第5話 004

 そうして一度閉じた瞼を持ち上げ直せば、すぐ間近に見える立塚さんの頬にはほのかな赤み。呼吸もずっと安定しているように聞こえた。

「え……、急に、すごく楽になりました……。これ、リリステラさんの力? ですか?」

「わたくしの力ではありません。聖女様のお力になりたいと願った精霊が居るのですわ。わたくしは、彼の望みが叶うよう、ほんの少し力添えしただけですの」

「精霊……」

 何が起きたのかわからない、という表情で呟いた立塚さんは、すぐにはっと視線を巡らせて相棒の姿を探す。いつもそこに浮いているんだろう、左右の肩口を確認した後、自分の脇に落っこちているライオンをちゃんと見つけ出してた。

「レオ……っ、わたしに魔力をくれちゃったの!?」

「……うるせえ、騒ぐな。こんなもん、オレ様にかかれば朝飯前……」

 ぎゃいのぎゃいのとやり合う光景は、(傍目には聖女様の盛大なひとり言状態であることを除けば)とても微笑ましい。

 ひとまず良かった、かな……。

 ほっとした気持ちで、わたしはドレス越しの膝を上げようとする。そこへすっと差し出されてきたのは、青い隊服を纏う男性の手。アレクシスだ。

「ありがとう」

 わたしが心遣いを受け入れれば、騎士はその強い力で支えながら立ち上がらせてくれた。そして同時に、彼らしい率直な言葉を紡ぐ。

「こちらこそ、礼を申し上げる。……彼女の笑顔を、ようやく見られた」

「ふふ。可憐なお花のようですわね」

 アレクシスやクラヴィス王子は、たぶんもう聖女様が見えない精霊と話すようすくらい慣れっこなんだろう。アレクシスが瞳を細めて見守る先には、レオになにかの実(?)を食べさせようとしている立塚さんの姿がある。伸びやかな笑い声を上げる彼女の表情は、大好きなペットと戯れる女子高生のそれだ。

 あんなふうに笑って元気にしていてくれたら、安心する。そんな気持ち、わたしも初めて抱くかもしれない。……一人っ子だったし、どちらかと言えば、後輩よりも先輩と仲良くなっちゃうタイプだったし。

 そういえば、立塚さんとは実年齢で六つくらい違うんだよね……。

(そりゃ可愛いはずだ)

 わたしの中に五年分の記憶は存在していないのに、もはや一個下だという感覚は持てない。うんと歳下の、とっても一生懸命な女の子。そう見えてきてしまうのだから、人間の意識って本当に不思議なものだった。

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