第7話 003

「王子。結論だけ並べ立てられても、わたしはわかんない。最低限でいいから、説明して」

「……説明?」

 めっちゃきょとんとしたよこの人!

 頭良い人、自分がどれだけ頭良いかって自覚してないよね!

「あのね、これ言うのすごい情けないんだけど、わたしからあれこれ質問しても絶対ぜんぶ的外れだと思う。それよりも、王子が説明して。あなたの頭の中にある情報を、わたしにも教えて。とりあえずいま、必要なことから」

「……」

 クラヴィス王子はわずかに眉を寄せる。……たぶん、わたしの提案を検討してくれてる。そう信じる。

「殿下、よろしいでしょうか……!」

 じっと返答を待つ間に、騎士の一人が駆け寄った。ずいぶん余裕のない顔をした騎士は、王子から二、三の指示を仰いで、すぐに立ち去る。彼のみならず、船内はどこも慌ただしく張り詰めた空気だ。

 この帆船はまっすぐに港を目指している。港には、馬車の手配もすでにあるはずだった。

「リリステラ」

「!」

 再びわたしの姿を映すクラヴィス王子の瞳には、静かな光。

 通じた。それが、わかった。

「こちらへ。……さすがに、廊下では「説明」しかねる」

 王子は衣服の胸元から鍵の束を取り出したと思うと、その一つを使って、船室の扉を開ける。

 ごく自然な手振りでエスコートされて踏み入った室内は、小ぶりな応接室みたいだった。丸テーブルと、いくつかのソファ。察するに、このあたりは宿泊用の船室が並ぶ区画ではないんだろう。

 わたしは勧められるまま、一人掛け用の猫脚ソファに腰を下ろす。ちょうど真向かいに置かれた同じ形のソファには、王子が座った。

「茶の一杯も用意出来ないが」

「そんなの気にしないよ」

 たぶんいま王子には、わざわざ人を呼んで、お茶を淹れさせて……なんて呑気な時間はない。いつ見掛けても騎士を必ず連れている人なのに、こうして単独で行動しているくらいなんだから。

 限られた人員で、ぎりぎりの綱渡り。

 その「限られた一人」に、わたしもなれと言われてるんだ。

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