第3話 009
何のために、足繁く図書館へ通っていたのか。
それは、この世界を学ぶため。
ヴェンデルベルト王国は大きな国だけど、歴史的に見ても非情な国じゃない。もちろん、戦争で領土を広げてきたのは確か。でも争いが決すれば、きちんと剣を納めて話し合いの場を設けてきた。そうして、周辺国からの信頼を得てきたんだ。
いかにリリステラがクラヴィス王子に嫌われているとはいえ、個人の感情と国家の行動は別。ひとたびフェイゼルキアへ戻れば即刻処刑の運命を免れられないリリステラを、人道に反してまで強制送還することはないはず。
──だとしたら。
(わたしの、目指す道は)
「リリステラ様。もし可能なら……王子の旅に同行してくれませんか」
「えっ?」
ふいに呼び掛けられ、わたしは自分の意識を目の前に戻す。声は騎士アレクシスのもの。見れば、彼は数歩ほどこちらへ歩み出している。青の隊服に白いブーツ。煌びやかな鞘に納めた剣まで佩いて、それはもうどこにも隙のない、立派な騎士様。
だけど。
月下の湖面のような青い瞳は、まるでその夜空の月を見失ったかのよう。ひどく暗く沈んで、不安の波に揺れている。……どうしてか、迷子の子供を思った。
「何を言うつもりだ、アレックス!」
すかさず放たれた王子の叱責は、大図書館の静謐な空気をびいんと震わせた。人の声音は鞭のようにしなって誰かを打つこともあるのだと、初めて実感する。
クラヴィス王子は本当に、『王子』なんだ。
必ず人の上に立つべく育てられ、自らも研鑽した、王の子。
でも、違う。
わたしは忘れちゃだめだった。
これがいま、誰のルートかはわからない。けれど、確かに『穢れ』という言葉が出てた。それは、聖女様がその聖なる光によって討ち滅ぼすべきもの。
この国を侵し始めている『穢れ』を払うために、聖女様こと立塚さんはここへ召喚された。
彼女は今日までの日々の中、四人の攻略対象と交流しながらも、『穢れ』に対抗するべくずっと修行をしていたはず。『聖なる光』を高めて、魔法や魔術のように操る。そのために。
そんな彼女に訪れる試練。
それは王都から遠く南へ下る街で起きてしまった、とある事故──。
「お話を伺わせて頂きますわ、アレクシス様」
わたしはアレクシスの瞳を見上げて問う。確信があった。『聖なる光』を魔法や魔術のように行使する、と言うのなら、そこに必要なのはやっぱり精霊たちの力。
彼らは見えなくてもそこに居る。聞こえなくても、話してる。
だから。
「わたくしのフェイゼルキアの民としての力を、きっとお求めになられているのですわね?」
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