第4話 013
(というか結局、日記を最後まで読んでもパスワードのヒントはなかったし……)
まあ、それはそうだよね、とは思った。うん。パスワード保管の基本だよね。うん……。
『あの方からの手紙に書かれていた時刻は、深夜、日付の変わる頃。手紙には魔法が掛けられていました。受取手が読み終えると燃え上がって灰になる、おなじみの魔法です。わたくしはこの呼び出しに応じないわけにはいかないでしょう。もし、わたくしが無事に戻れたなら、』
リリステラの最期の文章は、そんなふう。
──戻れたなら?
どうするつもりだったんだろう。……それはもう誰にも、永遠に、わからない。
『俺に二言はない。アレックス、おまえはそれをよく知っているはずだろ』
『だが……どんな大義名分を掲げたところで、やることは暗殺だ』
人殺しなんだ、と重たく響いてた、騎士アレクシスの声。
ドルディーバを目指す前に聞いた、クラヴィス王子とアレクシスの会話。大図書館の静謐な空気を、不穏に揺らしてた……。
(まさか王子が、リリステラ暗殺の首謀者?)
うーん。
そう、かなあ……?
あんまりにもあからさま過ぎて、逆に潔白を感じてしまうんだけど……。
(ミスリード狙ってそう)
こういう時ってだいたい、主人公の単なる聞き間違いだったとか、前後にちょっと違う文節があって、実はぜんぜん違う人について話してました、とか。いかにも怪しいと思わせておいて真相は別のところにある、っていうのは、ありがちな引っ掛けだよね。
(と、いうかそれよりも)
(いまはまず、明日のこと!)
もちろん、犯人捜しも重要。
……重要、なんて言いつつ、わたしは大図書館通いに夢中になっちゃってたけど。
でも、明日ばかりは蚊帳の外にいるわけにはいかない。
そう──よくよく思い返したら、このドルディーバでの最初の試練、バッドエンドがあるんだった。
(びっくりするくらい、あっけなく死んじゃうんだよね。
だからわたしは何としても、聖女様といっしょに飛行艇に乗らなくちゃ。
ぱたりと日記帳を閉じて、いつもの鍵が掛かるのを見届けてから、わたしは一人決意に唇を引き結ぶ。……うん。正直なところを言えば、立塚さんと三人の攻略対象はすでにかなり親しくなってるだろうし、その輪に割って入らなくちゃいけないこの立場、かなりアウェイでしんどいんだけど。
でも。
『あの時、わたしたちは「おんなじ」だったんです』
いつかの庭園でのランチ。わたしが泣き出してしまった時に、ぎゅっと手を握ってくれた立塚さんのあたたかな優しさを覚えてる。
彼女がバッドエンド──死んでしまうかもしれない可能性もあるのに、傍観なんてしてられない。
(リリステラ)
(貴女の強さを、ちょっとだけ貸してね)
大丈夫。わたしは頑張れる。
明日はうんと早起きして、司教様の別邸とやらに押しかけてやりますわよ!
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