第6話 004
「死ななくて……っ残念、だったのは、わたしもだよ。死んじゃいたかったよ!! そうしたら、こんな思いし、しなかっ……」
大きく、大きく胸が震えて、声が潰れる。どうして。言葉ひとつ、自由にならない。
わたしには──自分の心を叫ぶ力すら、ないの。
だから見捨てられたの?
最初からもっと、大きな影響力があって。誰にも軽んじられたり、嫌われたりしない……例えばそう、立塚さんみたいな。
(わたしが)
聖女様ではないから、簡単に死ぬことを望まれるの。ねえ、どうして? わたしの何がいけなかったの。
「リリステラ……、聞いてくれ」
王子の声に、わたしは反射的に首を振る。なにも聞かない。聞きたくない。
──どうせ、わたしを傷つける。
いまさら何を言っても、時は戻らない。……どんな言葉も、あの現実を覆しはしない。
(落ちてゆくのを、眺めてた……)
こんなふうに生き延びたりしないで、あのまま死んでいた方が、きっとあなたは笑ってくれたんだ。
「リリステラ」
クラヴィス王子は階段の下に膝を着き、わたしをそっと見つめ上げる。その赤い瞳には、どうしてか痛みが浮かんでいるみたいだった。
「俺は──君には、精霊の加護があるんだと思っていた。……大図書館の本棚の上から、羽を持って降りてきた時のように」
羽?
なんの話を、してるの……。
「かつての大魔法使いマーロウも、大図書館の中を自在に飛び回っていたと言う。だから──フェイゼルキアの民の背には、常人には見えない羽があるのだろうと、そう勘違いをしたんだ。すまなかった」
王子は指先まできれいに揃えた片手を胸元に当て、その頭を垂れてみせる。ごく正式な形の、礼。謝罪の。
「心からの詫びを申し上げる」
わたしが、祭壇の崩落に巻き込まれても……精霊の加護によって得た羽で、舞台の上まであっけらかんと飛んで戻ってくると、そう思ったの?
(殺しても死なないって、そう言われてるみたい……)
やっぱり、謝罪なんか要らないよ。
なんにも要らない。
もういいや。
どうでもいい。
だって死ななかった。また、生きてしまったの。
わたしはぜんぶ投げ出すみたいに、大きな泣き声を上げた。うええと、不器用な子供さながらに。……だってもうそれだけが、わたし自身を救う、わたしのための声だったんだ。
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