第7話 004

「王城内に、俺の失脚を目論む派閥がある」

「!」

 王城に?

 てっきりドルディーバの街の話をするんだと思って、わたしは頭の中に街の地図まで用意していたんだけれど……。街どころか、王国全体の話。

(っていうか)

 クラヴィス王子の失脚、ということは、彼から王位継承権を奪うということだ。次なる王と目されている、第一王子から。……それはおそらく、現在玉座に就いている王の意志にも反すること。

 いまのヴェンデルベルト王国への、強い反意とも取れる……。

「だが、そういった派閥があること自体は珍しい話でもない。どこの王族にも聞く話だろう」

「そう、だね」

 普通に頷いたつもりだったのに、声音が揺れる。

 正しく、リリステラは「そういう派閥」に「失脚させられた王族」。そして、唯一の生き残り……。王子が始めに難しい顔をしたのは、この話をすれば必ずリリステラの傷に触れることになる、と懸念したからなのかな。

 わたしの想像を裏付けるかのように、いま見合う王子の瞳には、そっとこちらを気遣うかのような影があった。

 優しい人。

 だけど同じくらい、厳しい立場に立つ人だ。

「この街が厄介なのは」

 クラヴィス王子は一つの瞬きで、緋色の瞳に浮かぶ心配の表情を消し去る。そこからはもう、わたしを慮るようすは見せなかった。……いまのわたしなら傷付くだけではない、と判断してくれたのかもしれないし、たとえ傷がひどく痛んでも役目を負ってくれなければ困る、と切り捨てたのかもしれない。

「そうした派閥の中心に立つ人物と大聖堂の司教が繋がっている、という点にある。つまり、聖堂の権威それ自体が俺の敵だ。このドルディーバの街において、もはや王制など建前上の張りぼて程度にしか機能していない」

「張りぼて……」

「こちらの顔を立てはするが、発した命令を聞く耳は持っていない」

 な、なるほど。

 強い影響力を持つ聖堂は、その土地の貴族とは密接に繋がっていることが多い、って大図書館の本で読んだ気がする。貴族がそちら側ということは、この街で商売をしている市民もそう。

 このドルディーバでは本当に、クラヴィス王子ほどの地位にあっても──むしろ、そんな立場だからこそ、血の繋がりのある公爵様しか信じられる相手がいないんだ。

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