第4話 006




 王城を出立してから三日目の夜。

 王子の元へ、アレクシスからの一報が届いた。立塚さんが結界の修復作業を始めていること。破れた箇所から流れ込む『穢れ』を浴びてしまった患者の治療には、ノイン先生が当たっていること。……夕食の席にもたらされた報告は他にもたくさんあったけれど、わたしの耳に重要だったのはその二つだけ。

(ノイン先生が同行者?)

(と、言うことは……)

 四日目の昼前には、馬車はようやくドルディーバの高台に位置する大聖堂へと到着した。

 外から馬車の扉が開かれると、まず降りるのはわたし。出迎えの騎士の手を借りてタラップを降りながら、つい視線を巡らしてみるけれど、残念ながら海は見えない。大陸一の規模を持つ大聖堂の敷地は、その周囲をぐるりと樹木や塀に囲われているんだ。

「クラヴィス王子、ご足労感謝いたします」

 馬車の前には、青い隊服に身を包んだ騎士、暗い色のローブに緑の刺繍を入れた魔術師、それからよく似たローブにこちらは紫色の刺繍を持つ魔法士がずらりと揃う。彼らが心待ちにしていたのは、当然、クラヴィス王子の姿。

 わたしに次いで馬車を降りた彼の周りには、あっという間に人垣が出来てしまう。

「無駄な挨拶は省略しろ。状況は?」

「それが……」

 言いづらそうに眉を寄せた一人の報告は、──「聖女様が倒れた」、というもの。

(ああ、やっぱり)

 わたしは自分の心配が的中してしまったことを知るけれど、だからと言って出来ることは何もない。

 せめてもとお見舞いを申し出てみたものの、それはきっぱりとクラヴィス王子から却下された。

「ユイは君の相手をしている余裕はない。彼女に余計な心労を掛けるな」

「まあ……」

 なんて言い草なの。

 わたしの行動を逐一監視させてたのなら、王子もよおくご存知のはず。

 最初の庭園ランチ以降、立塚さんからはわりとしょっちゅうランチのお誘いがある。わたしたちはもう立派なお友達なのですが!

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