第4話 003

 ヴェンデルベルト王国の南端──同時にそれは大陸の南端でもある──、港町ドルディーバ。

 そこで起きたのは、結界の破損だった。

『穢れ』は南からやってくる。

 大陸全域を護るため、ヴェンデルベルト王国はその昔、ドルディーバに結界を築いた。とても大きくて強い結界。それはマーロウ様の功績の一つでもあるんだけど。

 ずっとずっと南の海、ドルディーバから出る定期船や貨物船の航路よりうんと外側に、見えない壁がある。不可視の魔力を集めて固めて造り上げた「壁」。

 どうしても年月とともに弱まってきてしまうその「壁」を、何年かに一度、ドルディーバの大聖堂が主導して行う儀式によって補強していたんだ。

 前回の儀式は、ほんの数ヶ月前。

 言わば、新しい魔力もたっぷりと注いでぴかぴかの結界。もちろん、それは決して破れるような状態じゃなかった。

 なのにある日突然、あっけなく、その一部が破れてしまう。

 一部……とは言え、この百年頑として綻びることのなかった結界だから、ドルディーバの街も聖堂も大騒ぎ。

 もちろん、その事態は緊急の危機として王城へも伝えられた。

 ──そして、偶然ドルディーバの近くの街に視察に来ていた、聖女様にも。

(立塚さん、大丈夫かな……)

 ゲームのストーリーでは、結界が破れた理由を「『穢れ』が増えつつあるから」としてた。……ずいぶんざっくりだけど、それはつまり王国は『穢れ』に侵されつつある、ということ。

 結界が破れたことも一大事。

 でも、何よりの急務は、その綻びを修復すること。

 わたしを含むクラヴィス王子一行はもちろん、早馬に乗ったアレクシスよりも先に、聖女様は港町ドルディーバに着く。そして彼女は、聖堂の司教様に「どうかお力をお貸しください」と頼み込まれることになるんだ。

 立塚さんは『穢れ』を祓うためにこの世界に召喚された聖女様。

 だからこそ、それを断れはしない。

(でも……)

 まだ十代の女の子なのに。

 彼女がこの世界で発揮する力は、確かに強い。『聖なる光』なんて呼ばれて、有り難がられているくらい。けれど、所詮は人間の持つ力。神様みたいに万能だったりはしない。

 それでも、人々は『奇跡』を期待してしまう。

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