第6話 013

 クラヴィス王子の左手の指に嵌まるオニキスの指輪が、その形態を大きく変えていた。あれは、魔術を使う時のかたち。手首までを覆うガントレットみたいな……。

 彼はそれを中空へ掲げる。

 もちろん、次に放つ魔弾のためだ。

 まっすぐ敵へと向けられている眼差しは、もはや有象無象の魔術師たちではなく、たった一人の首謀者の顔を見抜いているみたいだった。

 唇が動く。

 一瞬呪文の詠唱かと思ったけれど、──どうやら違う。

 ノイン。

 そう、見えた。

(ノイン先生……?)

 嘘。

 でも。

 王子は左腕を強く振り下ろし、それとともに短い詠唱をする。どう、と強く空気を裂いて、仄暗い炎が放たれてゆく。

 炎の魔弾とほぼ同時に、王子自身も、黒の魔方陣ごと相手の船へ向かった。暗赤色の魔弾はいくつもの敵の陣を潰し、ついでに甲板に立つ魔術師たちのほとんどをも薙ぎ倒して、虚空へと消滅する。

 そしてその頃には、剣を抜いたクラヴィス王子本人が、ひときわ厳しく光る刃でもって一人の人物を打ち伏せようとしていた。

 大きく広がった、赤と黒のマント。それが一度、相手の顔を隠す。でもすぐに、また見える。見えてしまう。

 ──相手方の騎士が危うく王子の剣を止めてみせる。

 それでも。

 いまこの瞬間、クラヴィス王子の正面に立っているのは──確かに、ノイン先生だったんだ。

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