第7話 006
「俺の失脚を狙う、と言えば言葉は優しいが、実際、手っ取り早いのは暗殺だ。あの船の連中は確かに殺しに来ていた。それで計画どおりに殺せるほどひと一人の命が容易いものかどうかはともかく、不慮の事故として何らかの怪我でも負わせられれば上等、という目算だったのは間違いない。……ノインの計画ではないと、俺も思う」
「でも、先生は……大聖堂側の人だったんだね。……王子が今日どこに居るか、その情報を渡したんだ」
「俺が君を迎えに出たことは、王城から連れて来た人間しか知らない」
「……うん」
それはそうだろうと、わたしも思う。
だって王子、一人だったから。
この人がお忍びでなく動こうとすれば、それこそこの白い帆船くらいの人員がいっしょに動くことになる。建前でも張りぼてでも、権威という盾はそのくらい大きい。
「具体的にはアレックス、ノイン、そしてラウールとジャンだ。ラウールとジャンにはこの船の指揮を執らせている。ノインは本来、大聖堂で患者の治療に当たっている予定だった」
「先生のこと……大聖堂の人たちは、助けないんだね」
「酷なことを言うが」
クラヴィス王子はいったん断ってから、わたしをまっすぐに見つめた。
「あちらにとって、ノインにはそこまでの価値がない」
「……」
わたしはただ、自分の中に彼の言葉が沈んでゆくのを待つだけ。それがどんなに残酷なことなのかを。
そうしてふと、『穢れ』に襲われる直前、二人が会話していたことを思い出す。
「ノイン先生と……どんな話をしたの?」
「何も」
「……何も?」
「あいつは俺の顔を見て、「こうなることはわかっていたのでしょう」と訊いた。そうだなと俺は答えた。それだけだ。互いの理解を確認しただけで、何も得ていない」
クラヴィス王子の声音は揺らぐことなく、いっそ穏やかに響くままだった。いつものように淡々と、彼は自身の中に蓄えた情報をなぞる。
「あいつがこの街でそちらに下ったか、それとも元々そちらの派閥と通じていたのかは、本人に訊かなければわからない。だが、どちらにしろあいつは俺のことが嫌いだった。道を違えるだけの動機などいくらでもあっただろうな」
「えっ」
「なんだ?」
場違いなほど大きな声を上げてしまったわたしに、クラヴィス王子はその冷静な瞳をひたと当ててくる。……本心から、どうしてわたしが驚いているのかわからない、って表情だった。
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