第4話 004

(聖女様の同行者、どっちなんだろう)

 クラヴィス王子と騎士アレクシスを除けば、残る攻略対象はノイン先生とジークリード。

 もしジークリードが彼女の視察に同行していたとしたら、彼の確かな魔術は聖女様を補佐することが出来る。

 でもノイン先生だった場合、立塚さんは一人で戦うことになってしまう。

(分岐って、確かそのくらいだったはず)

 南の街ドルディーバへと至るこの展開は、言わば『聖女プレイヤーに待ち受ける最初の試練』。それまでにいったん誰かのルートに入っていたとしても、お構いなしで差し挟まれる共通のエピソード。

 例えば立塚さんがクラヴィス王子との仲を深めていたとしたって、ドルディーバに同行するのは王子にはならない。アレクシスもそう。そしてノイン先生かジークリード、どちらになるかのフラグは、序盤の晩餐会での些細な選択肢にあるんだけど……って、セーブもロードもないこの世界でそんなこと、思い返すだけ無駄だなあ……。

(飛行機どころか車もないって、すごいもどかしい)

 気持ちだけがじりじりと焦るけれど、わたしたちの旅路は順調そのもの。

 馬車は問題なくぐんぐんと走って、そうして日暮れには、その街の有力者──名のある貴族の屋敷に宿を求める。

 さすがに「この旅は呑気な観光ではない」というお達しは通されているようで、たくさんの人を招いて『王子様御一行歓迎パーティー』なんてものが開かれたりはしないけれど、出迎えてくれる一家は普段着ではあり得ないほど着飾っていたり、これでもかと豪勢な料理を振る舞ってくれたりと、充分に仰々しい。

 でも、そんなふうに奥様や娘たちのドレスがきらびやかなことくらい、可愛いものだった。

「クラヴィス王子殿下に、是非お目通りしたいと申しておりまして……」

 食後のお茶を楽しむサロン。火急の話し合いがあると人払いをして、今しもドルディーバの地図を開くところだったクラヴィス王子は、揉み手をしながら現れた一家の主たる子爵にそう請われてしまう。

 それどころじゃない、と撥ね除けるのはきっと簡単。だけど……そうしてしまうと、後々に禍根が残る。

「ハルント男爵には以前、王城のパーティーにてご挨拶をいただいたことがありますね。立派なブドウ畑をお持ちとか。そのお話を詳しく伺いたいと私も思っていたところです」

 王子は誰の目にも完璧な笑顔を見せ、ほっと息を吐く子爵を促しながら、サロンを出て行った。

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