラのサイズが大きくなってきたとか言ってたのは、聞こえない聞こえない。


 金髪ツインテールの彼女は創造魔法の使い手の帰国子女。どこの国かはなんかいつもごまかされて、はっきりしないんだけど。彼女はいろんなものを作り出すことができる魔法の使い手。杖一本と魔力があれば、爪楊枝から巨大な仏像も召喚できる。日本マニアの


「スーパーサイズガールっきゅ!え?どこが、スーパーサイズ?!ぐへへ、そんなこと言わせるなっきゅ、ごぺ!」


「セリフをとんな」


 誰と話してるんだよ誰と。どうやら水の牢獄から抜け出したぬいぐるみをゲンコツで黙らせる。


「ほのか、この戦いが終わったら、話したいことがありマス。私の秘密です。」


「いや、それ死亡フラグ」


「hahaha!私が死ぬことなんて無いデース。そんなフラグへし折って、フィアンセと結婚しマース」


「それも死亡フラグだよ」


 てへっとお茶目に舌を出す彼女は、真剣な顔になって私を見つめる。


「不可能を可能にしてください。ほのかあなたなら。もしかしたら、私を…」


「ん?カレンちゃん、どしたの」


「なんでも無いデース!さっさと敵さんたおしてBBQパーティーナイトでフィーバーデース!!そこの、悪の親分!!知ってますか?!日本の文化には素晴らしいものがありマース!」


 はるかに巨大な敵に対して、指をさしてカレンは叫ぶ。


想像魔法イマジネーションマジック!!大日本刀さむらいそーど!!」


 魔法陣と共にビルほどの長さほどある日本刀が召喚される。そのまま飛び出したカレンちゃんは日本刀を振り回し、横薙ぎに切り裂く!!


「セップーーーーーク!!ハラキーーーーーーリ!!」


「そんな文化じゃナイよ!!!」


「メイドフーーーーーーーク!!!!」


「どっから学んだ知識なのよ!!」


 轟音とともに悪の親玉が片膝をつく。


 いやいやツッコミしてる場合じゃない。別に登場人物紹介がめんどくさかったから一気に凝縮したわけではないのである。私ってこんな時でもいろいろ覚えているでしょ?後々に判明する私の魔法のための伏線なのだよ。っと含みを持たせて言ってみる。


 わたしは何で魔法少女をやっているのかと自分で不思議に思えるくらいの一般人。使える魔法もたったひとつしかない。でも、この町に引っ越してきてこの仲間たちや破魔町のみんなとふれあってきて、この町を人を守りたいなって本気で思ったんだよ。


「ぐるがああああああ」


 カレンちゃんの攻撃で深傷を負い、理性を失い暴走する悪の組織のボスに対して、杖を向ける。魔法国の神木から削り出したこの杖もボロボロになったなぁ。


「…」


 いや、べつにミッキュのケツから出てきた木の棒をそのまま使っているなんて言いたくないじゃん。ミッキュは御神木の分身だから、木。奴は木。ミッキュのおしりからずるりと引き抜いた魔法の杖とか言うよりも、御神木から削りだした杖って言った方がかっこいいじゃん。その方がよくない?


「ほのか、やるッキュよ!!」


 相棒の魔法生物、通称ミッキュが魔力を私に注ぎ込む。ちょいちょい失礼な口を挟んでる、憎めないやつ。緑のリスのような見た目をしているこいつのせいで、私のプライベートはめちゃくちゃに。かわいらしい男の子の声をしている割には、発言はおっさんのようなセクハラばかり、まぁ当然こちとら、女だもんで。その手のセクハラ発言には、武力をもってして返してやっている。


「貧乳の意地を見せてやるっきゅ!」


 この一年間苦楽を共にした、とてもとても大切な相棒だ。


「きゅ?!ぎゅぺ!ちょ、思ってることとやってる事違うくないっかッキュ!爪が顔面にくい込みゅ!」


 暴走を止めるためには、こいつをどこか違う場所に飛ばすしかない。ありったけの憎しみ…あ、めんご、魔力を込めよう。鷲掴みにしたミッキュを悪の組織のボスの方に投げつける。


「待ってっきゅ!いまこいつら?らって言ったきゅ?!敵は1人ッキュ!待って!待っ」


 振り上げた杖を振るう。優しく、激しく、強く、儚く…。集中する。

 魔法陣が杖から次々と生まれ、浮かび上がり、ほのかの周りを不規則に回っていく。私の魔法は記憶。出会った魔法を一度だけ使うことのできる魔法。今その全ての魔法を同時に発動する。氷の動物たちで、ボスの手下たちを追い立て、水の魔法で敵の逃げ道をなくす結界を張る。炎の魔法で魔力を回復して、再度、魔力を回復させる。


「超特大魔法、エクセレントギガンティックデリシャスほのかスペシャル!!!」

「技名馬鹿じゃないッキュか?!」


 カレンちゃんの巨大な日本刀を再び召喚し、今まで出会った魔法を全て込める。全ては一枚の手紙から始まった私の物語。驚きの連続だった魔法少女生活。学園で学び培った経験と技術。全ての魔法と奇跡とも言える私の運命に感謝と敬意と、ちょっとだけの恨みごとを混ぜてねがう。世界の平和を。運命の祝福を。


 出し惜しみはなしだ!!この町で会ってきた魔法という奇跡をこの一撃に叩き込む。静かに目を瞑り、思い出す。町の人たち、学園の学友たち、強敵達、大切な大切な仲間達・・・。そして、セクハラ害悪淫獣の相棒の顔。初めて出会った時のことを思い出す・・・。


「きゅ?君が僕の新しいパートナーキュか?ほのかっていうのかっきゅ!よろしくっきゅ、ほのかって、はっきり言わせてもらうけど貧相っきゅね!!あははっきゅ!もっとバインバインのボインボインのえっちな魅力の溢れるスーパーセクシーお姉さんがよかったきゅ!!」


 よし、私の殺意は満タンだ。心置きなく、放てるぜ。私の最大にして最後、全身全霊の全力魔法を!!


「ぶっっっっ飛べぇぇえええ!!!!!!」


 光が収束していき、魔法陣が縦に並ぶ。目を開け、狙いを定める。ミッキュとボスが1列に重なった!!魔法陣の中を巨大な日本刀が通過し、絶大なオーラを纏い、滅すべき標的にぶちあたたるようにぶっ放す!


「でゃああああああああああああーっ!!!!」


 渾身の力で、放った一撃は狙い通りに、激しい轟音と共に標的を捉える。


「ぐるがるぐるる《え?ワシの出番これだけ…?》ぐるぎゃああああああ」


「ちょまっ!ごめんきゅ!ごめっミギュあああああぁぁぁ」


 一筋の光が暗雲を切り裂き、諸悪の元凶となる悪の組織の親玉を貫いた。

 元凶が消え、彼の魔力によって作られた荒野も消滅する。尊い一匹の妖精の犠牲と共に。



「いやああああああ」


 魔力を全部使い果たしたため、足場を失い空中から自由落下して、破魔町へと墜落していく。


「ちょっとほのか!もっと後先考えなよ」


 さきちゃんが魔法のスケートボードに乗って言う。


「たすけてよ、さきちゃん!!」


「悪い。この魔法一人乗りなんだ」


 そんな!


「しっしっし!よくやったなほのか!」


 氷でできたタカに乗ったかおり先輩はさくら先輩と一緒だ。さくら先輩はいくらか回復したのか、疲れてはいても安堵した表情だった。


「センパーイ、私もその鳥にのせて下さいよ!全部の魔法のストックと魔力使い果たしたから、もうどうしようもないんですよ!!」


「あぁ、すまない、こちらも重量オーバーでよ!そうだ修行だ!グッとしてバッとしてビューンだ!!」


「あのかおり殿、それじゃあ伝わらないと」


 ああ、もう!!薄情な仲間たちを尻目にどんどん高度が下がっていく。眼前に広がる破魔町に太陽の光がさしこむ。

 わたし、この町を守れたかな。自分の身は守れないのに。


「あれ?カレンちゃんは?」


「あいつなら、余力あったから、1人でお先にあがりマースって言って帰ったぞ」


「ウソ?!って、やばいやばいヤバーイ!死ぬぅ!さきちゃーん、わたしが死んだらわたしのHDは中身を見ずに魔法で消し飛ばしてぇ!!」


 彼女の絶叫は空に響き渡る。


「ガッハッハッ!まったく、街ひとつ救ったってのに締まりがない連中だな」


 1人の魔女が落っこちてくる魔法少女たちを見ながら呆れて笑う。魔法学園の屋上に2人の姿。


「しょうがない。カレン。救ってやんな」


 赤髪の妙齢の美女たる学園長ともう1人。カレンの姿があった。


「学園長。あたしはもう魔力がありませーんデース!ワープ魔法使ってすっからかんなんデース」


「嘘こけ。ガッハッハッ。まぁいい、ちゃんと回収できたか?」


「もちろんデース」


 そう言って取り出したのはズタボロのぬいぐるみ。もとい、みっきゅだった。気絶しているようで息はあった。


「ガッハッハッ!依り代が無事ならまたもとの記憶のまま、復活できるな。御神体本体へのダメージもほぼないだろう」


「働かせすぎデース!わたしがいなかったら、確実に消滅してましたデース!」


「お前の創造、いや、想像魔法の『絶対に当たるが絶対に殺さない魔法』のおかげだな。余波で悪の組織のボスは消滅したが」


「ほのかが単純でよかったデース。これで、わたしの計画がまた1歩進んだデース。私、頑張りマシた!これは学園長主催のBBQパーリーを奮発してもらわないと困りマース!」


「は?ちょっと待て!知らんぞそんな話」


 慌てる学園長を尻目にカレンは空に魔法を放つ。


「いやぁあああああ!!!」


 絶叫しながら落ちてくる仲間を助けるために。


「さぁ、ほのか、次はわたしの番です。覚悟してください、ネ!」


 魔法少女の戦いはまだ始まったばかり。




 

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