第3話 003

『人間はみんな魔力を持って生まれてくるけど、それを「使う」時、必ず精霊がお手伝いしてるんだよ。姿が見えなくても、話せなくても。絶対、必ずなの』

 たとえばジークリードのように大きな魔術を使える人は、本人ですら知らないまま、高位の精霊を味方に付けていることが普通。

 めちゃくちゃ日本の感覚で言ってしまうと、守護霊、っていう感じかも。

 そしてフェイゼルキアの人たちは、いわば霊能者。

 ……とはいえ、そんなふうに特定の人間に付いている『守護霊』状態の精霊を目視するには、相応の修行というか研鑽が必要で、『リリステラ』はその手の特殊な技能は得ていなかったみたい。

 実際わたしも、ジークリードにどんな精霊が付いているかなんてわからないわけだしね。

(ジークリードだけじゃなくて、クラヴィス王子も強い魔術を使うけど……)

 ゲーム中盤あたりのスチルを思い出して、わたしはちょっとだけ複雑な溜息を吐く。……ああいう格好良い姿、この世界で見ることが出来るのはわたしじゃない。

 立塚さんだ。

 いま現在のリリステラは、びっくりするくらいゲームのストーリーとは関わりがないところで生きてる。完全に、蚊帳の外。

「リリ、難しいの? マーロウのお仕事なら、たくさん自慢されたからわたしも知ってるよ! お話しようか?」

「おお、あやつか。あやつは話し好きの男じゃったのう。中でも、自分の功績を並べ立ててみせることが大の気に入りじゃった」

「いけ好かない男よねえ。話も長いし。良いところと言えば、わたくしたちにこの場所と仕事を与えてくれたことだけ……」

「──まちください、殿下!」

 ふいに、下方から強い声音が届く。前後して、大図書館の扉がすごい勢いで開かれた。硬い靴音がいくつも傾れ込む。

(殿下?)

 わたしももちろん驚いたけれど、繊細な精霊たちはもっとぎょっとしてしまったみたい。みんなびっくり眼になって、にぎやかなはずのお話をぴたりと止めてた。

「待て? 待てとはどういう意味だ。──アレックス、地図をここに」

「御意」

 アレックスは、アレクシスの愛称。

 そして響いてくる声音は、確かにクラヴィス王子と騎士アレクシスのものだ。二人のほかにも幾人か居て、それぞれの声が忙しく交差する。

「報告があったのは、このあたりかと」

「さほど遠くないな。早馬を用意させろ。二日で行く」

「殿下! なりません、あまりにも危険です!」

「うるさい。危険だ危険だと手をこまねいているうちに、いずれ我が国は致命傷を負う。『穢れ』がどれほどの脅威か、知らぬわけではないだろう」

「だからこそ進言するのです! 殿下、どうかまずは偵察の者を差し向けてください。御自ら危地へ向かわれるなど……!」

(待って)

(これ、なんの話?)

 王子が危険な場所へ向かう……。そういうエピソードは確かにあった気がする。でも、これって誰のルート? もしクラヴィス王子のルートだったら相当終盤だし、それ以外だったら……。思い出そうとするのに、心臓の動悸が変に激しくて頭がまとまらない。

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