1話 ごく普通の夢見る少女たち。

その日の朝は、賑やかに始まった。



「ねぇねぇ、真由美まゆみ聞いてよ!

ついに登録者50万人に突破したんだ!」」



おはようの挨拶もなく、

私の座っている席に駆け寄るなり、机をバンッと思いっきり叩いてそう言った。


本当は、驚いたことを訴えるなり怒るなりするところだろう。


でも



「え!?もう!?まだ3ヶ月くらいなのに!?

天莉あまりすごいじゃん!おめでとう!」



そんなことよりも、報告された内容の方が衝撃的だった。


私は天莉の手を取って大喜びをする。


天莉もにっこりと可愛らしい笑顔を作って笑ってお礼を言うと



「目標まではまだまだだけど…このままいけば認めてもらえそうかも!」



と嬉しそうに私に言った。



「絶対にいけるよ!

これは十分にって自慢できることだもん!」



私は頑張れ!という気持ちを込めて握っていた手をさらにギュッと強く握った。



彼女の名前は夢宮ゆめみや天莉あまり、高校2年生。


彼女は今、VTuberをやっている。


VTuberとは…簡単に説明すると、

動画サイトで3Dモデルやイラストを表示して、自分が喋って配信するあれのこと。


なぜそんなことをしているのかというと、親に才能を証明するためだ。


彼女の夢は声優。


高校卒業後の進路は声優専門学校に行きたいと交渉したところ

親の猛烈な反対を食らったらしい。


それでもごねた結果、

進路決定の3年夏までにすれば認めると言われたらしい。


そして考えた結果、動画配信サイトMeTubeでのチャンネル登録者数100万人を達成することで、それを証明することにした天莉。


その目標の半分、50万人を達成したことを教えてくれたっいうわけ。


絶対無理だって思ってたから、本当に驚きだ。


でも納得はできるかも。

天莉の声可愛いし、かわいいモデルを使えば、あっという間に人気も出るだろう



「いいな…羨まし…」



思わず口に出してしまい、慌てて手で口をふさぐ。


でも、これは私の本音だった。


実は私誠井まさい真由美まゆみの夢も声優で、今演劇部に所属している。


私は特に反対されていないから、専門学校にはいけるし、

その下準備として演技のスキルも磨いてきた。


でも…結果は出ていない。

だから結果が出た彼女を羨ましく思った。


でも、そんなふうに思うのは応援する友人としてよろしくない。

私は首を横に振ると、天莉に話を詳しく聞くことにした。



「どうやってここまで伸ばしたの?コツとかある?」


「なにも!ただひたすら毎日してたらあっという間だった!」



それが本当なんだとしたらすごい才能だ。


こういうのは毎日配信するのが大事という話はよく聞きはするけど、

それをやっても全然伸びないという話はごまんと聞く。


それをこの子はやりのけたのだ。

それだけで才能がある証拠なのだろう。


私がちょっと俯いて彼女の話を聞いていると、彼女は私の顔を覗く。


夢を知っている彼女は何か察したのだろう。



「真由美も声優になりたいんでしょ?やってみたら?」


と提案してきた。


「え、いいよ」


「なんで?私でもできたなら、真由美でもできると思うよ?」



天莉にそう言ってもらえるのはすごく嬉しいけど…

やりたくても私には多分無理だ。



「あ…もしかして恥ずかしい?

ダメだよ、プロになったらそういうこと言ってられないんだから慣れないと。」


「恥ずかしいって…これでも演劇部なんだし、恥なんてないよ。」


「じゃあなにが嫌なの?」


「PC苦手なの…文字打つとかはできるけど…ソフトのシステム設定とか…」



あの辺を触るとなんかいつもおかしくなって、データを消してしまう。

このITの技術が進む中、こんなんではだめなんだけど…


できないものはできない。


現に、ネットに落ちてる記事を見てやり方を見ても意味がわかんないし。


でも、そんな私を見て天莉はあっけらかんとして言う。



「あ、なーんだそういうこと。

別にPCなくてもできるよ、私もスマホだもん。」



「そうなの?」


「うん、操作もめっちゃ簡単なんだ〜」


そういうと、スマホでアプリを検索して私に画面を見せてくる。


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