第4話 007
……でも、そう。
軽い体調不良とかならともかく、聖女様は極度の疲労で昏倒してしまったのだから、人と会う余裕なんてないのは本当の話だ。
わたしの同情なんて必要ない、っていうのも、いたってそのままの事実。
ユイの部屋には護衛と御用聞きを兼ねてアレクシスがずっと付いている、って王子も話したくらいだし、それはそれは手厚く看護されてるんだろうって想像出来る。もちろん、侍女のマリエ、精霊のレオもいっしょに居るだろうし、たとえ他にどれだけ大勢の患者を抱えていたとしても、ノイン先生は必ず往診するはず。……この世界で最初に迎えた朝、わたしの元にやって来てくれたみたいに──むしろ、それ以上に細やかに。
(あとはもちろん、王子もね)
なにせみんなは同じお屋敷──司教様の別邸に、まとめてお世話になるんだから。
一方のわたし。
こんな時だけ『王子の婚約者』という立場を尊重されてしまうわたしは、ドルディーバ滞在中、クラヴィス王子の大叔父様にあたるという貴族のお屋敷に部屋を貰うことになった、らしい。
「なるべく丁重にもてなしてやってくれ。よろしく頼む」
わたし一人と、旅行鞄。クラヴィス王子は御自らそのお屋敷まで連れて来てくれた後、出迎えた家令にそう告げた。そうしてすぐさま、聖堂へ取って返す。
「もし君の力を借りる必要があれば、明日には連絡を寄越す」
わたしへは、そんな一言を残しただけ。
家令さんはわたしに一人の侍女を紹介してくれたけれど、それ以降、ぱたりと姿を見せなくなった。家令ですらそうなのだから、もちろんお屋敷の主人たる公爵様はその気配すら感じられない。
「ミラと申します、どうぞよろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げた侍女は、とってもにこやかで親切。
まずいちばんに美味しい紅茶とお菓子を出してくれ、わたしの長旅を心細やかに労ってくれたと思えば、わたしを迎え入れる一室にたくさんの花を活けていてくれたりと、なんだか申し訳ないくらいの優しさでもてなしてくれる。
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