第7話 008

「当然か。君は、俺に取り入る必要がない」

「……」

 そういう意味じゃなかったんだけど。

 でも、わたしがどんな言葉を探し出すよりも先に、王子はもう次の場所へと飛んでゆくんだ。

「ユイはいま、大聖堂の地下に居る」

「地下?」

 思いもしない単語が出てきたことに、わたしは思わず息を詰める。……ドルディーバの大聖堂に、地下なんてあったっけ。この街でのエピソードは正直、飛行艇の事故しか印象にない。

 てことは、ゲーム上ではさらっと過ぎた部分? 悪い状況……じゃ、ないよね……?

「飛行艇が使えなくなった代わりに、地下に設けられている水鏡を用いて、言わば遠隔操作で結界を修復中だ。消費する魔力の量もユイに掛かる負担も桁違いに大きなものになるが、あいつ自身がやると言い、実際にそれをこなしている」

「水鏡? 遠隔操作、って……」

「詳しい理論が知りたければ、城に戻ってからジークリードにでも教えを請え」

 専門外の人間ではとてもじゃないが説明出来ない、と断っておきながら、王子は淡々と言葉を続けた。

「大聖堂地下には魔力を満たした池のようなものがある。そこに任意の場所を映し出す秘術があるようだ、とは長らく考えられていたんだが、大聖堂は知らぬ間にその術を得ていたようだな。……王家に秘匿し続けていたことは、当然問題だ。とはいえ今は、あちらがそうした手の内を明かさずにいられないほどの非常事態だというのも事実だろう」

 処分は追って考える、と王子は呟く。それとともに思案げに睫毛を伏せた。その一瞬のうちに、彼の中の情報はまた新しく加えられ、こなすべきタスクも積まれてゆく。

 水鏡の秘術は、と言葉を継ぎながら、彼は眼差しを持ち上げた。

「術の規模としては、先の飛行艇のものよりもずっと大掛かりなものとなるらしい。そして聖女の特別な力を用いた時、鏡越しの場所に魔力による影響をもたらすことも可能だと」

「それで、いま……立塚さんは、結界の修復をしてるの?」

「そう報告を受けている」

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