第5話 005




 飛行艇の前方。

 なにかきらきらするものがあるな、とふと気付けば、あれが件の結界らしかった。

「そろそろですね」

 わたしと同じようにじっと行く先の空を見つめながら、聖女様はひとり祭壇に立つ。

 身の丈よりもうんと長い白銀の杖が、その手に握られていた。

 白いドレスを纏った背中の華奢さは変わらないのに、なびく髪の先まで淡く発光するかのような、凜とした清らかさが彼女を包む。

 祭壇の手前では、司祭様を中央に、助祭さんたちがずらりと並んで半円の陣を組んでいた。彼らは、これから結界の修復を試みる立塚さんのサポート係。

 ドルディーバでは数年に一度、結界補修のために行う儀式がある。今回のこれは、その儀式の簡易バージョン、という感じらしかった。

(精霊が……居るわけでは、ないんだ)

 飛行艇の本当に目と鼻の先にまで迫ってきた結界は、わたしの目には、細い細い糸を複雑な紋様に編み上げているかのように見える。それを幾重にも幾重にも──気の遠くなるくらいの数、重ね続けていて、「壁」を成しているんだ。

 向こう側の空の色すら覆い尽くす厚みは、圧巻。けれど、ここにあるのは、例えばコンクリートを打ち立てたみたいな単なる「巨大な物体」じゃない。

(これを)

(修復、するの?)

 どうやって?

 ゆっくりゆっくり細かな位置調整を続けていた飛行艇がいよいよ破損箇所へ臨むようになると、助祭さんの一団の中でも後方の部隊が一斉に魔力を放ち、守護壁を構築する。祭壇の手前に築かれるそれは、『穢れ』からわたしたちを守るための壁。

 そこに立塚さんは含まれない。

 ──どんな目的があろうと、結界と彼女の間に挟まれる他者の魔力は、邪魔になる。

 あらかじめ自身で申告していたとおり、騎士アレクシスもぎりぎり守護壁の外側に立っていた。もし『穢れ』がこちらへ流れ込んだ時には、力尽くで聖女様を守護壁内へ引きずり込むのが彼の仕事だ。

 クラヴィス王子は、守護壁を隔ててはいるものの、アレクシスのすぐ隣。もちろん、王子は最初、自身もアレクシスと同じ場所に立つつもりでいたみたいなんだけど……周囲からの強い反対に応じて、渋々の安全地帯入りだった。

 ノイン先生は、わたしと同じ位置。助祭さんの一団よりもさらに後ろ。有り体に言うと、いちばん後ろ。……わたしは無理言って乗り込んだ部外者だし、ノイン先生の仕事があるとしたら、誰かが『穢れ』に触れてしまった後。どちらも状況を見守るしかない立場だから、わざわざ前線に割り入ってゆく必要はなかった。

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